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限界集落で育つコミュニティ

深井:コロナウイルス感染の拡大による外出自粛など、社会に大きな変化がありました。未曾有の事態に、誰もが手探りで進む状況が続いています。今回はこんなとき黒崎さんはどんなことを考えているのか? 何をしているのかを聞きたいと思います。
最近は滝ヶ原に頻繁に行かれているようですね。

黒崎:滝ヶ原は石川県小松市にある限界集落なのね。森や畑があり、170人ぐらいの高齢者が住んでいて、8年前ほど前にそこの土地を買いました。僕のスタッフなど田舎暮らしに興味を持つ若い人たちが移り住み、改修した古民家でカフェを営んだりアトリエにしたりして暮らしています。今は外国人も含め若者が15人ほど住んでいます。若いアーティストやデザイナーが生活して、面白い状況が出現していますね。

滝ヶ原ではいろいろな取り組みをしていて、苔の再生にチャレンジしたり、最近は熊を飼おうとしています。親を猟師に殺されて一人ぼっちになってしまった子熊。行政とか政治家と交渉して、共存できるような仕組みを目指しています。

そもそも、熊の住む森を破壊してきたのは人間です。木を伐採し、森を切り開いたから熊が住めなくなってしまった。さらに木を切ったところに杉を植えて花粉症が増えたり。でも最近は林業が衰退して、過疎化も進み、人間が維持できなくなったせいで自然が崩れてきています。

 

お金ではなく自分を軸足に生きる

黒崎:元から滝ヶ原に住む人は農家なので、食べ物は豊富にあり、タダ同然で手に入ります。食と家が保証されているから生きていけるんですね。仮に大不況がきたり戦争が起きても大丈夫なんですよ。数万円あればいい。今はインターネットもあるから、海外とでも問題なく仕事はできます。

東京はどうでしょう。家賃だけで10万円、生活費は高い。給料の大半が生活のために消えていく人が大半ではないでしょうか。どんな会社でどのポジションにつき、いくら貰えるかで仕事を選ぶ生活は豊かですか?そのモデルはもう崩れつるあることを気づくべきだと思います。僕たちは何のために生まれてきたのか。

僕は若い頃から学歴とか社会の階層とか、消費が価値であることにしっくりこなかった。雑草のように肩書きを持たず生きていこうと、世界中を回っていました。

深井:社会がこれだけ変化すると、自分に軸がないと生きていけないのではと思います。自分自身が何をしたいか、どう生きたいか、何が幸せかを考える。

黒崎:とはいえ、それはすぐにわかるものではないですよね。いろいろ試して、自分で考えながら自己を確立していくことが軸足を見つけることではないでしょうか。

そのアプローチの一つが「農業」だと思います。日本の農家の平均年齢は60歳代です。あと10年も経てば、田舎で放棄された農地がどんどん増えてくるでしょう。そんな土地に若い人が移住すれば、土地は保たれるし、安く生活ができる。インターネットがあれば仕事はできますから。でも単に生活費を下げるために田舎に住むだけじゃなく、週に2日、3日農業をやるといいですよね。自給自足を通して、資本主義の先の社会が見えてくるのではないかと思います。

深井:テクノロジーの発達で場所に依存する必要がなくなりましたよね。オンラインの可能性は強く感じています。自由大学はリアルな繋がりを重視していましたが、このような状況でオンライン講義に舵を切りました。教授、ゲスト、生徒の住んでいる場所や時差に関係なく繋がれるのは、学びのチャンスが広がります。

 

「やりたいことがない」不幸

深井:自由の根本は、まず「やりたいことがあること」ではないかと思っています。でも、やりたいことがない人は多いですよね。

黒崎:ゆとり教育は「時間があるから好きなことをやれる」という理想だったけど、「やりたいことがない」という現実が見えてしまった。言われたことしかやらない奴隷のような人間になることは不幸です。でも、規則やルールにガチガチに縛られた中で生きてきた人たちは、自分の意志で自由に生きられないんです。

深井:子供の頃は誰しも希望を持っていたはずなのに、それを押さえつけられた経験が多すぎて、自分の気持ちがわからなくなってしまったんでしょうね。

黒崎:そういう状況に反発する必要があるんですよ。僕はヒッピー的な生き方をしてきたけど、お金はそのために働いて手に入れるものではないと思います。お金はメディアで、お金に価値があるのではなく、価値と価値を変換する道具なんです。時間とか移動手段とかをお金で手に入れる。

お金を手に入れる方法は「企業に雇われる」だけではありません。最近は大企業に依存しない方法も見えてきましたよね。複業、兼業で、いくつかの方法で収入を得ることができれば、自分でどう働くかを選べる。僕はさまざまなプロジェクトを手掛けててきましたが、やりたい人を集めて、お金も出資者を募って実現しています。

深井:自分がお金を持っていなくても、たとえばクラウドファンディングのように夢を語り希望を描くことでお金は集めることができるんですよね。

黒崎:資本主義や貨幣経済も終わりに近づいています。これまでの儲け方とか、価値観とかは大きく変わるでしょう。作業性や機能性の高さが評価の中心となり、お金を軸とした価値観が、現在のように社会をつまらなくした原因だと思っています。

それを打ち破る学びを提供するのが自由大学の役目です。今の時代、カオスなんですね。みんなを導く船長が必要だと思います。リーダーシップのある人。リーダーは地位を持っている人がなるのではなく、みんなを引っ張る力持っているからリーダーなんです。そういう力を自由大学で育てていきたいですね。

 

<プロフィール>
黒崎 輝男(くろさき てるお) 自由大学創立者

1949年東京生まれ。「IDĒE」創始者。 オリジナル家具の企画販売・国内外のデザイナーのプロデュースを中心に「生活の探求」をテーマに生活文化を広くビジネスとして展開、「東京デザイナーズブロック」「Rプロジェクト」などデザインをとりまく都市の状況をつくる。 2005年流石創造集団株式会社を設立。2009年新しい学びの場「自由大学」を開校。Farmers Marketのコンセプト立案/運営の他、,「IKI-BA」「みどり荘」などの「場」を手がけ、 “都市をキュレーションする”をテーマに、仕事や学び情報、食が入り交じる解放区「COMMUNE 2nd」を表参道で展開。通称くろてる。

深井 次郎(ふかい じろう)   自由大学学長、運営、教授
1979年生。大卒後、IT系上場企業の子会社立ち上げを経て、2005年独立。25歳で出版し「自由の探求」がテーマのエッセイ本など著作は累計10万部。2009年自由大学創立に教授、ディレクターとして参画。2011年法政大学に「dクラス」を新設。2013年株式会社オーディナリー設立。書く人が自由に生きるウェブマガジン「ORDINARY」創刊。自由大学の運営の中心を担い、講義「自分の本をつくる方法」「Lecture Planning」の教授をしている。

文:むらかみみさと (ORDINARY)


カテゴリ: ☞ コラム

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