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土器にドキッな毎日を綴った考古遺跡発掘本を出版

今井しょうこさん、子育て後に描きはじめたコミックエッセイが全国発売に /「自分の本をつくる方法」第55期

遺跡発掘作業員として働くかたわら、同人誌としてコミックエッセイを描いてきた今井さん。4人の子育てをしながらも、いつかと夢見ていた自分の本がいよいよ全国の本屋に並ぶことになりました。講義「自分の本をつくる方法」では「著者は書いて終わりではなく、自らPRして売っていくのも重要な仕事」と学びます。この日は、自由大学の永田町キャンパスにいる教授の深井次郎さんと、発売前の書籍を見ながら打合せ。どのタイミングで何をどう動いたらいいのか、笑い声が漏れながらも真剣に話していました。合間をぬって、出版に至るまでのお話を伺いました。

 

プロフィール
今井しょうこ(いまい・しょうこ)
1973年生まれ。神奈川県箱根町出身。日本大学芸術学部文芸学科卒。学芸員資格取得。2010年、ハローワークに出ていた求人で遺跡発掘調査事務所に雇われる。 業務は遺跡の発掘から報告書作成のための整理作業まで多岐にわたる。人々にこのマニアックな世界の面白さを伝えようと、自分の体験を冊子『遺跡発掘ガール』『遺物整理ピープル』にして同人誌販売イベント「コミティア」で販売。2019年より神奈川県秦野市の地域活性コミュ二ティの発行するフリーマガジン「kokohada」編集長。https://kokohada.love
[note] 今井しょうこ https://note.com/shokorunrun
[twitter] https://twitter.com/tanulabo

 

今井さん、『マンガでわかる考古遺跡発掘ワーク・マニュアル』出版おめでとうございます! 出版しようと思ったのは、いつ頃からですか?

子供の頃から、本を出したいという強い思いがありました。ノートに鉛筆で、漫画や小説や日記を書き散らかして。何か表現したいものがあるというよりは、自分の本を作ること自体にワクワクしていました。でも、まわりの大人には本を出してる人なんていませんよね。やり方がさっぱりわからないし、成長して進路を考えていく頃になると先生や親が醸し出す「食べていけるような職業を目指せ」というムードの中で自分で勝手に諦めていきました。

でも、大学は憧れの吉本ばななさんの卒業した学部学科を目指すという…。往生際が悪いですね。なのにやっぱり、まっすぐ作家を目指すこともせず、自分には無理なんだという想いを抱えたまま、卒業と同時に出産結婚しました。そのまま4人の子供に恵まれたので、子育てで大変な毎日に突入します。それでも諦めきれなくて、子育てサークルの会報誌に4コマ漫画を投稿して連載させてもらっていました。

3年前からは、現在暮らしている神奈川県秦野市の地域活性コミュニティが作るフリーマガジンの制作にも関わって、現在はついに編集長をさせてもらっています。こちらはボランティアですが、好きなことをやらせてもらっています。あとは「遺跡発掘」や今どき珍しがられる「自宅出産」という自分の経験を漫画にして同人誌を作ってイベントに出たりもしました。

ただ、「著者として全国の本屋に並ぶような本を出版したい」という思いはずっとありました。一体どうやればいいんだろうと。そんな中で、子育てもひと段落して、昨年、検索してたどり着いたのが自由大学の講義「自分の本をつくる方法」です。

 

「いいですねぇ!」完成した本を目にして興奮する深井さんと。永田町キャンパスにて


発掘の世界に足を踏み入れたきっかけは?


生活のためです! 今から10年前、4番目の子供が保育園の年長になる頃、本格的に仕事を探さねば、とハローワークに通いました。ですが、子育てしかしてないわたしは、40歳近くになってもなんのキャリアもありません。大学4年生の頃に妊娠しそのまま結婚ですから。発掘に関わるまでは、会社に雇われたことがなかったのです。アルバイトとしてファミレスや本屋くらい…。そんな経歴でしたから、5、6社に履歴書を送りましたが、面談までも辿り着かないのです。

落ち込んでいた時、発見したのがハローワークに貼り出された「遺跡の発掘調査事務所の作業員」の募集。大学で学芸員課程を修めたこともあり、どうにか採用になりました。ただ最初は、4ヶ月の期間雇用だったのです。でも、一生懸命やるしかない。業務で「実測図」という土器の図面を描く専門的な工程があり、「これを覚えればわたしの人生何とかなる」と信じて、必死に習得しました。おかげさまで継続して雇ってもらい、現場にまで出ていけるようになりました。

 

執筆期間は3ヶ月。家事と仕事をしながらのため、徹夜した日もあるそう

 

4人の子育てをしながらの現場仕事。バイタリティがありますね…

夫は板前なんです。職人気質の仕事人間でして、今で言うワンオペ育児の日々でした。毎朝、仕事に出かける夫の背中を、「わたしの人生はいつ始まるんんだろう」と、モヤモヤした気持ちで見送っていました。

3番目の子供がアレルギー持ちだったこともあり、薄着で元気に外遊びをたくさんさせる保育園に子供たちを入園させました。そこで、生物学的な人類の進化というような勉強会が毎週のようにありました。当時学んだことが、遺跡発掘の世界を描いた今作ですが、本質的なことを表現したいという根底のところで影響していると思います。まわり道のように思えますが、今となってはすべて必要なことだったのかもしれません。

 

装丁のイラストもすべて今井さん。かわいい手描きで味があります


考古遺跡発掘のお仕事は、どんなことをするのですか? 

わたしが所属するのは民間の発掘調査会社で、開発の決まった土地に工事が始まる前に遺跡があるとなると義務になる調査などを請け負っています。まずは、現場に出て、穴を掘ります。そして測量したり記録を残して、さらに穴を掘ります。つまり… やっぱり穴を掘ります!

土だらけの中から、人間の作った痕跡のあるもの、つまり土器などが出ると、おおっ!となりますね。たいていは破片で小さいものばかり出るのですが、壊れていない完全なものが出ると、おおおおおっ! と声が上がります。つまり、モノが大きいとアガります。

あとは、逆に5ミリ程度のガラス小玉や管玉(くだたま – 古墳時代の装飾品です)や鱗くらいの大きさの石器で細石刃(さいせきじん)というのもあります。そんな小さい貴重品を掘り当てると、目が良く注意力があるということで、まわりの方々から称賛されます。

ただ大変なのは、暑かったり寒かったりの体力勝負で、その割には時給が… という点でしょうか(笑)

遺跡は現場が終わっても、室内で整理が続き、最終的には「発掘調査報告書」という本になります。あ… 結局本づくりに関わるお仕事をしていますね、わたし。子供の頃の強い思いが、ここにも実っているのかも。

 

発掘現場の道具たち(左)とプライベートでも遺跡めぐりを楽しむ今井さん(右)。家計のために始めた仕事が高じてライフワークになった


今回の書籍企画である「遺跡発掘マンガ」に行き着くまでに、どんな紆余曲折がありましたか。 

実は「自分の本をつくる方法」を受講している期間中に、以前にイベントで同人誌を買ってくれたフリーの編集者から「この遺跡発掘の話を本にしませんか」とメールをいただきました。あの頃はまだまだ「ホントに商業出版かな」と疑っていましたけど。

講義の中では、子育てがテーマの企画をメインに考えていましたが、結果的に遺跡発掘のテーマが現実になっていきました。

ただ、作った同人誌がわたしの個人的な体験を漫画にしたコミックエッセイだったのですが、過去作品をそのまままとめたわけではありません。出版社の要望で「マンガでわかるマニュアル本」として描き直しました。「発掘のプロではない、いち作業員のわたしがマニュアル本!?」と大変に恐れおののきましたが、出版社の方が奈良大学の先生への取材を設定してくれたり、監修の先生が大変よく見てくださったこともあり。「あああ、わたしが読みたかったのはこういう本!」という内容にまで作っていくことができました。まさに子供の頃からの夢! マンガ家になっちゃったわけです。

マンガはすべてiPadで描く。時間がない中で、効率的に描けるのだそう。情報量は多い


発掘の世界に入って10年間の経験をまとめた本。どんな読者に届いたら嬉しいですか? 

わたしのような遺跡マニアにはもちろん読んでいただきたいですし、今まで考古学や遺跡に興味のなかった人への最初の一冊にもなると思います。

自分の進路を考える時期の中高生にまで届いたらいいな、という思いもあります。わたしは山の中の観光地、箱根で育ったので、世の中に旅館、保養所、建設業、床屋か八百屋くらいしか職業のバラエティがないと思っていたんです。「遺跡発掘調査なんて職業があるんだよ!」と知ってもらうきっかけになれば嬉しいです。

あとは、同年代の女性ですね。なんのキャリアもないわたしが本を出したことで、友人たちが「中年の星!」と言ってくれました。45歳の時に初めて描いた漫画が出版まで行った。そんなわたしに「勇気をもらった」と。女性って、やっぱり自分の夢を後回しにしなくちゃいけないような時期が人生に訪れるんだなあ、みなさん頑張ってる!と、しみじみ思いました。そんな方々への応援歌にもなったらいいな。

ありがとうございました!  

<取材後記>
暑さ寒さは大変かと思いますが、昔の人々の痕跡を発見した喜びは何にも代えがたいそうです。土の下には先人たちが生きた人間ドラマがあり、いつか私たちの暮らしも土の下へ。しみじみと感動するストーリーが詰まっています。これは職業モノのドラマ化、映画化なんてあるかもしれません。「遺跡発掘ガール」はいかがでしょうか、制作関係者さま。

 

発売前の予約の段階でアマゾン1位の注目度

 

<新刊紹介>

『マンガでわかる考古遺跡発掘ワーク・マニュアル』
 今井しょうこ著(創元社

掘れば掘るほど、深みにはまる!

ある日のこと、ハローワークで見つけた遺跡発掘調査事務所の求人。考古学のことはわからないけれど、なんだか面白そうだなと思い始めた遺跡発掘の仕事にどんどんはまっていった著者が、得意なマンガでその一見地味だけど奥深い仕事の内容を楽しく深掘りし紹介する、初めての発掘ワーク・マニュアル。表面の土をはぐところからはじめ、近世から縄文まで、深く掘り下げるごとに変わる、特徴的な出土品も紹介、考古学の基礎も学べる。

全国書店にて2021年9月21日発売。
https://www.sogensha.co.jp/productlist/detail?id=4292
アマゾン
https://www.amazon.co.jp/dp/4422201662

 

 



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