講義レポート

今日もまた、登ってしまった。

東京・日帰り登山ライフ 教授コラム 大内征

一年の半分を旅先の山中や山麓で過ごしている。気になる低山里山や山岳霊峰のリストアップが全国のあちこちにあるのだから、訪れた山の物語や麓の魅力を記したり話したりすることを生業とするぼくにとって、それは半ば当たり前のことではある。いわば、低山霊峰が「職場」なのだから。

山にいない日は、武蔵野の辺の自宅に籠って過ごすことが多い。低山の山旅をテーマの中心に、その原稿を書いたり、企画を練ったり、調整ごとに時間を費やしたり。独自性を失うくらいなら効率性なんて小事だと思っているくらいなので、仕事も登山も近道より遠回りや寄り道をするのが性に合っているのだろう。まあとにかく、都市と自然のちょうど“境”に暮らしながら、街と山と人とをつなぐことに明け暮れる日々だ。

そんなぼくが、大都会のど真ん中にある自由大学で登山の講義をもって久しい。現在31期を募集中で、これまで300人の山仲間が集う講義に育った。令和元年11月をもって「東京・日帰り登山ライフ」は8年目に突入。継続は力なりと言うけれど、まさにそんなことを痛感している。いろいろ感謝をしなければならないし、もちろんまだまだ続けていきたい。

この講義は、東京近郊の低山を舞台に、身近な山にある歴史文化の面白さとトレイルの楽しみ方を分かち合うことを念頭にしてスタートした。ぼく自身がそういうことを常日頃から探究し、仲間入りした受講生たちの興味関心を広げて、今後の“登山ライフ”をその人らしく作っていくきっかけとなりたい、そう願って。そして実際にそうなれば、とても嬉しいことである。

かく言うぼく自身の“登山ライフ”は、相変わらず気になる山の資料を漁り、山岳霊峰を題材にした文化作品に触れ、地図を眺めては、自分のモノサシでピンときた山々をリストアップし、フィールドワークするスタイルだ。実は今日も、とある「職場」を登ってきたばかり。この原稿の締め切りだっていうのに何をしているんだ、と怒られそうだけれど(結局、締切を一日過ぎてしまった。ごめんなさい)

 

▼影響を受けた本

伊豆の旅(川端康成)

フィリピン海プレートの移動に伴って、はるか絶海の火山の孤島が日本に衝突して地続きになった伊豆半島。いわば“外国”だったこの大地を舞台に、川端康成の旅の視点が伊豆を面白いように切り取っていく。

今春の『大人の休日倶楽部』において、伊豆の低山を巡る旅路のことを、巻頭特集に綴る機会をいただいた。半島の東西南へと、海辺山辺を巡る旅だ。その参考書のひとつとして久しぶりにページをめくったが、瞬く間にぼく自身も「伊豆の旅人」になってしまった。作家の体験を追いかけられる良書だと、あらためて感じた次第だ。

TEXT : 教授   大内 征

担当講義 :  東京・日帰り登山ライフ



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