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魚を楽しんで“まるっ”と味わい。海を慈しむ心を育みたい。

『さかな学』キュレーター / 茂木みかほさん

自由大学の新講義『さかな学』キュレーター、茂木みかほさん。アクアマリンふくしま、横浜・八景島シーパラダイスなどの人気水族館で飼育や企画などを担当し、ダイビング専門誌の編集企画を経て、魚や海にまつわる活動をフリーランスで行っています。「今、とてもバランスのよい状態と感じる」という仕事や活動についてうかがいながら『さかな学』の講義に隠された、海への熱い思いを探りました。


-「ギョスプレ」や「魚女子部」など気になる活動がいっぱいです。フリーランスとしての日々のお仕事について、まずはお聞かせください。

逗子海岸を拠点に、さまざまな自然あそびを行う黒門とびうおクラブ」のコーチをしていて、日々子どもたちとシュノーケリングや磯観察を楽しんでいます。またダイビング情報サイト「DIVENET」の編集やコンテンツ企画など、海系のWEBサイト、書籍への寄稿などが仕事の大きな柱です。ほかに、日本ペット&アニマル専門学校の水族館・ドルフィントレーナー科で非常勤講師をしていたり、不定期で池袋・サンシャイン水族館のプライベートナビゲーター作家の荒俣宏さん主宰の海あそび塾副塾長としての活動、一般社団法人umiiku(うみいく)の立ち上げ準備などをしています。

「ギョスプレ」は「海辺の環境教育フォーラム」の実行委員をした2012年に、会場でみんなが楽しめるイベントとして考えました。海の生きもののコスチュームを着て変身するんです。これまで、アクアマリンふくしまや新江ノ島水族館で、ハロウィンイベントとして行ってきました。またフォーラムがきっかけで出会った仲間と始めたのが「魚女子部」で、部長を務めています。

 

アオウミウシのギョスプレをする茂木さん

 

-「魚女子部」は活動の大きな軸のようですが、どんなことをしているのですか?

「魚を釣って味わい尽くす」をテーマに、時には船をチャーターして釣りに出掛けます。

釣りは、海を知るための絶好の手段です。仕掛けにもよっても、誘い方によっても釣れ方が変わります。釣り糸の先の、魚の動きや海の中を思い浮かべエサを動かし、潮を読み、どの深さにどの魚がいるのかと想像を巡らせ…そのうえで、釣れた時の喜び!さらに、自分で釣り上げた魚をその日にさばいて食べるんです。これがまた贅沢なんですよ。アジ、サバ、シロギス……。釣りの師匠が、ふつうは捨ててしまうような内臓や皮の食べ方も教えてくれるので「一度参加したら病みつきになる」と好評です(笑)

この「1匹を“まるごと”味わい尽くす」ことを、わたしたちはとても大切にしています。

魚を味わえる人は、海に目を向けられる。そういう人は、海水浴にきてもゴミを置き去りにしないはず。

海や海の生きものへの関心を持ってもらう活動を、さらに広く行っていくために部員たちと立ち上げようとしているのが、一般社団法人umiikuです。海をはぐくむ「海育」、海に行こう!の「海行く」、面白い活動をしていこうという気持ちで「ユニーク」にかけて、この名前に決めました。

 

-大好きな海を基点に大活躍されているように感じますが、ご自身のキャリアにコンプレックスがあったとか。

水族館の職員は水産系の大学を出ている人がほとんどです。わたしは大学の国際関係の学部を卒業してから、海洋科学の専門学校に入り直しました。専門時代はわたしだけ年齢が上。実習に行っても「あれ? 結構、歳がいってるのね」と言われてしまう。「本当にやりたいことに気づくのが、どうしてこんなに遅かったんだろう」とそのころは思っていました。アクアマリンふくしまに就職して、短期間ながらも念願の飼育の仕事に従事できたものの、そのあと転職し、水族館の販促業務や雑誌の編集など本来の希望とは異なる仕事が続きました。

でもこの幅広い経験のおかげで、専門にかたよらずに、魚を見る・釣る・飼う・食べると、さまざまな角度から、魚の奥深さを伝えられるのがわたしの強みです。

 

-『さかな学』の講義はレクチャープランニングコンテスト(以下、レクプラ)への参加がきっかけなんですね。

以前に友人に誘われてレクプラを見に行き、そこで自由大学教授の大内征さんとお話して「わたしも魚テーマにした講義ができたらいいな」と思いました。それで、実際にレクプラに参加し開講につながりました。

自由大学には、モチベーションが高く、ユニークな人が集まって来ると聞きます。そんな場所で『さかな学』ができることを画期的に感じています。わたし自身もこの講義を通じて、どんな新しいつながりが生まれるか自由大学に期待をしているんです。

 

-定員オーバーになったと聞いています。注目度が高い講義ですよね。着地点はどこに置いていらっしゃいますか?

講義では「未来の海のためにできること」を考えてもらいます。この問題意識を落とし込んでいただき、終了後はそれぞれが、海や魚について周りの人に伝える「語りびと」になってくれるのが理想です。

今回は漁師さんや魚屋さんをゲストにお招きし「食べる」をテーマにしましたが、受講生のニーズを聞くと「さばく」に焦点を当ててもよかったかもしれません。魚種を変えると、さばき方も変わるので、それを講義にしても面白そうですよね。

余談ですが、魚が苦手な人って「生臭い」を理由に挙げるのですが、スーパーで買った魚も流水でたった3秒洗えば、雑菌が流れて味がよくなる。手が生臭くなったら水道のステンレスを触るとか、そんなちょっとしたコツも伝えたいです(ウエカツ水産代表、魚の伝道師・上田勝彦さん直伝!)。あとはミリヨーギョの話とか。

 

-ミリヨーギョ?

未利用魚です。売ることも、水産加工品の原料にもできない魚のことで、運搬コストとの兼ね合いなどから、漁師さんも泣く泣く海に捨てています。ただ最近では、未利用魚に着目した飲食店が出始めて「珍魚が食べられる」と話題なんです。

わたしは魚を見るのも、育てるのも好きですが、人間は食べないことには生きられませんので、「食は別」ととらえています。ただ大好きな魚を食べるからこそ、本当にすべてを、おいしく丸ごと味わい尽くしたい。「命をいただく」という感謝を忘れないようにしています。

 

-日々、活動において大切にされていることはなんですか。

フィールドに出て、ワクワク発見をすることですね。

子どもたちが好奇心いっぱいに海で過ごす姿を見ると、わたしも楽しい。だからわたしも子どものような目線でいたい。自分が楽しめば、自ずとまわりにもワクワクした気持ちが伝わると信じています。

フリーランスになって、海や魚の魅力を、自分のやり方で、たくさんの人に伝えられる毎日はとても幸せです。それに海のことを考えると、穏やかな心にもなれるんです。もちろん、海に対しては脅威を感じますし、畏敬の念もあります。そんなさまざまな感動を与えてくれる海に感謝して、いろいろな人とワクワクを共有したいですね。

 

-今とても、充実されていることが伝わってきます。好きなことを追いかけて、今のライフスタイルを作り出した茂木さんにとって「自由」とはなんですか?

何にも媚びることもなく、自分の思うままに好きなことができる状態です。自然に湧き出た気持ちを実現出来ること。自然である、ニュートラルであることってとてもむずかしい。でもわたしは、シュノーケリングをするときに、とてもニュートラルで自由な気持ちになれます。『さかな学』を通じて、海に対してそんな気持ちを持ってくれる人が出てきたらうれしいですね。

 

 

プロフィール 茂木みかほ/キュレーター

海なし県の群馬で生まれ育ち、忙しい父が家族を連れていってくれた海が大好きになる。大学を卒業後、海洋科学の専門学校で学び、水族館勤務などを経てフリーランスに。現在は子どもたちの海遊びや、知的障がいのある人の海の活動のサポート、海釣りの主催など、海と海の生きものにまつわる活動を行っている。各地の水族館でハロウィンに開催される「ギョスプレ」の発案者。推し魚はフグ、食べるならサバ。「〆サバは半生の状態が一番。釣ったばかりの魚でつくるとおいしいさは格別」と茂木さん。

担当講義:「さかな学
文・写真:川口裕子 編集:ORDINARY
(写真の一部は茂木さんにご提供いただきました)



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