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人生100年時代には、一生学び続ける姿勢が必要です。自由大学界隈で活動する人たちに聞く、私たちの「学びかた」インタビュー。今回は、学長の深井次郎さんです。

まずプロフィールを教えてください

自由大学には2009年の創立当初から運営に携わり、自分の本をつくる方法Lecture Planning学』などの教授、自由大学の学長をつとめています。25歳で独立して以降、出版、メディア運営、大学での講義など、人の成長機会を創出する事業をおこなっています。

 

深井さんの働き方、仕事選びに影響を与えたものはありますか?大きな転機となるような、自ら「人生を変えたい!」と学びのスイッチが入った時期はありますか?

20歳ごろから独立志向を持っていましたが、大きなきっかけとなったのが父のリストラです。当時高校生だった僕には衝撃的な体験でした。バブルが崩壊したとはいえ、銀行や証券会社が倒産しだすのはその後のことで、まだ「大企業神話」が磐石な時代でした。

父が勤めていたのは業界大手の安定企業。入社すれば一生安泰だと誰もが疑わないような建設会社だったので、不景気なんて関係ないと思っていたんです。それなのに一級建築士の資格を持ち設計と現場責任者をしていた父を含め、多くの社員が退職に追いやられました。その直後に経営破綻したので、「安定は幻想だった」と愕然としたのが転機です。大学へ行って、資格をとって、大きな会社に入れば安泰と先生たちから教えられていた価値観が崩れてしまいました。

もともと子供の頃から安定志向と言いますか、自分の力の及ばないところで勝手に人生を変えられるのがすごく苦手で。親の転勤で何度も転校がありましたが、嫌で嫌でたまりませんでした。結果的に、どんな人とでも友達になれるコミュニケーション能力のある子になりましたが、本当は自分の人生は自分で決めたい。

広く浅くよりも、狭く深くな性質があって、自分で決めた少数の親しい友達ととことん仲を深め、できるだけ長く続けていくことが好きなんです。拡散より蓄積。この性質は今でも変わっていなくて、自分の運命を自分でコントロールしたくて独立を選びました。

会社という大きな船に乗ることは安定感がありますが、自分ひとりの努力とは無関係に潰れる時は潰れてしまいます。独立したって潰れますが、同じ潰れるのでも自分の責任なので納得感があります。根底には、依存することへのトラウマがあるんでしょうね。だからギャンブル、お酒、タバコ、カフェイン、砂糖、化学調味料など中毒性のあるものには近寄らない(笑)

「とにかく大企業勤務以外の生き方をする」と決めた高校生の頃から、自主的な学びが始まりました。親戚にはサラリーマンと農家と公務員しかいませんでしたから、知らないことがありすぎる。人生や社会の仕組みを解き明かしたくて、本を大量に読み始めたのもこの頃です。

 

独立志向がある中で大学卒業後は企業に就職されましたが、仕事選びも独立前提だったのでしょうか? 会社ではどんな働き方、学び方をしていましたか。

大学生の20歳頃には「3年間会社員を経験し、25歳で独立する」と決めていました。就職する3年は修行期間だと考えていたので、師匠選びが大事なわけです。日本一尊敬できる創業社長のすぐ近くで働けることを基準に会社を選びました。結果、一部上場企業の経営者である大久保秀夫さんの下で学ぶことになりました。タイミングよく3年以内に独立する意志を持った学生を採用する「アントレプレナー制度」という枠を新設したところで、自分の希望と一致しました。

入社1年前の内定者の時期から、すでに修行は始まりました。日曜日に大久保社長とほとんどマンツーマンで経営哲学書を読み合わせしながら、問答するのです。「会社とは誰のものだと思う?」「株主でしょうか」「果たして本当にそうかな?」という具合に。「なぜ生きるのか」「最高の人生とは何か」「最高の仲間とは」「判断と決断の違いは?」答えのない哲学対話のように、意見を交わすのです。「会社は公器。経営者は24時間、公人たれ」など、経営のやり方というより、基本的な人としての「在り方」を固めていく機会でした。1500人くらい社員がいる中で、贅沢な教育環境でした。

大久保社長も起業当初の若い頃、京セラの稲盛和夫さんソニーの盛田昭夫さんとそうやって対話をして学んだそうです。先人がたくさん著書を残していますが、やはり口伝でしか伝わらないものもあります。

とても人望のある方なので社長室に大企業の経営者がよく相談にくるのですが、新人のぼくも同席させてもらえることもありました。社長は経営の悩みに、的確に「三方よし」のアドバイスをするんです。相談者が帰ってから、「なぜこういう話をしたと思う?」「深井だったらどうする?」と聞かれる。リーダーたちが見ている視点の高さだったり、損得抜きで助ける友人の絆だったり、足るを知る精神性だったり、人間を学ぶ上でこれ以上の学びの場はありませんでした。

実務としては、入社して1年半は起業する上で一番重要な力である「営業」から始まりました。売る力があれば、どんな環境でも生きていけます。中小企業のインターネット環境や、パソコン、コピー機などを一括して導入してもらうよう営業です。新規の飛び込み営業で、あえて新会社をつくって、上場企業の信用ある名刺も使えないハンディを抱えての起業する練習です。

「そういう営業は結構です、忙しいので!」 100軒飛び込んで話ができるのは1軒くらいの毎日です。これでは効率が悪すぎるので、どうしたら決裁者である社長にリーチできるか、あの手この手で工夫しました。向こうから「会いたい」と思ってもらうにはどうしたらいいか。

社員数人から100人規模くらいの中小企業の社長は、起業志向のぼくにとっては格好の先輩たちです。仕事半分、研究半分で、「ぼくも起業するんですけど、社長はなぜ起業したんですか? 成功のコツはなんですか? そのビジネスモデルを閃いたきっかけは?」などインタビューをして回りました。そのインタビューをペーパーにまとめて、「深井通信」として客先で配るんです。思えばこれがぼくにとっての出版の原点です。名刺交換した社長にメールやFAXで送ったり、手渡ししたり。楽しみにしてくれて、その信頼で受注や紹介につながりました。自分の興味と、強みである思考力と表現力を生かしたんです。

後半の1年半は人事で新卒採用の責任者をしました。新卒を全国で100人採用するので、仙台から福岡まで駆け回って、大学や就活イベントで講演したり、500人規模の会社説明会を何回か開催し、選考し、優秀な学生を口説く仕事です。人前で話すのって、場数がすべてなんですね。最初から上手にできる人はいない。とはいえ、一人では場が踏めないので、20代の早いうちから経験できたのは運が良かったです。

仕事以外ではビジネススクールへ行ったり、起業に役に立つような勉強をしていました。アントレプレナー制度では、1年目から月収50万という破格の条件だったんです。会社がこんな高給を設定した理由は、自己投資をすること。また、起業にあたってお金の大切さを実感し、管理できるようになること。お金で満たせるような物欲レベルはさっさとクリアして、内的動機で動けるようになるようになどいろいろありました。

当初の目標通り、3年後に独立し、紆余曲折ありますが現在までやってこれています。新しいことに挑戦する時は、いつも師匠を決めますが、初めての師匠から恵まれました。

自分に向いている学び方は?

まずだいたいの分野には先人がいるので、本を読みベースとなる知識を入れます。知らない分野の社長や著者と話をする時は、関連する本を20冊くらいチェックします。どの本でも共通して触れられている知識があり、それが知りたいテーマの肝です。ざっと全体像を把握すれば、どの本をしっかり読むべきかがわかるので、2〜3冊ほど深く読みます。そうすれば、知らない業界のことでもおおよそ理解できるんです。本で書いてあったことが正しいかどうかを現場で確認するまでが1セット。その分野を本格的に極めようと思ったら、先ほど話したように師匠を探します。

 

自分の人生の探求テーマはありますか? それをいつ頃どのように見つけましたか?

「後悔のない充実した人生とは何か」これが一生かけて探究したい大きな問いです。公私ともにこれです。自由大学も、講義も、執筆もぼくのやってるいろんな活動はすべて「後悔のない人生を増やす」というビジョンのため。

人はみんな違うし、生まれた環境も違うし、一見すると不平等です。小さな頃からなぜうちだけ引っ越しが多いのか。明るく元気で、友人もすぐできましたが、どこか転校生だというマイノリティーさを感じていました。

あとは中学のバスケ部で一番仲の良かった子が、ある日部活中に体調を崩し、白血病と診断され治療の甲斐なく亡くなったのは大きかった。ダイちゃんはみんなに愛される人気者で成績も学年一番で、スポーツ万能でした。その彼が15歳で命を落としてしまうことに、人生は理不尽なものだと感じました。

うちは無宗教ですが、「お天道様が見てるから、悪いことはしないようにね」と言われて育てられた。そんな家庭は多いと思います。特定の宗教はなくとも日本には「良い子にしてたら、神様が味方してくれる」みたいな人生観があるかと思うのですが、それも違うのではと信じられなくなってしまった。だって、非の打ち所のない彼が亡くなるのなら、神様なんていない。

だとしたら「人生ゲームの仕組みはどうなっているのか解き明かしたい」と思ったのがきっかけです。ゲームのルールを知らずに闇雲にプレイするのはしんどいですから。攻略する方法を知り、充実した人生を送るには。死ぬ時後悔しないためにどうすべきかを探求しました。

その答えのヒントだと考えているのは、精神科医キューブラー=ロスが死に直面した人々に対してインタビューをおこなった際に発見した3要素です。人生で後悔しないためには経済的、社会的に成功したかは関係なく、「冒険したか」「人を愛したか」「貢献したか」の3つが必要であると述べています。この結論はとても納得感があり、物事を選択する時に判断する軸になると思います。

学ぶ中で発見し、自分を大きく変えたコツ、考え方はありますか?

まず何事もコツを知ってるのと知らないのとでは結果が全く違う!と気づいたことです。一番感動したのは、10歳のころに自分で発見した「オセロの法則」です。試行錯誤のすえ必勝法を編み出してから、どの大人とやっても勝てる。大人がムキになって悔しがるけど、何戦やっても小学生のぼくに勝てないんです。

簡単にいうと「自分が欲しいものを先に相手に与える」だけのことです。どうぞと渡してしまう。すると不思議と角が取れるし、最後は全部ひっくり返ってしまうんですね。こちらから贈与することで返ってくる。これは人生の縮図だと思うし、すべてに通じる原理原則に気づいた時に無上の喜びを感じます。


最後に、自分をアップデートするために欠かさない「日々の習慣」はありますか?

書くことです。人は考えているつもりですが、言葉にして書かないと本当に考えることはできません。いざ書いてみると、いかに考えていないかがわかる。

何を書くかというと、自分の気づきや違和感です。小さな感情の揺らぎも捉えて、スルーしない。たとえば暮らしの中で「嫌な感じだな」とか「うまくいく予感がするな」と感じたら、それはなぜか考え、言語化するように心がけています。

できればブログなどで他人にもわかるように書くことで、理解が深まります。著者として初めて出版したのは25歳の頃ですが、書くのは22歳の頃からの習慣です。考えることは人間に与えられた素晴らしい能力。考えること=書くことなんです。

▶︎深井次郎さんが担当する講義

自分の本をつくる方法
Lecture Planning学

取材後記
どう学び、吸収していくかを考えること自体が学びに不可欠なプロセスだなと感じます。 深井さんのお話を聞き、自分はなぜ学びたいのか?学んでどうしたいのかを考えさせられました。

(取材、文:むらかみみさと)



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