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福田邦久さん|FLY_045

「住む人と共につくる創造的なコミュニティ」を目指す大家さん

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今回お話をお伺いしたのは、「新しい大家さんのあり方」を探求し、これまでに自由大学で5講義を受けられた福田邦久さん。福田さんは、大家さんで「子育てや家事もこなす主夫」でもあります。2016年の自由大学祭のテーマ「STUDY EXPERIENCE」の文字を制作されたり、写真や映像を得意とする一面も。そんな福田さんにフリユニピープル編集部がインタビューしました。

FLY(フライ)とは、卒業生のその後を紹介するコーナー。自由大学には多様な背景の人々が参加し、新たな一歩を踏み出しています。

Q:自由大学での最初の講義「ナリワイをつくる」を受けた時はどんな状況でしたか?

僕は大家を始めて約10年ですが「これからの人口減少の時代に、大家に何が出来るか」という問いが自由大学に来る動機の根底にあります。今まで通り壁を白く床を綺麗にしても、入居が決まらない時代が来るでしょう。そこで新しい何かを始めなければというわけで、これからは「魅力的な住人と共に創る」賃貸がいいと考えました。自由大学は、面白い人に出会いたい気持ちと、大家業の余った時間で副業をしようということで「ナリワイをつくる」を受講しました。

Q:その後に受けた「Creative camp in PORTLAND」への参加動機は?

自由大学に集まってくる人と現地集合現地解散で過ごす濃密な時間は、きっと今後ものすごいコネクションになるだろうなと思いました。それとポートランドのDIYカルチャーに興味があったんです。空室が出た時に、今は内装を大家自身が直すのが主流なんです。そのセンスやデザインを学びに行きたいと思いました。

Q:ポートランドに行ってみてどうでしたか?

「古い建物をかっこ良くリノベする」をテーマに行ったんですけど、現地で入ってくる情報量と斬新さに脳が追いつかず、混乱して帰ってきました。でも海外に行く理由の一つは、マイペースの日常を壊し、混乱するためなのかもしれません。何かを生み出すためには一度壊すことが必要で「混乱」は何かを生み出す前兆と考えれば、こんなにクリエイティブなことはないですね。今の僕の興味の大半、活動の原点はこのcampを基点に始まっていて、帰国後どんどん影響力は増幅しています。

Q:5講義受けられてみて、受講前後で変わったことはありますか?

講義を通して出会った人たちに毎回影響を受けます。講義内容自体に期待しているのは多分40~50%くらいで、そこに集まる魅力的な集団に会いに行くというのが50~60%ぐらいですね。気付いていない自分に気付くきっかけをもらいにいく部分と、講義が終わった後から始まる人と人との繋がりを求めて受けています。

 

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やりたいことを「できる」と言って一歩踏み出してみることが大切と語る福田さん。


Q
:福田さんは大家さんになるまで、どんな道を歩んでこられたのですか?

学校を卒業して外資系の事務機の営業を11年やりました。もともと営業が向いていなくて、それでも自分なりに成績を上げて頑張ったんです。その会社を辞める5年くらい前から照明デザイナーの仕事がしたいと思い、思いきって辞めて照明の専門学校に一年通いました。

Q:照明デザイナーは昔から興味があったのですか、それとも前職の営業時代に湧いてきたのですか。

両方ですね。僕は昔から心地いい空間に行くと立ち止まってしまうタイプだったんですよ。「照明がいい」と気付いたのは、会社の社員旅行だったんです。南アフリカに連れて行ってもらった時に、白人の特権階級みたいなエリアにあるリゾートホテルの照明がとにかく素晴らしくて、自分の中に眠っていた感性が噴き出たような感覚でした。専門学校卒業後は照明の設計施工までやっているデザイン事務所に就職しました。入社して一年程経った頃、大家業をしていたうちの母が急に亡くなったんです。すでに父は他界していて誰も継ぎたくないということで、結局長男の僕が継ぎました。「将来は継いでほしい」と冗談では言われていたんですが、突然その時が来てしまいました。

Q:大家業を引き継いだ時、照明の仕事に対する未練はなかったのですか?

未練はありました。でも、建築業界の忙しさって一般的なサラリーマンの比じゃないんですよ。朝5時から深夜2時とかめちゃめちゃ働きましたよ。もう「このまま続けてたら死ぬな」という感覚があったのと、子供がちょうど1歳くらいで「このまま働いてたら知らない間に大人になってしまう」と思って。「本当にこのままでいいのかな、もう少し豊かな人生があるんじゃないかな」と考えた時に、照明の代わりはいるけど大家業の代わりはいない。うちの母がずっとやってきたものを亡くなったから突然売るというのも忍びない。まあ少しやってみるかと思ってやりました。

当時の僕は仕事にほとんどの比重を置いていたんですが、5年経つと家庭の方が中心になり、自分の好きな時間に好きな仕事を出来る環境が当たり前になってきて、仲間がいる環境とか、肩書きや後ろ盾がある世界が非日常になってくるわけです。そういう感覚を取り戻すために自由大学に来て、人と関わっているところがあります。

そして面白い人と関わるには、自分を面白くするしかないなと思ったんです。自由大学の講義を受ける根底に「仲間を作りたい」「空室を埋めたい」の他に、「自分を面白くしたい」というのがあります。それは黒崎さんの「地位や役職ではなくてこれからは役割だ」という言葉に影響を受けて、自分の役割をどんどんアピールすることで名刺の代わりになるように、写真の額も作るし動画も作るし自由大学祭のアルファベットも作るみたいな感じです。

Q:大家業のやりがいはどういう時に感じますか?

本当の意味でのやりがいはこれからですね。実は「ご職業は?」と聞かれるのが最近までずっと嫌だったんですよ。大家なんて「さぼってる」と思われるのではないかと、ずっと「不動産業です」と言っていました。今後数年をかけて自分の理想の賃貸に変えていくつもりなので、それが実現したらやりがいを感じられると思っています。

そこでは大家と住民がフラットな立場で、仲間と遊んでるみたいな状況が理想です。これから入ってくる住民は、例えば会社員や自営業、イラストレーターさんや弁護士さんがそれぞれ足りない所を補って仕事を作ってもいい。そして何でも出来る大家が僕の理想です。例えば英語はペラペラでDIYももちろん出来るし楽器も演奏できて、「大家はすげえな」みたいなところで勝負したいなと思います(笑)

Q:今後は何に力を入れていきますか?

大家業の方はプロジェクトを着々と進めていく予定です。


それとは別に、ポートランドに去年行ったメンバーで作っている、neighborhood’15というサイトを活性化させたいです。僕はみどり荘1が大好きで、同じような活動ができないかなと。 neighborhood’15の登録メンバー40人がみんなすごい職能を持っているので、まずは映像を作るmississippi937というチームを立ち上げて、今興味深い人物をインタビューして映像化して発表しています。それも趣味で終わらせるのではなくナリワイにしたい。僕は動画とか写真とかDIYが一応得意なんですけど、他にもライティングとかイラストとか、一人一人が出来ることを合わせてプロジェクトにしてどんどん発信していきたいです。それが「こんなの作ってください」という依頼に変わったら、ナリワイになりますよね。

福田さんの受講歴:「ナリワイをつくる」「Creative camp in PORTLAND」「実践!アーバンパーマカルチャー」「魅せる!映像学」「クリエイティブ都市学-北欧学

(撮影、取材、構成:ORDINARY



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