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横山北斗さん/NPO法人Social Change Agency代表理事


自分の本をつくる方法」の第15期メンバーで、2022年11月16日に初の著書となる『15歳からの社会保障 人生のピンチに備えて知っておこう!』(日本評論社)が発売されたばかりの横山北斗さん。当時の講義で与えられた「何のために本を出したいのか」という問いが横山さんの中で醸成され、今回の出版につながったという報告がありました。社会保障は、横山さんが15歳から20年以上向き合い続けているテーマです。満を持しての出版についての想いと、書籍のテーマでもある日本の社会保障について、 自由大学学長で同講義の教授・深井次郎が横山さんと対談しました。

■プロフィール
横山北斗(よこやま・ほくと)氏

NPO法人Social Change Agency代表理事。ポスト申請主義を考える会代表。社会福祉士、社会福祉学修士。

群馬県前橋市生まれ。神奈川県立保健福祉大学を卒業後、社会福祉士として医療機関に勤務したのち2015年にNPO法人を設立。2018年、申請主義により社会保障制度から排除されてしまうことに問題意識をもち、ポスト申請主義を考える会を設立。内閣官房孤独・孤立対策担当室HP企画委員会委員(2021年~)。内閣官房こども家庭庁設立準備室「未就園児等の把握、支援のためのアウトリーチの在り方に関する調査研究」委員(2022年~)。

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FLY_ 79|横山北斗さん/NPO法人Social Change Agency代表理事

横山北斗さん(左)と深井次郎(右)。自由大学の永田町キャンパスで出版の喜びを共有しました

 

誰の身にも起こりえるピンチに備えられる1冊

深井:初出版おめでとうございます! まずは簡単に新刊『15歳からの社会保障』について教えてください。
横山:登場人物に起こる出来事を通して、社会保障制度を紹介するという内容を、10遍のストーリーで構成しています。貧困、家族の介護、若年での妊娠、突然の事故や死別、家族からの暴力などに直面した登場人物それぞれが、さまざまなきっかけにより社会保障制度の利用に至るという内容になっています。社会保障制度は医療・介護・年金以外にも、ライフステージやライフイベントでの困りごとに対するさまざまな制度やサポートがあるんだとわかる一冊を目指しました。

15歳からの社会保障

 

深井:執筆の際に気を付けたことはありますか?

横山:家庭環境などは違っても、登場人物ひとりひとりを弱き人として描かないことを意識しました。登場人物たちを弱き者とした瞬間に本書自体がスティグマ(※)を帯びてしまいます。それでは本書を記した意味がない。この物語の登場人物は、わたしかもしれない。あなたかもしれない。あの人かもしれない。そのように少しでも感じてもらえるよう描写に留意しました。

社会保障制度は、弱き人が利用するものでは決してなく、誰しも人生を生きていく中で当たり前に利用する可能性があるものであるということを、本書に通底するメッセージの一つとして込めました。

※スティグマ=「差別」や「偏見」に対応する言葉。古代ギリシアで、奴隷や犯罪者の身体に刻印された「印」のこと。キリスト教文化では、十字架上のキリストの身体の傷と同じ聖痕を意味する。

深井:コロナ禍を経て、努力に関係なく誰にでも危機は起こりうるんだと実感した人も多くいたはずですよね。人生は「たまたま」に左右されているのですから、「自己責任だ」なんて突き放さず、誰かが困窮したら助け合いたい。ざっとですが、どのくらいの人が苦境に陥っているのでしょうか?

横山:例えば学校のクラスを例にとってみても、「日本における子どもの貧困」は、7人に1人といわれています。30人のクラスであれば、計算上は4人です。また貧困のみならず、ヤングケアラーやネグレクト、障害、虐待などの問題を抱えている児童もさらにいるかもしれないと考えると。

深井:それ以上に多くいるだろうと。本当に身近な問題ですね。

横山:はい。先の例は一例ですが、子どもたちはもちろん、その周りの大人の人たちに対しても「身の回りの人以外にも、あなたを支え守ってくれる公的な仕組みがある」ということを知ってほしいと考えました。社会保障については、どんな制度がどれくらいあって、どういった場合に利用ができるのか、中学でも高校でも大して学ぶ機会がありません。中学を卒業し働く人もいますので、義務教育において自分や大切なひとの生活を支える社会保障制度について知る機会を作ってほしいと思い、タイトルに「15歳からの」を冠しました。

深井:15歳といえば、横山さんご自身が小児ガンに苦しめられた年齢ですね。

横山:私も社会保障に助けられたひとりです。本書にも著しましたが、看護師さんが難病の子どもに対する医療費助成制度を教えてくださったから、制度を利用することができました。私と両親が幸運にも出会えた人と同じような役割を、この本が担ってくれたらと願っています。


必要な人に情報が届かない社会構造に立ち向かう

深井:横山さんがソーシャルワーカーになったきっかけも、ご病気の経験からとか?

横山:はい。19歳のとき小児がんの経験をもつ自助グループの会に参加した時に、病気の後遺症などによってその後の社会生活に困難を抱えている方がいることを知りました。自身も社会復帰をするのは大変でしたが、当時、大学にも普通に通えていました。同じ病気になってもその人が置かれる状況によって、その後の人生は人によって異なるのだと知り、おこがましくも、自分は運がよかった。運よく今に至った自分にできることはないだろうかと思うに至りました。悩んだ末に工学部から福祉系の大学に編入しました。

深井:大学卒業後は、病院でソーシャルワーカーとして働かれていましたよね?

横山:はい。病院勤務時代に、ネットカフェで暮らしていて体調が悪くなり救急車で病院に運ばれてきた複数名の患者さんに担当ソーシャルワーカーとして関わらせていただくことがありました。そのような患者さんに出会った場合、ソーシャルワーカーは経済的に利活用できる社会保障制度や退院後の住まいの調整など、その方の未来の生活についてのお手伝いをします。その過程で、現状に至るまでの過去をうかがうことがあるのですが、みなさん社会保障制度を知らなかったり、誤った理解をされていたり、制度は存在するけれど、その患者さんたちの困難を支える手立てとして機能していませんでした……。大学で「社会保障制度はセーフティネットだ」と学んだのに、そうはなってはいない現実を知り、存在するだけではなく、利用に至る障壁が取り除かれなければ、社会保障制度はセーフティネットにはなり得ないのではないかと問題意識を持ちました。

深井:NPO法人(Social Change Agency)は病院退職後に立ち上げられましたが、病院に所属したままでは成しえないことだったのでしょうか?

横山:病院のソーシャルワーカーは、大変意義深い仕事ではありますが、社会保障が必要な人に必要なタイミングで届きづらいという問題は、個人に責任があるのではなく、社会の構造に根があると考えたとき、病院に身を置いてでき得ることは限定的ではないかと当時の自分は考えました。

深井:それで、強い想いをもって退職を?

横山:いえいえ。そもそも「社会構造の問題」という大きな話に、自分がどのように関与できるのかはまったくわかりませんでした。その問題に対して自分は何かをしたい、でも病院という組織でその役割は求められていない。そのジレンマを解消するために、病院から離れて考える時間を持とうと、明確な事業プランもなく独立しました。

深井:現在、Social Change Agency ではどんな活動を?

横山:設立後は、保育園、学童保育、患者会、領事館、依存症回復施設、匿名のオンライン掲示板などの運営主体と協働し、生活上の困りごとを抱えている人が、生活動線に近いところで制度や支援につながることができる機会づくりや、ソーシャルワーカーを対象とした研修事業などを行ってきました。

これらは、現在も継続しておりますが、社会保障制度が届きづらい構造やシステムを劇的に変化することは難しいと考え、本年から経済的困り事を抱えた方に対するオンライン相談事業や、基礎自治体の福祉部門のデジタル化に関する支援なども行い始めました。

深井:横山さんは「ポスト申請主義」を訴えていらっしゃいますよね。制度があり利用条件に合致していても「申請しなければ保障は受けられない」点が大きなハードルになっている、と。

横山:制度やサービスを利用することで困りごとの軽減・解決につながるとしても、利用申請のプロセス(自分に合った制度を探す、理解する、必要な書類を揃えるなど)がハードルになり申請に至らない。その結果、困りごとが解決されず、新たな困りごとが発生し、複合的な困りごとを抱えることになってしまう。そんな現状をどうにかしていきたいと思っています。

深井:ひとり親で仕事・子育て・家事に忙しい人やうつ病で苦しんでいる人が、自分で制度を探し、書類を揃えて、役所で手続きができるかということですよね。

横山:はい。おっしゃる通りで、社会保障制度の多くは基礎自治体が相談や申請の窓口になりますので、基礎自治体が社会保障制度情報を届けやすくする、手続きをしやすくするなどの取り組みが非常に重要だと考えています。

深井:諸外国の取組みで、うまくいっている事例はありますか?

横山:お隣の韓国では、福祉が届かない人(福祉の死角地帯と呼ばれています)をみつけ、どのように支援を届けることにここ10年ほど取り組んでいます。いくつかの情報を「危機世帯情報」と定め、そういった情報を活用し、支援が必要な人を見つけ出しアウトリーチ(※)することを、法整備とテクノロジーの活用の両輪で進めています。
※アウトリーチ=手を伸ばすという意味の英語から派生したことばで、「積極的に対象者の居る場所に出向いて働きかけること」「訪問支援」

深井:福祉×Techですね。この社会課題をビジネスで解決できないかなぁ。志ある社会起業家が入ってきてほしいです。

自分の言葉を紡ぐための学び

深井:横山さんは、自由大学で「自分の本をつくる方法」「伝わる文章学」「セルフメディア学」「ニューメディアラボ」を受講されていますね。自由大学との出会いは10年前になりますが、通うようになったきっかけは?

横山:大学を卒業してから病院勤めを続けてきて、仮にも「ソーシャル」と名の付く職業についているにも関わらず、社会のことを知らなすぎるのではないかという怖れからでした。

深井:自由大学で出会った時、すでにブログなどで発信され始めてましたよね。講義では専門職向け書籍を想定されていて、一般の人にはちょっと難しい表現が多かったですが、今回の新刊は15歳の困っている子でもわかるような優しい伝えかたです。

横山:当時はまだ文章をやわらかくするという術を持っていませんでした。あの頃は自分の職業を、自分の手になじむ言葉で表現できないことに、すごくもどかしさを感じていました。

深井:文章を書こうと思ったきっかけってあるんですか?

横山:大学時代の恩師から、卒業の時に「ソーシャルワーカーの仕事に就いてから、感じたことや考えたことを言葉にしておきなさい。それが未来のあなたにとってのギフトになる」とノートを渡されたのです。私は素直なので(笑)それを実行し続けていました。

深井:それらを通じて横山さんは言語化する能力を磨き、人生を切り開いてきたように感じています。そんな横山さんにとって「人を助ける言葉」とはどんなものですか? ぼくらのような伝える仕事をしている人たちに参考になれば。

横山:あらためて考えると難しいですね。……まず自分に向けて書く言葉は、自分の手になじむ言葉で現象を書き切ることにこだわっています。どこからか借りてきた言葉ではなく「自分が感じたことを言い切るためには、この表現が一番なじむんだ」という言葉を選びます。たとえばソーシャルワーカーとしての「伴走」を「その場に居合わせる」と変えるなどですね。言葉は時の移り変わりと共に変わっていきます。でもその時点の気持ちで選んだ言葉は、ある経験に対して当時の自分がどういう意味付けをしたかという証拠になります。それから、対社会には、過去への復讐を目的にした言葉を紡がないと自分に課しています。

深井:自分の怒りや、戦いを書かない。

横山:くすぶっている感情を文章の導火線にしない。過去に何か満たされなかった経験に対して、強い言葉で復讐をするようなことはしないようにしています。

深井:熱い思いを伝えることと、こぶしを突き上げて怒りに任せた伝え方は違いますよね。どんなに素晴らしい主張でも、怒っている人の言うことは怖くて避けられてしまうんです。横山さんは直接的にまた間接的に多くの支援をしていますが、逆に今ご自身がしてほしい支援はありますか?

横山:ありがとうございます。やはり「社会保障のメニューは、こんなにあるんだよ」とみなさんに知っていただきたいです。それを、もし身近に困っている人がいたら伝えてください。こんな制度があるよ、と。

 

信頼できる人の後押しで動き出せる

深井:身近な人がケアすることの重要性は、みんな気付いているのかもしれません。「利他」「贈与」「ケア」「倫理」など、他者に良くする行為に関心を持つ人が多くなった印象です。最近の自由大学でも「自分の言葉で考える利他学」が人気なんですよ。ケアはしたい、でもただの「お節介」「ありがた迷惑」になるかもしれず、見極めが難しいのです。そんなケアの素人の僕らが「苦しみの中にいる人」へ手を差し伸べるコツとしてどんなものがありますか? 例えば、うつで働けない友人だったり。

横山:変わらない関係でいること、気に掛けていると伝えることでしょうか。こちら側に余裕があれば、書籍や信頼できる情報源を通して相手が置かれている状況を理解することを試みたり、利用できる制度の情報を調べてあげたりなど、無理のない範囲でできることを考えるのもひとつです。

信頼できる相手から得た情報は、行動をそっと後押しすることにつながります。私は団体を立ち上げる以前に、ソーシャルワーカー同士で問題意識を共有できる懇談会を企画していたのですが、それをやろうと思ったきっかけは、自由大学で深井さんにもらったひとことに後押しされたからだったんですよね。

深井:そうなんですか?それはうれしいですね。

横山:ソーシャルワーカーの人を集めた交流会をしたいけど、人が来るか不安だと話したら「ひとりでも集まれば、それは立派な企画ですよ」って。その一言に鼓舞され企画した数名の小さな懇談会が、その後の団体設立や今現在の事業につながりました。あのとき勇気を持って企画をしなければ、今は違った現在になっていたかもしれないと思います。

深井:そう、ひとりでも仲間ができれば、3人目4人目はすぐです。

横山:最初のきっかけをつくってくださった深井さんに「本を出しましたよ」と報告をしながら、こうやって久しぶりにお話しできるのは、胸に迫るものがあります。信頼している人から言われると、やってみようかなと思える。だから、一番身近な誰かが声を掛ける、手を伸ばすことが大事だな、と自分を振り返ってみても思うわけです。

深井:すべての人を助けることは難しいけれど、親しい友人に社会保障について教えることはできます。横山さんの本がきっかけでミニ・ソーシャルワーカーのような人が増えるといいですね。

横山:そんな風に本を使ってもらえたらうれしいです。自分も誰かにとって信頼できる他者であり、知識は自分だけでなく、身の回りの誰かを助ける後押しにもなりますから。

深井:本当に知識は力ですよね。知識があれば必ず次の手が思いつくから、絶望まではいかない。二の手、三の手があると知っていれば助かる可能性が上がる。だから学ぶことが大事なんです。日本では死について話すのもタブー視されていますけど、誰でも将来困窮する可能性はあるのに、学校でも家庭でも最悪の事態について話題にしませんよね。「縁起でもない」とか逃げてないで、不安を直視したほうが不安はなくなる。なのに、経済的、健康的にピンチに陥ってから、初めて調べ出す人がほとんどです。

横山:そうですね。ですから、義務教育に社会保障の細かいメニューや利用方法を学ぶ授業を導入してほしいと思います。何かに挑戦しようという時、社会保障をセーフティーネットであると信頼することができたならば、自分にとって困難な挑戦を選ぶ人も増えるかもしれません。

深井:食えなかったらどうしようと、不安を感じている人が多いですね。仕事選びも人生を安全に生き終えるチョイスになってしまっています。本心では「アイドルになりたい」「芸術家になりたい」という夢があってもチャレンジすらできない。実際に社会保障を使わないとしても、制度を知っておくことが精神的なセーフティーネットになり、夢にチャレンジする勇気になるはずです。

最後に、横山さんにとって「自由」とは?

横山:自分の未来には、さまざまな選択肢があると信じることができる、それが自由でしょうか。


深井:今日は、ありがとうございました!

 

<新刊紹介>
15歳からの社会保障 人生のピンチに備えて知っておこう!
日本評論社

家族、学校、お金、仕事、住まい、体調…。生活の困りごとに対応するための社会保障制度。知識があなたや大切な誰かの力になる。

書店の様子:

15歳からの社会保障

15歳からの社会保障

紀伊國屋書店(新宿本店)にて。3階「社会問題」のコーナーです。

(文:川口裕子、写真:藤田)



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