ブログ

誰もがしあわせになる方法を「姿勢」から伝えたい

『未来を歩く姿勢学』『オトコの姿勢学』教授 / 篠田洋江さん

篠田洋江さんが教授を務める『未来を歩く姿勢学』は、2017年現在で7年もつづく自由大学でも人気の高い講義です。篠田さんは自由大学以外にも、全国各地に呼ばれては姿勢やウォーキングを9000人以上にレクチャーしてきました。姿勢を整えることや歩き方を変えることは、人生にどんな効果をもたらすのでしょうか? 篠田さんの今後のビジョンや講義への思いについてのお話を伺いながら、講義の人気の秘密を探りました。


 

-さっそくですが、きれいな姿勢を保つコツをひとつ、教えていただけませんか。

男性も女性も、鎖骨をしっかり開いて、背骨をまっすぐにします。「女のしあわせはデコルテから、男のやる気は背中から」と講義でも伝えています。ぜひ意識してみてください。孟子の言葉に「面にあらわれ背にあふる」という言葉があります。本当のその人の徳や実力、リーダーシップをみるには背中を見なさいという意味です。

 

-『未来を歩く姿勢学』以外に、『オトコの姿勢学』も開講されてますよね。男女で講義を分けている理由は何ですか?

基本的に歩き方そのものに、男女で大きな差はありません。ただ、女性はハイヒールの歩き方を学ぶなど、靴による違いがあります。また、男性と女性では目指すものが異なるんです。女性は「かわいくて、かっこよくて、でもキュートに歩きたい」つまり「自分を表現したい、多面的な自分を周りに知ってもらいたい」という希望があります。一方、男性は「自分のいる社会の中で、どのような自分だと理解してもらいたいか」またそれにより「仕事がスムーズに運ぶことが重要」という目的を持つ傾向があります。これにより講義でのフィードバックが違ってくるので別々で行ってます。それに男性と女性が一緒に講義を行うと、多くの場合、男性が女性に合わせてゆっくり歩いてしまうんですよ(笑)。

 

 

立ち方、歩き方、表情。意識して歩く姿をつくっていく

 

-男性って優しいんですね(笑)。ところで、篠田さんはなぜ、ウォーキング講師という道を選ばれたのでしょう。

会社員だったころ、仕事帰りにショーウィンドウに映った人を何気なく見ていたんです。前のめりに背を倒して歩いている人がいて「おや、性格のキツそうなおばさんが歩いているな……」と思ったら、それがわたしだったんです。思っていた自分とまったく違う姿だったことにショックを受け、立ち居振る舞いを学べる講座に足を運びました。お辞儀や名刺の渡し方などビジネスマナー全般を教えてもらうのですが、そのカリキュラムにウォーキングがあり、「歩くってとても気持ちがいいんだな」と感じたんです。講師を目指したわけではないのですが、歩きたいがあまり、ウォーキング講師の養成講座にまで通いました。それが今につながっています。

 

-立ち居振る舞いの講座を受けたことで、新しい発見はありましたか。

キレイな歩き方は「しな」をつくることではないと知りました。また、歩きは体全体を使う運動で、丹田や体の筋肉をうまく使わないと美しくは振る舞えません。その点では、男女差がないことも自分の感性にフィットしました。

知人の理学療法士によると「健康的な歩き方」という概念は、実はないのだそう。ケガをした人が、その部位をかばうように体を斜めにして歩いていたとしても、それはその人の状態にとって、自然でバランスがとれた歩き方なんです。だから、ウォーキングにもいろいろな流派があるけれど、本当の歩き方ってただひとつ、「前に足を出す」それだけ(笑)。

 

-篠田さんの講義は、単に「美しい歩き方が学べる」という内容ではなさそうですね。歩き方を通じて、何を学べるのでしょう。

手を上にあげるという仕草を思い浮かべてください。「まっすぐすばやく上にあげる」のが最短最速のあげ方ですが、人によっては「ゆっくりとあげるのが好み」という人もいますよね。「手のひらをヒラヒラとさせながら、空気を柔らかく掻くようにあげるのが心地よい」という人もいるかもしれない。「どうやって」上にあげるか、その「どうやって」の余白の部分、一見無駄に見えるその部分にこそ、その人のキャラクターが出るものなんです。「手があがっている」「あそこまで歩く」という到達点は同じでも、そこに至るまでにどんな見せ方が自分らしいのか。その部分をわたしはプロとしてサポートしていきます。

 

「どう歩くのか」の表現力を鍛えて、自分の理想に近づいていく

 

-講義では別人格をつくるために受講生に「あだ名」をつけるそうですね。

自分の中にはあるものの、会社でも自宅でも出していない「自分」を表現できる方法として、あだ名を使っています。例えば、仕事では「篠田さん」プライベートでは「ヒロちゃん」と呼ばれているとします。するとその呼び方をされたときに、そこに伴った社会性に自分自身が囚われてしまうことがあるんです。講義の場には知らない者同士で集まっているのだから、それを引きずる必要ってない。それこそ「篠田洋江」という名前すら要らないくらいです。それよりも自分に内在している多面性を引き出すこと、自分自身が密かに「知ってほしい」と思っている姿や、自分の個性を表現する方法として、あだ名をつけることにしています。

 

-自由大学で講義をつづけることで、篠田さんご自身に培われたものはありますか。

ウォーキングに対するロジックは、自由大学で講義をつづけた7年間で培ってきました。

個人を構成するアイデンティティーは、Mind(心のあり方)Visual(見た目)Behavior(振る舞い)の3要素によってつくられています。わたしはその「振る舞い」の部分のサポートを担っています。例えば楽しくなくても、口角をあげればセロトニンが出て楽しくなると聞きませんか?そういった身体性を「かっこよく歩けば、かっこいい自分になれる」というウォーキングで実践しています。

人間には本来、多面性があるはずなのに、いつも同じ面しか人には見せていないもの。だから、振る舞いを変えた途端に、自分にあるとは思わなかった一面が顔を出すことがある。形を変える、見えるものを変えることで、心がコントロールできる。こういったロジックは、講義を通じ、たくさんの受講生を指導する過程で深めていきました。

 

-講義を受けたみなさんが変わっていく様子は、『未来を歩く姿勢学』の受講レポート『オトコの姿勢学』の受講レポートでも感じとれました。篠田さんの今後のビジョンもぜひお聞かせください。

今後は男性への取組みに力を入れていこうと思っています。『オトコの姿勢学』は2年ほど前に、『未来を歩く姿勢学』の受講生からの要望でスタートしました。そこで気がついたのですが、30代後半から50代の男性って、世の中から見逃されているんですよね。高齢者、女性、若年層支援というものはたくさんあるのに、この世代の男性は置き去りになっています。にもかかわらず、彼らにも今、多様な生き方が求められてしまっている。そういったみなさんに、自分のことを考える機会を提供したいんです。

わたしの基本ビジョンは「誰もができることで、誰もがしあわせになること」。姿勢を正しくすることは特別なことではありません。それでも背筋を伸ばしている姿は、周りの人が見ても心地よく思えるものです。姿勢を正しくすることで、その人の周りにいる人もしあわせな気分になれる。誰もができることで、誰もがしあわせになれる、そんな世界をつくりたい。

 

小学校の保護者を対象とした講義の様子。社会貢献活動にも力を入れている

 

-では、最後に。篠田さんにとっての「自由」とはなんでしょうか。

自由とは「わたし」。何か新しいものにチャレンジしようと思ったとき、周囲が心配していろいろな意見をくれます。中にはネガティブなものもあるけれど、それを聞いていると、進んでいかない。やりたいのはわたしだから、わたしがわたしを自由にするしかない。わたしの人生は、すべての選択権がわたしにある。だから、自分のことは、自分が自由にしておいてあげたい。だから自由は「わたし」。わたしは「自由」です。


 

プロフィール 篠田洋江/教授

長野県飯田市生まれ。大学卒業後、広告代理店を経て、ソフトウェア開発業務に従事。その後、システム開発のコンサルタントとして活動しながら、ウォーキングを学び独立。現在、株式会社Cowalkingで代表を務める。中高老年期運動指導士や高齢者体力つくり支援士などの資格も持ち、小学校での姿勢講座を行うなど、老若男女を問わず豊富な指導経験がある。

 

担当講義:「未来を歩く姿勢学」「オトコの姿勢学」「未来を歩く姿勢学(上級編)

文と写真:川口裕子 編集:ORDINARY



関連するブログ