講義レポート

文脈をもとに山旅を編むということ

文脈登山で世界を拓く 第1期卒業生講義レポート

文脈登山で世界を拓く 講義レポート 第1期 石橋保子

今年はいつから山旅に行けるかなあと、ぼんやり思っていた6月のこと。去年したイギリスの山旅仲間3人とのグループメッセージで、在英の友達から「気になる!」のメッセージと共に、自由大学のこの講義のリンクが送られてきた。

文脈登山で世界を拓く?

自由大学?

登山絡み?

ちょっと文学的?

文脈??

自分の中にわいてくる疑問を抱えながら、「これってどういう内容なのかな?」「面白そう!」などと友人たちとやり取りをし、ほぼ受講する気でいながらも、実のところ多少の迷いがあった。

登山をはじめて17年。

アウトドアメーカーに勤務し、たまに山のWebマガジンに自身の山旅の記事を書いたりしている。登山を極めているというよりは、好きな旅を自分なりに続けていて、登るだけではなく現地の文化に触れたりする「山旅」というスタイルが好きだなあと、ぼんやり思っていたところだった。特に日本の山には、山岳信仰や神話や歴史と深い関係があるし、そういった背景に触れることは好きだったけれど、深く追求はしたことはない。


そんなことを色々と考えるうちに、旅に対する視点の深さや広がりが持てたらいいなというのと、新しく何かを学ぶことや、山というキーワードをもとに新しい出会いと繋がりを持てることへの期待があったりで、申し込むことにした。メッセージで互いに盛り上がっていた他の2人の友人は、神社学を申し込んだ。

第一回目、あるテーマをもとにしたフォトツアー。

7つの山旅をきれいな山の写真とともに、空想の旅へとガイドしてくれた。写真に見入りながら、教授の話す言葉一つ一つに頷く。

行ったことのあるエリアや山も、視点や興味が異なると、まったく違った山旅になることにびっくり。縦軸と横軸で編まれた山旅の想像以上の深みに、正直なところ「へー!」とか「ほー!」しか出てこないほどだ。

ここのエリアにはそこまで深い話があったのか! いや、あるとは思うのだけれど、興味がなくてこれまでは調べたりしなかった。いや、というよりも、たとえ興味があったとしてもそこまで深掘りすることがなかったのだ。今までは。人によってもちろん視点も興味も違うけれど、その深掘りの仕方や、視点の違い、楽しみ方に無数の選択肢があることに、改めてびっくりもし、深みのある新しい視点をもらった。

文脈、山脈、水脈、鉱脈、木脈、血脈……。続いてきた脈。講義にのめり込みながら、自分の中に流れている何か、求めたい脈のようなものを考える時間となっていく。

ワークショップのとき、教授は「今の気分で」「今日は今日の音を奏でよう」と言う。今は今の気分で感じること思うことがあるし、何回も繰り返すとまた別の何かが生まれてくる。それでいいんだ、ということに気づけたことも、受講して大きかったことだ。今まではつい正解や結果を求めてしまう自分がいて、一度言ったことに後悔したりしていたのだから。

教授の知識の深さや、深さ広さそして幅の広さに驚くばかりで、こんな話を聞いてから山に登ったら、さぞ楽しいだろうと思う。山に行く前に調べておきたいことなども発見したし、講義の中で繰り出される話には興味がつきない。

講義の後のオンライン懇親会では、より参加者の偏愛をもとにマニアックな話が展開され、ここでも再び私は「へー!」とか「ほー!」ばかり。しかし、その時に出た色々なキーワードを元に調べてみたりして、更に部屋で「へー」とか「ほー」とか、独り言が続く日々が楽しくもなった。

知らないことを知れるって、楽しい。

みんなの話を聞き、自分のことを話すうちに、自分はこういうのが好きだなと確信できるようになったこの講義。あっという間に回を重ね、今度は自分が山旅を編み発表する最終回となった。

私が選んだのは『山旅×吉田博 山の木版画シリーズを巡る旅』というテーマ。三回目の講義で、自分の好きな「旅の本」をテーマに話す時も、この画集のことは忘れていたのに。なぜか講義が終わって翌日に「あ、そういえば好きだった」と急に思い出し、するすると自分の視点で山旅を編むことができた。

講義を受けたおかげで、この画集の根底にあった山の歴史や時代背景にまでしっかりと想いを馳せるということを知った。自分にとって、新しい視点だった。

同期のみんなの編んだ山旅も個性があり、言葉の端々に偏愛が感じ取れる。自分の好きなことを話す時の声って、真っ直ぐだと思う。その高揚感はオンラインでも伝わる。きっとそれぞれ、今の気分の山旅を想像し、新しい山旅をどんどん編んでいくのだろう。教授が、それぞれの話に「もっと深く知りたい」と興味深く問いを投げてくれることでも、更に自身の中にあるなにかに気付いていくことも多かった。

学んで、気づいて、深みを増していく――。新しい視点と新しい山旅仲間が増えたことで、これまで続けてきた山旅がもっと楽しくなっていくことは間違いないし、行きたい理由も行く理由もますます増えていくはずだ。

まだ講義後に山旅はできていないけれど、自分の「偏愛」と新しい「視点」を掛け合わせた山旅ができる日を、とても楽しみにしている。そして、何よりオンラインでの出会いからオフラインで同期のみんなと会える日、語れる日が、とても待ち遠しい。

 

TEXT :文脈登山で世界を拓く 第1期卒業生 石橋保子さん



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