ここで言う「文脈」とは、こういうことです。
ひとつは、山の文脈のこと。山が成り立つ地理的な背景と、物語的ないきさつ――つまり、その山に脈々と流れる「自然の営み」と「人の営み」のことです。
神話や民話、古代史や戦国史、地質や地形、文化や産業、そしてそれらを紡いできた人々の物語などなど。そういうことに注目すると、登山が山はもちろん地域を知る最適な手段だということに気がつくでしょう。なにしろ、知的好奇心を刺激されるほどに面白く、いつしか日本に詳しくなっていくのですから。
もうひとつは、私たち自身の文脈のこと。登山や山旅という行為なのか、山そのものなのか、そこに行かなければ体験できない特別な何かなのか、はたまた山にまつわる歴史や文化なのか……。
そこには「なぜそれに興味があるのか?」という問いと、自身の原体験や人生のドラマといった、私たちそれぞれの中に流れる物語があると思うのです。その人ならではの持ち味につながる大切な文脈だと、私はとらえています。
この講義では、これら2つの「文脈」をベースに、登山・山旅を愉しむ視点と実践方法について探求していきます。言うなれば、山脈ならぬ「文脈」を登山するための試み。
登山経験がある人にとっても、まち歩きしか経験のない人にとっても、なんかピンときて受講した人にとっても、登山という言葉の持つ先入観をアップデートする機会となるでしょう。ひいては、みなさんの登山スタイルや山旅術までアップデートするヒントになるかもしれません。
文脈の山旅を愉しむ「偏愛視点」と「掛け合わせのテーマ」
ベースとなる2つの文脈を具体的に考察・探求する重要な指針に、偏愛の視点、つまり私たちが心に秘めている「テーマ」があると考えています。
私自身で言えば、歴史散策や文化探訪といった個人的な「偏愛するテーマ」が色濃く残っている低山や里山に興味を覚え、低山トラベラーと名乗って山を旅する人生がはじまりました。
たとえば「尾根」×「戦国時代の山城」だったり、「修験」×「岩山」だったり、「絵画」×「森林」だったり、はたまた「自然崇拝」×「水源」だったり。写真のような「女神」×「山河」なんていうテーマの掛け合わせも楽しかったなぁ。
まあ、自己満足と言えばその通りなのですが、こういう自分の内側に宿る興味の灯を大切にしたいし、それを実際にこの目で確かめるために山里の物語や土地の文脈を辿って歩くことが、本当に楽しいんですよね。
こんな風に、自分の偏愛しているコト・モノを棚卸しして、登山や山旅にテーマとして掛け合わせてみると、その愉しみ方は無限に広がっていきます。尽きることのない探求心と、国土の七割を占める山野のフィールドさえあれば、旅を栖とするこれからの人生はきっと楽しくなる。ここに、私たちの文脈登山が始まるのです。
文脈登山を面白くする「フィールドワーク視点」
課題を調査したり、胸に秘めた疑問を確かめるため、実際に現地を歩くことを「フィールドワーク」といいます。研究者の学術研究には不可欠な活動で、研究テーマに合った場所に身を置くこと、実物を観察すること、聴き込み取材や調査を重ねること……。ときに実地踏査(実踏)なんて言うこともあります。
私自身の山旅のスタイルは、まさにフィールドワーク的な登山がその礎にあります。気になることを確かめるために山に入るわけです。
こうしたスタイルは、いわゆる“登山”という言葉のもつイメージとは異なるかもしれません。ピークを踏まないこともありますし、山よりも麓の里や渓・街道に夢中になることもしばしば。やや“謎解き”に近い面白さも手伝って、現地で手がかりを発見した時の感動はひとしおです。
あなたは私の文脈を、私はあなたの文脈を追体験する
つい先日、山仲間たちとオンライン飲み会をしました。山や旅に関する本や道具やお土産などのアイテムを持ち出してきて画面の向こうの仲間たちに見せながら話したのですが、これが楽しくもあり、そして利点も多々ありました。
「ちょっと待ってて。その道具もってくるよ」なんて言いながら、互いの山旅の成果や工夫なんかを共有し合ったり、偏愛の山談義をしたり、道具のレクチャーをしたり。当たり前のことですが、画面の向こう側はそれぞれの自宅。さまざまな山の資料や道具をその場で持ち出すことができるので、教室で行う講義とはまた違ったワクワクを作れると考えています。
あっち側には、どんな世界が広がっているのだろう――。
実際に山を歩いているときに、いつも思うことです。稜線に出たり、峠に乗っ越したり、谷へと下ったり、街が見えてきたり、樹林帯に突入したりした時に「その先になにがあるのだろう」とドキドキする感覚。
大切なのは、その向こう側に待っているであろう新世界にワクワクすること。実際の登山と同じように、オンラインの向こうに広がる世界も、ぜひ愉しんでください。
オンとオフの循環「フィールドワーク&ハイク」
山旅を考察する講義に集いしメンバーとともに、いつか実際にフィールドワークしたいと考えています。ということで、オンライン(座学)とオフライン(実踏)を両輪とした【全4回+α】のステップで講義を進めていきます。
◎4つのステップ + アルファ
1.トーク 話すこと、聴くことで考察を始める
2.ワーク 宿題、ワークショップを通して「テーマ」を深める
3.ライク 身の回りのコトモノで「好き」を発見・表現する
4.ハック 最終回は考察の成果発表、旅をより愉しむ小技小道具
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α.ハイク 大内監修の特別フィールドワーク(時期未定)
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まだ会ったことのない誰かと誰かが距離の壁を超えてつながり、山旅の愉しみ方や偏愛の視点を披露し合って、過去も未来も愉しめる登山スタイル・山旅ライフのアイデアを交わし合う。それが、この講義の根っこの部分。
よく足を運ぶ吉祥寺の書店「ブックス ルーエ」のブックカバーに、こんなひと言が添えられています。
「ページをめくれば、旅がはじまる」
本を手にした私たちは、その1ページをめくった瞬間から旅に出る――。希望に満ちた冒険の情景にワクワクする名言です。この講義は、そういうことをイメージしながら、みなさんと一緒につくっていきたいと考えています。
▼この講義のニュアンスをつかむ参考ページ
①登山は知的な大冒険 文系登山に出かけよう!(外部サイト)
②「東京・日帰り登山ライフ」レポート
ノウハウだけじゃない、「山」+「○○」を得られる講義
(第三期募集開始日:2021年7月21日)