講義レポート

神社は歴史と信仰を学び感じるスイッチ

教授コラム 神社学 中村真

この神社はどんな神様をお祀りしてるのかな。

気になる神社ができたら、ぜひそこに祀られその土地を守ってくれている神様のことや、その神社の歴史を調べてみると面白い。

僕は若いころ、半ば放浪のごとく海外を旅したことで、そもそもなんで僕は生きているのかな?この世の中に僕は必要なのかな? ということを考える時間を持つことができた。

ステレオタイプの価値判断や流行の中で何かに興味を持つことより、自身が求めているものは何なのか、僕ができることはどんなことなんだ、ということばっかり考えてきた。

その気づきと興味と行動の中で、僕は大好きな音楽と出会い、その積み重ねや仲間との縁から日本に帰国してから、仲間とともに音楽のイベントをしかけてみたり、海外からアーティストを招聘する現場にも携わってきた。旅やその後の経験の中で痛切に感じたのは文化の違う異国の人とのコミュニケーションにおいて必要なのは語学力もさることながら、自分自身の足元であるこの国の魅力を認識できているか、ということだった。

神社学

自分の地元。育った土地や国の歴史。心のよりどころとなる信仰。僕が出会った海外の人たちはみな、それを語る言葉をたくさん持っていた。なぜなら、その人のものの考え方や、哲学、価値観は歴史と信仰に多大な影響をうけているので、「自分を語る深い話をしよう」となったときに、自然とそういった話が出てきていたように思う。いっぽう僕はといえば、「地元。ああ関東。日本の歴史には興味ないし、信仰とか言われても何の宗教にも入っていない」というあえりさまで、自分探しをしたくて海の向こうまで出かけたのに、その海の向こうで出会えたのは「自分を語る言葉は地元にこそあった」ということだった。

神社学

仏教やキリスト教は海外からやってきた宗教ですが、神道は古代日本にもともとあった自然崇拝をもとに、諸外国の宗教や思想に影響を受けて成立してきたもの。その起源は日本最古の記録「古事記」ともつながっていく。しかしその大元が自然崇拝であるならば、宗教や文化を超えて人の心になじむだろうし、どんな人にとってもそれはこの国の歴史の一部に違いない。

例えば神社をきっかけに「この土地を守ってくれていると昔の人が信じてきたシンボルはなんなんだろう?」と興味を持てば、その土地の歴史や信仰を知ることに直結する。行きつけの神社のほかにも「産土様」や「氏神様」について調べてみるのもいいと思う。「産土様」とは僕らが生まれた土地の守り神。例えば大人になってほかの地域にすんだとしても、ずっとご縁をいただく神様のこと。「氏神様」は、その土地に住む人々が共同体として祀った神様で、古くはその土地を収める豪族が神格化されたものでもある。それを守る人を氏子といい、もとは「豪族〇〇氏の子」といった意味を持っている。地域によっては氏神様を鎮守様とも表現している。

僕は東京は神田の生まれだから、神田明神が産土様。やはり特別な思いを持っている。神田明神の歴史は古く、730年に出雲地方から移住してきた人々が、自分たちの祖先であり、出雲大社の神様である「大国主命」を祀ったのが始まりと言われている。「神田明神は平将門を祀っている神社だ」と思われるかもしれないが、それは少し後の話(なぜ将門が神田明神で祀られるようになったのか、興味あればぜひ調べてみてください)。大国主は国守り国造りの神様で、将門は戦の神様。「異質なものも一緒に祀るおおらかさ」を産土様から教えてもらっている。

産土様や氏神様というのは、その土地の歴史や信仰、暮らしを学び、そこへの思いを馳せるスイッチの役割があるのかもしれない。ただただご利益やご利益にほだされて、その神徳ばかりをいただく場所として神社を捉えてしまうより、その土地にくらしてきた先人たちへの思いを馳せながら、僕らの住まうこの国の積み重ねてきた魅力の中に身を投じたいとおもうばかりだ。

TEXT:教授  中村真

担当講義: 神社学 神社学【オンライン】



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