この講義にピン!と来た方はきっと、誰かに用意されたコースを消化するような旅ではない、もっとオリジナルの、好奇心やエネルギーが内側から溢れてくるような旅をしたいと願っている方なのではないかと思います。「新旅学のすすめ」は、そういう人が一歩踏み出すための背中を押してくれる講義だと思います。
旅しながら学ぶ
2018年1月に訪れたスペイン・バスク地方で、モンドラゴン・チーム・アカデミー(Mondragon Team Academy)という、教室もない、教授もいないというユニークな大学に出会いました。そこに入学した学生は、Day1からほかの学生とチームを組んで会社を設立し、フィンランドやインド、中国などに長期滞在しながら、自らの関心やスキルを活かしてお金を稼ぐことを通してアントレプレナーシップ(起業家精神)を学んでいくそうです。
学び続けること、クリエイティブであり続けることが人生を楽しむうえで不可欠となる時代に、旅はその主要なツールになっていくだろうと感じています。日常の発想から脱却すること、新たな習慣を獲得すること、違いに共感する力。旅には、さまざまな学びの要素が詰まっています。また、個人での旅はもちろん、例えば共通の関心をもった仲間やプロジェクトチームと出かける旅は、得られる学びもより重層的になっていくはずです。
そんな学びの旅のコーディネイトを仕事にできたらいいのに。そうバスクのお総菜屋さんでぼんやり妄想していたとき、たまたまSNSに流れてきた「新旅学のすすめ」の案内にピン!ときてしまった私は、はじめて自由大学の門をくぐりました。
新旅学で大事なことは、「アウトプット」と「フィードバック」
この講義で自分が得たひとつの大きな気づきは、旅をアウトプットすること、そしてそれをどんな切り口でアウトプットするか?が大事だということです。『旅をしているあいだ、何を考えて写真をとっていますか?』とキュレーターの本村さんは問いかけます。よく知られた観光名所の前でピースして写真を撮ることが従来の旅のアウトプットだとするならば、自分なりのテーマを持って旅をすること、そのテーマで旅先の何気ない日常を切り取っていく写真が、新旅学のアウトプットになります。
いまは、その写真に自分視点のコメントをつけて即時にInstagramへアップすることができる時代です。近いテーマに関心のある友人のコメントがあなたの発想を膨らませてくれるかもしれないし、数日前に旅の中で知り合った人が、そのテーマを深めてくれる人や場所を繋いでくれるかもしれない。そうやって、偶然を引き寄せていくことのできる人が、豊かなオリジナルの旅をつくっていけるのでしょう。
講義の中では「Connecting the Dotsの旅」という表現をされていましたが、旅をするのに綿密な計画は必要ないけれど、自分なりのテーマを持って、その時々での気づきや学びを記録して、それを誰かにみてもらって、フィードバックをもらう。これを短い時間でやっていく習慣を獲得することが、予期しない偶然を引き寄せていくコツなのだと学びました。
ちょっと踏み出してみたら、引き寄せられた偶然
とはいえ、講義中には自分なりの旅のテーマ、どんな旅をコーディネイトしたいのかは、まだぼんやりとしていました。でも、せっかくみんなに背中を押してもらったし、何かアクションしたい。そう思っていた矢先に、バスクを一緒にまわっていた現地の起業家の友人から、日本のある企業に「バスク・学びの旅ツアー」を提案したいから一緒にやらないか、と誘われました。関心をもちそうな何人かの同僚や友人にも会ってもらい、小さなプロジェクトが動きはじめました。
ふだんなら、もう少し慎重に行動していたはずです。しかし、講義を通して、旅というツールに自分がどんな可能性を感じているのかも理解が進んでいましたし、バスク旅行のアウトプット→フィードバックのサイクルもまわしていたおかげで、最初の一歩を軽く感じたのだと思います。
旅の捉え方や、講義の楽しみ方は人それぞれ
「新旅学のすすめ」では、参加者みんなの旅の捉え方が違う中、それらをごちゃまぜにして進んでいくことも醍醐味のひとつです。私が参加した第2期には、週末に各地のゲストハウスへの宿泊を楽しむ旅について考えられたり、日々の仕事を旅にアナロジーして、職場の同僚との関係性を問いなおされた方もいらっしゃいました。
自由大学は、「答えのない問いを問い続ける」場所とありますが、ここまで書いてみると、旅はどんなテーマにも溶けていく絶妙なツールだなと、あらためて思わされます。誰かと比較されることはありませんし、キュレーターのお二人は、ピン!ときたあなたの好奇心に、真摯に寄り添ってくださると思います。
Photo & Text:第2期卒業生 山崎 光彦