講義レポート

コラム エゴを手なずけ、40歳クライシスを乗り越えよう

「フリーランス40歳定年説」が数年前から話題になっています。「好きを仕事に、自分らしく働こう」そんな明るいコピーが踊る風潮の中で、冷や水となりました。

経験を積みベテランになっていくと、技術は上がります。でも、そのぶん要求するギャラも上がり、肥大したエゴのせいで扱いづらくなってしまうクリエイターも多いのです。

発注する企業の現場スタッフが、どんどん若い人に変わっていく。するとコストが高く、扱いが面倒な年上のベテラン選手をわざわざキャスティングしなくなる。そんな構造が生まれるわけです。

せっかく好きを仕事にできたのに、40歳で定年はもったいない。長く続けたいですよね。人生は、学び続けなければならないようにできています。一時期うまく行っも、その成功こそが次の転落の原因になっていく。この人生ゲームは、うまく設計されているものです。

40歳定年説。この問題の本質は、年齢ではなくエゴ。成功すると誰しもエゴが肥大します。「余人をもって代えがたい」とのぼせ上がってるのは本人だけで、悲しいかな、いくらでも代替可能なのが現実です。

主役しか受け入れられない俳優は、どうしても出演作が少なくなりますね。倒産、失業に見舞われた人の共通点は、水面下で危機が進行している時に、危機感を感じていなかったこと。「自分は大丈夫」と慢心して、対応が遅れたのです。

でも、暗い話ばかりではありません。危機とは、よくみると危険(ピンチ)と機会(チャンス)、両方の字で成り立っている。新しい自分にアップデートできる絶好のチャンスでもあるんですね

 

「自分は主役ですから、悪役は演じません」

「このスタイルで成功してきた自負があるので、修正は受け付けません」

「巨匠なんだから、若い人のアシスタントなんてできません」

 

そうではなくて、自らカテゴライズしてきた枠を外し、やってみるのです。やったら、必ず学びがあるから。

風の時代において、リーダーは固定ではありません。刻々と風向きが変わる中で、一人のリーダーが全方位に詳しいはずはないでしょう。

みんなが嵐に飛ばされて「ここはどこだ?」と途方に暮れている時に、「私この辺なら少し土地勘あります」という人がリーダーになる。「みんな怪我してる」時は手当てに詳しい人がリーダーになり、「お腹が減った」なら食料調達に長けた人がなる。

戦隊ヒーロー「ゴレンジャー」は赤レンジャーだけが主役ではありません。青、黄、緑、ピンク、毎週それぞれが活躍しスポットが当たります。それぞれが主役であり、脇にも回れる。

自分を空から俯瞰して、全体の1素材として考えられるか。「チームのために」、もっと高い視座では「社会のために」、自分という駒をいまどの役割に置いたらいいだろう。己を知り、世界を知り、宇宙視点で俯瞰できるどうかです。

この俯瞰力を鍛えるには、どうしたらいいでしょうか。ピックアップゲームをくり返すのです。初対面のメンバーたちに声をかけて、即席で試合をする。

即席チームなので、みんな自分の役割を探りながらプレイすることになります。全員の特性を把握して、シュート力がある選手がいたら任せて、自分はアシストやディフェンスで貢献する。もし自分が体力的に足を引っ張りそうなら、プレイヤーではなく審判をしたり、監督やコート外からアドバイスをする。プレイヤー以外の役割も選択肢に入ります。集まるメンバーのバランスで、常に自分の役割は変わるはずです。

ぼくはバスケが趣味で、毎週ピックアップゲームをやってます。エゴをなくす訓練をしながら、いつもと違う役割を演じるたびに、新たな一面が引き出される感覚がある。

仕事も同じです。顔見知りの輪から飛び出して、できるだけピックアップゲームを経験しましょう。初対面のメンバーが集い、協働プロジェクトをやってみる。いつもはデザイナーだけど、チームのバランスを見て今回はライターに挑戦するとか。いつもは経理だけど、誰も手を挙げないから企画を担当したり。いつもはボーカルだけど、自分より上手な人に任せて、作曲をやってみる、舞台照明をやってみる。

ピックアップゲームをする広場として、自由大学を活用している人も多いです。

TEXT:自由大学学長・教授  深井次郎

担当講義:  自分の本をつくる方法



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