講義レポート

古き良き「おすそ分け」が未来をひらく

自分の本をつくる方法・Lecture Planning学 教授コラム 深井次郎(自由大学学長/教授)

 

幸せな働きかたとは、どんなものだろう。表参道で自由大学を営みながら実践しているのは「おすそ分け経営」だ。

おすそ分けは、古き良き風習。祖母や母が畑で獲れすぎたナスや作りすぎた「肉じゃが」を、お隣さんに配りに行く。「つくりすぎちゃって」「あら、いいの? 助かるわ」夕飯前のやりとりが日常だった。

まず自分が欲しいものをつくる。もし余ったら、必要とする人におすそ分けしていく。この現在の働き方に行き着いたきっかけは、よしこさんのおかげ。彼女はホンダ創始者のひとり藤沢武夫氏の奥様だ。銀座のデパ地下でランチをしながら、人生相談にのっていただいていた。

起業したばかり25歳当時のぼくは、疲弊しきっていた。有名経営スクールでは「はたらくとは、傍(はた=他者)を楽にするものだ」と教わっていたし、報酬は「我慢料」だと思いこんでいた。どんなに尽くしても買ってもらえない、未来が見えない日々が続いた。

「喜びに向かうことよ。まずは自分の心を満たすことから始めたらどうかしら」よしこさんの言葉は天啓だった。聞くと、本田宗一郎氏の原動力は、利益でも名誉でも技術でもなく「喜び」だったそう。「俺は誰でもなく、自分のために仕事をする」とも言い切っている。

自分が欲しいものをつくる、だからそこには嘘や妥協がない。たとえ売れなくても評価されなくても、もともと自分のために始めたこと。心は満足だ。結果よりもプロセス自体を楽しめる。それからは共感し合える仲間が集い、健やかな働きかたで、少しずつ仕事もまわるようになってきた。

人口減で経済縮小の日本において、給料と出世だけを動機にしては行き詰まる。人生100年時代、老いても働くぼくらの世代は、自己犠牲だけでは心身が続かないかもしれない。

あなたが大好きなこと、おすそ分けできるものは何ですか?

TEXT: 自由大学学長/教授  深井次郎

担当講義: 「自分の本をつくる方法」  「Lecture Planning学」



関連する講義


関連するレポート