ブログ

人はいつから作家になるのか

学長コラム 深井次郎

「駆け出しの自分なんかが、作家と名乗っていいものか…」

そう不安げに質問されることがあります。名刺やプロフィールが必要な場面で、肩書きは迷うもの。著作は出版しているものの、まだ文章だけで生計を立てられていなくて、負い目に感じているようです。

肩書きとは、自分と社会に橋をかけるもの。自称だけでなく、他人からの客観視点も必要になってきます。自他ともに認めるレベルであれば迷わないのですが、きっと世間的に見たらう「自称作家」だと。もし事件を起こしたら「自称作家の」とニュースに載ってしまうのだろうか。それはちょっと恥ずかしい。いや、容疑者になってるほうが恥ずかしいか。

例えば、生前のゴッホはどうだったのでしょう。素晴らしい絵をたくさん描いているけど、売れていない。弟からの仕送りなしに食べていけなかったゴッホは、「画家」とは名乗れないのでしょうか。

肩書きには、〇〇士、〇〇師、〇〇家、などいろいろ種類があります。

税理士、社会福祉士、宇宙飛行士など、「〇〇士」には資格が必要です。医師、教師、美容師など、「〇〇師」も師としての資格が必要です。勝手に名乗ることはできません。

ただ「〇〇家」は、資格は必要ありません。家は、生き方なのです。作家、画家、冒険家、思想家、陶芸家、格闘家、書道家、発明家…。どれも「私はこういう生き方をしています」という表明です。

料理研究家、海洋生物研究家、働き方研究家も許可なしに自称してもいい。それ自体で生計を立てずに、ほかにライスワーク(食べるための仕事)をしていてもいいのです。名のある組織に所属していなくても、独自の研究が少しでも世の中に貢献しているようなら名乗っていい。

「〇〇研究家」は、誰にでも使える便利な肩書きです。始めてまだ日が浅く、研究家と名乗る自信が持てないとしたら、「愛好家」ならいかがでしょう。

古武道愛好家。古武道が好きなんです、ということであれば、自称でいい。武道家で弱かったら誇大広告ですが、愛好家なら誰からも責められる筋合いはありません。

でも醸造家は資格が必要らしいので、お酒クリエイターにしようか。庭師も資格があるみたいなので、造園家にしようか。そうやって、しっくりくる塩梅を探していきましょう。

めいぐるみ作家、名言収集家、環境保全家、リーダー育成家、デザイン評論家など、自由につけられる肩書きはたくさんあります。低山トラベラー、城メグリスト、ブックコーディネーターのように、世界にひとつしかいない肩書きを造語してしまうアイデアマンもいます。

この「世界にひとつ」がエスカレートすると、寺山のように「僕の職業は寺山修司です」となりますが、わたしたち常人には難しいですね。

もしあなたが会社員だとしても、会社名と役職以外で、どんな肩書きをつけますか? 自他ともにしっくりくる肩書きを考えましょう。社会においての自らの役割を考える機会になるはずです。

TEXT:自由大学学長・教授  深井次郎

※この学長コラムは、毎週水曜日配信です。メルマガ登録してね!



関連するブログ