講義レポート

妄想スパイス学

インドに学ぶスパイス学(初級) 教授コラム 

スパイスを携えて世界中の市場の食材でカレーを作りたいんです。

ほほう。

或るカメラマンがそのようなことを言って、私が定期的に開催しているスパイスの講座を受講してくれた。
確かにスパイスさえ持って行けば、世界中の市場の食材を何らかの形でカレーにできる。まあターメリック、コリアンダーやクミンが入っていれば日本のほとんどの方々が、カレーと感じるものが出来るでしょう。

考えてみれば、スパイスというものは世界中に溢れ、そのブレンドや引き立たせるスパイスひとつで個性がでてきて、その地域感・国感がでてくる。もちろん家々でユニークさもでてくる。
同じクミンを多用するインドとメキシコでも、ブレンドが違うだけですごくメキシコ感がでるものもできるし、インド感が全面にでるものもできる。

そんな事を悶々と考えながら先日、インド・ネパールを旅した。毎年仲間たちと行っている旅だが、毎回テーマを持って旅をして、それを一冊の本にしている。
今回のテーマは「アチャール」。アチャールとは英語でいうとピクルス。スパイス、塩、油などで様々な素材を浸けて保存したものである。
インドでのアチャールとネパールでのアチャール。「保存をする」と言う目的は同じだけど、浸けているもの、使っているスパイスの量などは全く違う。違うので見た目も異なってくる。
なぜ違うのかを考えると、色々と妄想は膨らむ。

「きっとこの地方では、作物をがとれる時期が限られているのだろう。」

「海が近いので、普段食べない魚の部分をアチャールにするのかな。」

「砂糖の生産量が多いから、甘辛いアチャールが多いのだろう。」

「家の懐事情というものもあるのだろう。」

どのようなスパイス、食材を使うかで地域や国の食文化から歴史的背景、経済状況などが垣間見えてくるのがおもしろい。

昔から良く父に言われたものである。
「すべての人たちがキッチンに立てば、ほとんどの問題は解決するであろう。」 私の父もその父によく言われたらしい。

スパイスを携えて世界の市場を旅する。 スパイスでカレーを作っている中に見えてくる世界。様々なことが繋がって見えてくる歴史。わくわくさせるような妄想。
色鮮やかなスパイスの世界の背後に広がる沢山のことに胸躍らせながら、悲しいことや新しい発見、驚きを食卓で感じることができる。

「スパイスを学ぶ」ことは「世界を知る」ことにもなるのだろう。

日々妄想と空想を繰り広げて、スパイスに携われる喜びを噛み締めて行こうと思った。
スパイスとともに漬け込まれた様々な食材を見るに見た10日間。スパイスに漬け込まれたのは私自身であった。

(担当講義:インドに学ぶスパイス学(初級),  インドに学ぶスパイス学(中級)   教授:  メタ・バラッツ  )

 

 



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