「どうして哲学科に入ったんですか ?」、「なんで哲学に興味をもったんですか…?」とよく(怪訝そうに)聞かれます。お気持ちは、よくわかります。しかし、哲学は…実のところそれほど特殊なことではありません。誰でもふとした時に、「そもそも愛って何だろう」、「本当に正しいことって何だろう」と考えたことがあるはずだからです。大学での哲学や哲学書は、確かに難解だと感じることがありますが、哲学者や哲学徒は、いつでもこうした問いをただひたすらに追いかけてきた(そして少しばかり行き過ぎた)というだけなのです。
「哲学は役に立たないのでは?」という声もよく聞きます。しかし、今や私たちの生活にはありとあらゆる情報があふれ、多様な技術が組み込まれていく中で、「本質」を徹底的に私たち自身の言葉で問いなおしていく力が急速に必要とされてきています。理にかなっていない社会規範は徹底的に批判し、今本当に価値のある生き方や共同体の在り方とは何かを考えるためには、哲学的に考える力が必要となるでしょう。
しかし、それはそう簡単ではありません。普段友人とする「会話」では、挨拶や単なる情報の交換で済むことを、哲学的な思考では回答を留保し、自己や他者との「対話」の中で徹底的に吟味し続けなければならないからです。哲学という営みは、可能な限り多様な観点を取り入れ、私たち自身や社会が変容していく営みであり、すぐに答えを出そうとしないこと、異なる意見に耳を傾けること、そして変わり続けていくことに対する忍耐を必要とします。
他方で、哲学は究極の「コミュニケーション・ツール」であると言っていいかもしれません。「哲学する」ようになると、私たちは他者だけでなく自己とも「対話」するようになるからです。そして対話するようになると、他者の持っている価値観や、自分の思ってもみなかった行動原理に気づくことがあります。その本質や妥当性についてもっと知りたいと思うようになる――こうしたプロセスの中で、私たちは他者や自分に対する理解を本当に意味で深めることができる――
これが、今、哲学的に考えることの意義の一つだと考えます。
《影響を受けた本》
内山節『哲学の冒険 生きる意味を探して』平凡社ライブラリー(1999)
哲学という「営み」に触れるに際して、身近な問題を切り口にしていくため、とても入門的であるだけでなく、同時に古今東西の「哲学思想」にも適度に触れることができました。そして、哲学や思想が私たちの生活とどのようにかかわっているのかということを、高校生だった頃の私に語り掛けてくれたのがこの本でした。哲学にほんの少しだけ興味がある人、これから哲学を学ぼうとする人、既に哲学を学んでいる人、どんな人にもお勧めします。
Text : キュレーター 堀越耀介
担当講義: これからの社会をつくるための哲学