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悩めるクリエイターは「つくる楽しさ」を思い出そう

青木亮作さんが親子の工作記録『なんとかする工作』を出版


クリエイティブユニットTENTのプロダクトデザイナーとして活躍する青木亮作さん。お仕事のかたわら、2人のお子さんのために作った工作をまとめた本、『なんとかする工作』(玄光社)を出版されました。公私に渡りものづくりの楽しさを実践する青木さんに、ものづくりについて、誰かを喜ばせるために働くことの魅力をお聞きしました。

青木さんがSONYを辞め、TENTを結成するまでのストーリーはこちらから。

 

試行錯誤の処女作出版


さて今回、2019年12月に玄光社から『なんとかする工作』を出版されました。初めて本を出すまでの経緯を教えて下さい。

発端としては、担当編集者さんがぼくのイベントに来てくれて、「本を出しませんか」と声をかけてくれたことです。企画が版元の玄光社さんに通りまして、出版の流れになりました。

玄光社さんはイラストレーションや写真などのノウハウ本を出している出版社です。最初は「折り紙の本」のような、「手作りギターの作り方の手順を写真を交えて解説する本」はどうですか、と話がきたんですけど、ちょっとピンとこなくて。ぼくは工作のプロではないし、素人にしてももっとすごい人はたくさんいますし。じゃあということで、まずは創作について自分の考え方を交えてはどうかと日記のようなエッセイを書き始めたんですが、それもしっくり来なくて。やっぱり本出すのやめたいです、と。

暗礁に乗り上げたところで、友人のデザイナーFLATROOMの種市さんの助言もあり、今回の形に落ち着きました。

ビジネスでプロダクトデザイナーをやっているぼくが、家でもクライアント(娘と息子)の発注を受けて「工作」しているというビジネスパロディ本にしようと。

中身も、発注、納品、報告のような体裁を取っています。新しく工作をつくったり、写真を撮りなおすのは難しかったので、手持ちの素材を活用しているので、この本自体がある意味「なんとかした」本になっています。

 

そもそも工作を始めたキッカケはなんだったんですか?

クリエイターとしてとても尊敬しているザリガニワークスの武笠太郎さんが、子供さんにつくった工作のFacebook投稿を見て、「雑でいいんだ」と衝撃を受けました。実は「武笠さんに見て欲しい」という気持ちでこの工作をはじめたんです。張り合うではないですが、相手に刺激を受けて、工作に励みました。武笠さんの存在がモチベーションになったし、継続できた理由だと思います。

デザイナーとしてクオリティを重視したくなる視点はできる限り捨てて「子供が爆笑する」「子供が喜ぶ」というところにフォーカスしていました。

 

帽子は、武笠氏が考案した「ダンボールキャップ」。リスペクトとして着用している

帽子は、武笠氏が考案した「ダンボールキャップ」。リスペクトとして着用している

 

工作のアイデアは、どこからくるのでしょうか。

具体的に「ギターつくって」「カメラつくって」とオーダーがあるわけじゃなくて、「〇〇したい」という欲求を伝えられて、それをどう形にするか考えるスタイルでした。「コーヒーをガリガリしたい」とか「アイロン触りたい」とか「ボタンを押したい」とか。子どもが何をしたいのか、欲求を分解してどんな工作をするか決めます。親が子供のためを思ってやってるというよりは、子供からやれと発注されたからやっているんですよね。

即席でつくったピザ。自由にトッピングし、食べたい大きさに切る。(食べられません)

即席でつくったピザ。自由にトッピングし、食べたい大きさに切る。(食べられません)

 

本には奥様のコメントも掲載されてますが、工作しているときどんな反応でしたか?

だんだん工作が増えていき場所を取ってしまうので、邪魔だからすぐ捨てられます。容赦なく捨てられるので、思い入れがあって捨てたくないものはTENTの事務所に避難させています。

上の娘が小学校に入学する直前の春休み。ランドセルを買ったんですけど「早く背負って外を歩きたい!」と言うんです。でもお母さんからは「汚れるからまだ使わないで欲しい」と言われる。じゃあ代わりにと言うことで、お父さんである僕はダンボールのランドセルを作りました。

週末「通学の練習をしよう」と、ダンボールランドセルで、小学校の校庭に一緒に遊びにきました。通りかかった小学生が「すごい」と言っているのを聞いて、娘がにやりとしているのを見て嬉しかったですね。

通学の練習に出かける娘さん

ダンボールランドセルで、通学の練習に出かける娘さん

 

本というプロダクトについて、プロダクトデザイナーからみてどう感じていますか?

本は物理的な存在なので、装丁がインテリアとして存在するじゃないですか。そういう意味ではプロダクトと同じだなあと思っています。

本は最初から最後まで、著者が読者の流れをコントロールしやすい媒体ですよね。スマホで読んだら通知がきたり、電話がきたり気が散るじゃないですか。でも本なら読んでいる間は没入できるので、作り手の意図を反映しやすい。

だからもっと意図を設計したかったなと。正直今回の本ではまだまだやり残した部分もあり。次の課題ですね。

 

 

下手でも楽しくつくる人が増えて欲しい

 

どんな人に読んで欲しいですか?

実はこの本、読者像がはっきりしてないんですよね(笑)。どんな人が読んでどう共感するか、不安はあります。著者である僕としては、何かしらクリエイティブに興味があったり、そういった仕事をしている中で、悩んでいる、疲れている人向け。「人を喜ばせる」とか「つくるのは楽しい」という原初の感情を思い出して欲しいなと思っています。

昔に比べて、クリエイティブやデザインなどの仕事がビジネスでも貢献できるということが広く認知されてきた一方で、どうも固い理論ばかりが目立ってしまっている気がして。そもそもクリエイティブとかそういうものには「楽しさ」は外せない要素だと思うんです。「下手でも作っていい」「楽しんで良いんだ!」ってことを伝えたいです。

ぼくが約10年前に自由大学に参加した理由でもありますが、会社も世の中も固いことが多すぎて、窮屈でしんどかったんです。おまけにSNSなんか見てると「なにかインプットしなきゃ」って圧が強いじゃないですか。自由大学でも学びを提供していますけど、もっと緩やかで柔らかいですよね。

9年ほど前ですかね。会社勤めしながら「もうデザインなんてしたくない」と、ぼく自身とても悩んでいて。何か違う機会に触れようと思い、自由大学の「自分の本をつくる方法」に参加したんです。でも受講しているうちに、「本じゃなくてもいいんじゃない?」と思って、その後会社を辞めて紆余曲折あった結果、なんとなくTENTを結成、プロダクトデザイナーとして活動することになりました。それから10年近く経って、思わぬ形で本を出すことができました。当時の自分のような「クリエイティブに疲れている人」へ届くといいなと思います。

 

出版をお祝いしに教授の深井次郎さんも取材に同行。「この企画は本にすべきと願ってたので嬉しい!」

出版をお祝いしに教授の深井次郎さんも取材に同行。「この企画は本にすべきと願ってたので嬉しい!」

 

出版したばかりですが、これからも本を出したいと思いますか?

今回は「工作」がテーマですが、あくまでこの本はぼくの「B面」。つぎ出版するなら「A面」の部分、プロダクトデザイナーとしての顔も出せるといいですね。『なんとかする工作』にもその点は反映していますが、今後もプロダクトデザイナー、いや、具体的に言うと「口だけじゃなくて、ちゃんと何かを作る本人」であることは軸として通していきたいです。

 

noteを書き始めたようですね。

先日、大きな舞台でプレゼンテーションをする機会があったんです。こういう場では、現場の人が置いていかれて、メソッド屋さんとかが「これを学ぶべき」という話をプレゼンするんだろうなと。そうではなく「そもそもクリエイティブなことは楽しい」という気持ちを現場の人としてもっと伝えたいなと思って。実は自薦したんですよ。

そういう舞台で求められているのはきっと「メソッド」だっただろうから、大多数には刺さらなかったような気がしますが(笑)、プレゼンテーションの直後に「とても良かったです」「原点を思い出せました」とわざわざ言いに来てくれる人もいて。

どんな仕事でも「自分なりの方法を見つけて楽しんで良いんだ!」と伝えることができたら、会社勤めで悩んでいた頃の僕みたいな人にとってヒントになるんじゃないかなあと思って。noteも始めてみました。

 

最後に、青木さんにとって自由とは?

うーん… 適当でいいんじゃない? って思えることですかね。料理家の小林カツ代さんの本に「野菜なんて明日食べればいいのよ、明日の自分に任せれば」と書いてありましたが、それだと思います。明日の自分を信じられるから、今日は好きなようにできる。未来の自分を信じられる。それが自由なのかもなぁと。

 

ありがとうございました! これからも、アイデア溢れるプロダクトを楽しみにしてます。
発売を記念して「中目黒 蔦屋書店」にて、約2週間フェア「モノづくりを楽しもう!~仕事を なんとかした(て) できたものたち~」を開催した。

 

プロフィール
青木亮作 (あおきりょうさく)
1979年、名古屋市生まれ。OLYMPUS、SONYを経て2011年に治田将之とともにTENTを設立。フライパンジュウ、DRAW A LINE、NuAns、HINGE、KEYKEEPERなど、さまざまなヒット商品を手がける。iF Design Award 金賞 やGood Design Award BEST100 を始め国内外の賞を多数受賞。現在は7歳の娘と3歳の息子とともに、東京の片隅で家族4人で暮らしている。
TENTのホームページ tent1000.com
Instagram  @aoki_tent
とーちゃんつくって tent1000.com/ryosakusousaku/
note   https://note.com/aoki_tent

 


取材文:むらかみみさと
写真:YUKI

 



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