講義レポート

自分の仕事を創る、旅

キュレーターの旅の視点

僕は毎年50カ国以上を旅して回る。旅のアウトプットとして仕事(都市開発や地域経営の改善に努めている)を作ったり、自由大学で講義を作っている。旅が多いことで発生する厄介はパスポート査証欄の増補申請ぐらいである。新年早々も増補にいくはめに。つい最近(2015年の春に)新しく増補しうたばかりなのに。

さて、旅(移動)をする理由ははんなのか?である。僕はこう考えている。まず、移動&宿泊コストが劇的に低下している(しつづけている)。知りたい、つながりたい、仲間にしたいなどの目的を率先して達成できる。

予測不可能な現象が日々起こる中、凝り固まった考えや哲学も時には仇となる時代。要するに時代の変化を待つのでなく、変化に気づくことが大切である。その変化の震源地へ行ったり、専門家に話を聞くでもかまわない、移動しながら柔軟に物事を捉える姿勢を旅では養える。年末年始にアフリカでサファリをしたが、日本にはない異文化な環境、風習、そして、景色をみているだけでも自分の凝り固まった考えは色あせて行くもので、相当なリフレッシュができるものだ。更に、生活や仕事の現場が他国化している。日本の中ですらも二拠点や三拠点でライフワークをこなす人が増え始めているくらいだ。

そもそも僕が定義している旅とは?に答えておく。簡易なマトリックスではあるのだが、向かって左下のトリップ型が僕が示す旅の姿である。(図1参照)ここでいいたいのは、一般的に僕たち日本人はジャーニー型やヴァケーション型の旅には慣れていない。理由は長期的に仕事を休めなかったり、そもそもカオスな状況を受け入れることに不慣れだからだろう。一方、短期集中型での移動は旅行や出張などに我々日本人は得意だ。そこで短期決戦で無計画な旅=トリップ型の旅へ出よう、というのが僕の提案だ。

もう一つの視点はこうだ。経済の価値は企業であれば提供するサービスやプロダクト、個人であればそれまでの経験とそこで習得した技能の希少性に比例すると思う。近未来では移動はもっと容易になるし、移動範囲も宇宙含めて広がって行く。だから、移動自体に付加価値はつかない。当たり前だが、ただの移動ではなく、訪問した先(現場)でより多くの変化や気づきを得ること。そして、先端的な技術やサービスに触れて自国に輸入することも可能だろう。

例えば、福島原発事故と同レベルの事故を引き起こしたのはチェルノブイリ原発事故だけだ(1986年に勃発したウクライナ)。放射性物質への対応や廃炉処理における問題は書籍などでも把握はできるかもしれないが、事故以後の各被害地に住む人々の感情や政府や自治体の対応に対して抱いた不満や希望などの実態までは浮き彫りにされないだろう。さらに、事故後、原発地域を再開発させている行政や都市計画者、民間企業や教育機関関係者との対話を進める事で、福島や他の原発地域が抱えている課題に対しての解決策を持ち込む事ができるかもしれない。翻訳機能を使いグーグルを活用すれば一定のレベルまでは読み込むことができるが、直接専門家に教えを請うことで解釈のレベルは深まるし、その場で疑問も解消できる。また、そこで培った様々な決断とその結果は人々が作り出した叡智である。

もう一つ、トリップ型の旅にはテーマが必須である。テーマに希少価値を持たせる為には自分の性格や嗜好性、興味や趣味といった旅の主人公であるあなたの個性の色が価値となる。

僕は東北地域全体の地域開発のプロジェクトを手がけている。中でも原発事故で被害を被っている地域で再開発を進めるプロジェクトには日本人として関わりを持ちたいと思い、かねてよりデスクリサーチや廃炉関係や再開発に携わる方々にお話を聞く機会をつくっては話を聞かせていただいた。そして、関係者のほとんどがチェルノブイリへの視察などは済ませていない。また、今後も計画がないという。その2週間後に僕はチェルノブイリ原発事故跡地へ向かっていた。すくなくとも福島原発跡地や周辺地域の32年後が透けて見えるはずだと信じていた。そう思ってすぐに旅に出た。実際、10万円の費用と3日ほどの滞在でお釣りがくる。現場に行って思うことはテーマに対する解像度が高まるということ。実際にウクライナは2015年からロシアとの戦争に四苦八苦している。その数年前には革命も起きている国だ。原発事故跡地の再復興ではなく、講義の意味で、回復力のある都市の作りかたとは?という題材で明後日も、日英で10冊も検索はでてこないだろう。仮に書籍と関連資料だけよりも、現場での取材、偶然の出会いによる情報の収集は様々な気づきや提案を呼び起こす。言い換えるのであれば、ウクライナが世界100各国近くをま割ってきた中でももっとも復興や回復力の高い地域の一つに入るだろう。しかしこの興奮はなかなかに表現し共有はできないし、現地での対話から得た様々なヒントやアイディアは日本では得られなかったはずだ。日本、ウクライナ間の移動中(3日間)で得た考えや構想をまとめ、日本に到着した翌日には簡易ではあるが関係者に提案をした。そして、年が明けてからすぐにプロジェクトが始動している。

最近では古代エジプト文明をまわる旅からNew Food Cultureの起点と題して、ポルトガルのリスボンやバルセロナへの旅。サーキュラーエコノミー(循環型経済)を軸とした未来都市経営と題した旅ではフィンランド、ドイツ、イギリス、オランダを隈なくまわった。

これら一連の旅で得られた知恵はチェルノブイリ同様、企業や行政、専門機関へ提案をしている。しかも、遠くはインドの都市開発関連のプロジェクトにまで及ぶ。

改めて、旅の効果を僕なりにまとめておく。

1、自分の趣味嗜好、仕事や哲学を軸にした旅は経済的効果ももたらす。
例:都市開発や地域活性の文脈ではなるが、この記事は参考になると思うので一読してほしい。

2、知識よりも知恵が大切。更に、継続的に知恵を作り出せる生態系をグローバルにつくっておくことが、圧倒的優位性と希少性を担保する。

3、旅>経験>映像>書籍



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