講義レポート

旅の道標

『新旅学のすすめ』『未来の本屋学』キュレーターコラム

国内外問わず自分のあまり知らない土地を旅するときに言いようもない気持ちを感じることがあります。それはこれからスタートする旅、そしてこれから起こる出来事への期待と不安が表裏一体となって襲って来るのです。この高ぶる期待と不安の入り混じる何とも言えぬ気持ちを鎮めるために、旅先で必ずチェックする場所が僕にはあります。

まずは、その土地の人々が食べているものを知るために市場やマーケットへ。そして二つ目として、その土地の人々がどのような本や書物を読んでいるのかを探るために、本屋や古本屋へ。そして三つ目は、その土地の人々が日常生活で使っている道具の色や形を見たいがために立ち寄る骨董屋やヴィンテージショップです。だいたいこの三つ目あたりまで来ると平静を保ちながら、これは良い、あれは自分とは合わないな、などといつもの調子が戻って来るのです。

さて、一つ目の「食」と二つ目の「本」の共通点として、自分の中にインプットするものだ、ということが言えるでしょう。「摂取する」とあえて表現してもいいのかもしれません。「食」は口から味や栄養素を体内に「摂取する」ことでエネルギーを生み出します。一方、「本」はそこに印字された文字や写真を情報として目から体内に「摂取」し、頭でイメージに変換していきます。自分自身というものが、自分が「摂取する」もので出来上がるとするならば、高ぶる気持ちを抑え、旅先で地に足ついた状態にするためには、その土地のものを「摂取」してしまう方法が実に手っ取り早いのではないでしょうか。

中でも「本」や「本屋」に関して言えば、「本」そのものや「本屋」の空間には、作り手の視点が隠れています。その視点のフィルターを感じ取りことが出来ると、さらに深くその土地の人々の中に入り込むことができるのでしょう。もし、その場所が使う言葉も異なる海外の地ならば、描かれている言葉の意味までを理解することは難しいかもしれませんが、「本屋」の全体の世界観ということとなれば、どういった装丁の本を面出ししているか、その並び順なども感覚として取り入れることができます。

旅に必要なものは、ただの「map」ではないです。本当に自分が必要としている「摂取」していきたい情報は、何ですか。きっとそれはインターネットで検索しても出てきません。形として目に見えないあなたが必要としている情報は、自分の目で見て、耳で聞いて、頭でイメージして、心で感じ取って、手で形にしてみて考え続けていきましょう。それが、あなたの「道標」となるはずです。



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