会社員をしながら3つの講義のキュレーターを務める有山さん。忙しい毎日を過ごすなかでも思い切って自分の時間をつくり、受講生として自由大学の扉を開いたことが人生を変えるきっかけになりました。自由大学との出会い、キュレーターとしての講義作り、そしてこれから挑戦してみたいことについてお話をうかがいました。
-自由大学の講義を受講したきっかけは?
2013年頃だったと思いますが、当時わたしはツイッターの日本でのローカライズに関わる仕事をしていました。その頃、ツイッターも上り調子だったこともあって毎日忙しくて、仕事以外のことがなかなかできない時期だったんです。そんなときに、「何かないかな?」と思いながら、たまたま誰かのツイートで自由大学を発見して。
その中で「おうちパーティー学」という講義が目についたのですが、元々食べることが好きだったのと、いずれ自分でも「食」に関わる仕事に携わってみたいという思いがぼんやりとあったので、「とりあえず申し込んでみちゃえ!」と飛び込んだのが最初のきっかけですね。わたしが受講したときは4期だったのですが、校舎が池尻のIIDにあった頃で、空間的にも面白そうだなというのもあって。
-「おうちパーティー学」ではどんなことをやるのですか?
5回の講義では最終回で実際にパーティーを行うのですが、パーティーを企画するために、いろいろなパーティーに関するお話を聴いたり、パーティープランのマネジメント方法を学んだり。
盛り付けデザイナーとして活躍する教授の飯野登起子さんから直接やり方を見せていただくこともあります。4回目の講義で実際にパーティーの計画を立てるのですが、テーマや料理、ドレスコード、役割分担などをみんなでディスカッションしながら決めていきます。
-受講してみていかがでしたか?
「おうちパーティー学」を受講する人はどういう人たちなんだろう?という興味もあって参加してみたのですが、自分とは異なる職種の方など、普段の自分の生活のまわりではなかなか出会わないような方たちがたくさんいらっしゃいました。「この人たちもわたしと同じ興味を持って集まったんだ!」と思ったら面白くて。教授の飯野さんの講義は毎回毎回、目から鱗が落ちる体験ばかりで、「こういうやり方もあるんだ!」という驚きの連続でした。
-講義を受けてみて何か変化はありましたか?
自由大学の講義に限らず、何かを始めてみたいというときに一番ネックになっていたのが「最後まで続けられるかな」ということだったんです。でも「おうちパーティー学」に通って講義に没頭できたことで、たとえば自分で調べたいと思ったことをちょっと早起きして調べてみるなど、積極的に自分のために時間を作れるようになりました。何事もやらないで後悔するよりまずは始めてみることが重要なんですよね。
-「おうちパーティー学」ではキュレーターもされていますね。
当時のキュレーターである元学長の和泉里佳さんと教授の飯野さんから「ぜひ一緒にやってみない?」とお声掛けいただいたのですが、講義がすごく面白かったのでそのまま続けていきたいと思い、キュレーターを引き受けることにしました。わたし自身、講義を受けて新しい発見をたくさんしたので、その面白さを他の人にも伝えたいという気持ちがあって。
どれだけコミットできるかなという不安もあったのですが、「おうちパーティー学」の講義を最後までちゃんと受けることができたという自信も後押ししたと思います。
-どんな方が受講しているのですか?
お家でホームパーティーをやってみたいけど、どうしたらよいかわからないという初心者の方もいれば、ママ会で普段パーティーをしているんだけれどもマンネリ化しちゃって……という方など幅広いですね。「おうちパーティー学」というと女性の方が多いと思われるかもしれませんが、各期ひとりふたりは男性の参加者もいるんです。
手作りのパーティーグッズを作るのが得意な方、包丁研ぎが得意な方、お皿に詳しい方、コーヒーを淹れるのが上手い人など、いろいろな特技を持った人たちが集まっていて、みんなそれぞれの得意分野を活かしながらパーティーを作っています。
-「おうちパーティー学」というと料理にフォーカスが当たっているのかと思ったのですが、それだけではないんですね。
実は料理以外のところでも個性を発揮できるところがたくさんあるんです。たとえば料理が得意ではなくても、買ってきたものをいかに盛り付けをするか、ということも講義でやったりするんですよ。
実はそこが大切なポイントで、「ゲストをおもてなししなければ!」と構えてしまうと準備から片付けまでが大変で、パーティーを楽しめないまま「二度とやりたくない」という気持ちなってしまうのがすごくもったいないんですよね。開催する本人も一緒に楽しめることをテーマにして講義を作っているので、いわゆる準備が大変なホームパーティーという固定概念は講義を受けると崩れますね。
教授の飯野さんは、その土地の土で作られているお皿に、その土地で作られている素材を使って作った料理を合わせることをライフワークとしてやっていらっしゃるのですが、そういうのがすごく面白いと思うんです。お料理ではなくお皿を活かすパーティーや食材縛りでのパーティーなんかもひとつの切り口ですよね。パーティーの主役をいろいろと変えられるのが面白いですね。
-「おいしい盛り付け学」「おいしい写真を撮ろう」のキュレーターもされていますよね。
「おうちパーティー学」の1コマに「盛り付けデザイン体験」という回があるのですが、それがとても面白くもっと深堀りできないかと思って生まれたのが「おいしい盛り付け学」という講義です。いろいろな方からのアイデアや協力を頂きながら初めて作った講義だったのですが、「講義をつくる」という面白さを知りました。
「おいしい盛り付け学」「おうちパーティー学」では、どちらの講義も料理をして盛り付けを行いますが、それを最終的なアウトプットとして写真に撮って残すことが重要だなと気づいたんです。写真を残すことによって、次にパーティーを企画する際の参考になるんです。
そこで写真を切り口とした講義をやりたいと思い、飯野さんから「写真道場」の大平教授にお声をかけてもらって、双方の教授とキュレーター4人でコラボレーションをして生まれたのが「おいしい写真を撮ろう」という講義です。講義では単純に写真の技術だけを教えるというのではなく、数ある料理やパーティー空間のどこを切り取ればよいのか、どう盛り付けをして演出していくのか、というところを一緒に学んでいく講義です。
-現在はインスタグラムに料理写真を載せる方も多いですし、注目されそうな講義ですよね。
そうなんです。今はフォトジェニックではなくインスタジェニックと言うらしくて(笑)。どこを切り取るかで写真は違ってくるんですよね。俯瞰から撮るのか、接写で撮るのか、背景にどの色を持っていくのか。
飯野さんは盛り付けのプロなのですが、一見、感覚的に盛り付けしているように見えて、実は緻密な計算をされているんですよ。「おいしい盛り付け学」では、色彩や配置などの盛り付けの理論を学びそこに自分の個性や感性を合わせて盛り付けていきます。やはり理論を知っているのと何も知らないのではアウトプットが全く異なるので、講義を受けると、盛り付けがパワーアップして面白いですよ。
-キュレーターとして何か気をつけていることはありますか?
講義はライブのようなところがあるので、受講生の個性や好きなものに応じて、講義の内容を受講生に合わせて寄せていったり省いたりすることもあります。
また、同じ講義でも、期が変わるたびに講義をアップデートしていくようにしています。料理も写真も人も生ものなので、ずっと同じことや決まったことだけをやるというのはつまらないなと思いますし、それって自由大学らしくないなと。テキストからだけではない学びを体験してもらいたいという気持ちがあるので、そこは考えるようにしています。
原点は「自分が体験した驚きを受講生にも感じてもらいたい」というところなので、「こんなこと知らなかった!」「こんな風にやっていいんだ!」という声が受講生から聞こえたときは「よし!」と。それがキュレーターとしての喜びになりますね。
-今後、新たにやってみたい活動などはありますか?
「おいしい写真を撮ろう」が復活したので、まずはそこを頑張りたいというのが一番ですね。それから「おうちパーティー学」の卒業生のコミュニティの中でもよく話題に上がるのですが、個々で起業や独立することは難しいけれど、「おうちパーティー学」の卒業生のための「ハコ」を作って、その中でそれぞれがやりたいこと――たとえばケータリングや販売ワークショップなどができるユニットを作れたら楽しそうだな妄想しています(笑)。
「これをやったら面白いかもしれない!」という小さな気づきを、少しずつ着実に形にしていく有山さん。次はどんな発見をして、どのような学びの場を作ってくれるのかとても楽しみです。ありがとうございました。
受講した講義:「おうちパーティー学」「キュレーション学」
「お店をはじめるラボ」
キュレーションしている講義:「おうちパーティー学」「おいしい盛り付け学」
「おいしい写真を撮ろう」