講義レポート

「自信をつける」という役割

「地域とつながる仕事」3期4回目講義レポート

第4回は、日本の地域事業者と海外在住のクリエイターをつなぐ “デザイナーズ・イン・レジデンス”プログラム「DOOR to ASIA」及び姉妹プログラムの中心運営メンバー・矢部幹治さんと、カンボジア王国のサンボー・プレイ・クック遺跡に魅せられて大学卒業後にカンボジアに移住した吉川舞さんがゲストで登場した。

*注釈
「DOOR to ASIA」は、アジア各国のデザイナーたちが地域に一定期間滞在し、地元事業者と自国をつなぐための “コミュニケーションデザイン” を制作するデザイナーズ・イン・レジデンス形式プログラムです。(DOOR to ASIA公式HPより、以下DtA)

東日本大震災を機にはじまった「DOOR to ASIA(以下「DtA」とする)」は、アジアで活躍する若手のデザイナーたちが東北の地域事業者のもとに滞在する形でプログラムが進んでいく。事業者は、水産加工業者、酒蔵、農家、陸前高田市の観光課など実にバラエティ豊かだ。

デザイナーたちは3日間に渡り、事業者のインプットをするために現場体験(デザイナーなのに製造ラインに入ることも)と事業者の代表の家等にホームステイする。それらをもとに、プログラム後半ではデザイナーたちが事業者の商品を自国に伝えことを仮定して「コミュニケーションデザイン」をゼロからつくりあげる。

高いコミュニケーション力で世界を渡り歩く矢部幹治さん

3年目となった2017年は、DtAがきっかけで海外に製品を販売する事業者も出てきた。この動きについて矢部さんは「DtAでは他国のデザイナーが事業者を客観的に分析し、わかりやすくヴィジュアル化することで、事業者さん自身が自信を持つケースが多い」と話す。

この事業者自身が「自信を持つ」という変化は、とても大切だと思う。自信とは、誰かに褒められたり、自分で小さな失敗と成功を重ねたりして積み上げていくものだ。けれどずっと同じ事業を続け、大きな変化が落ち着いてくると、そもそも事業をはじめた意味・自分たちの強みや、守るべきことなどがぼやけてくるものなのかもしれない。

対象(事業者)に対して客観的な視点を持ち合わせながら積極的に関わることでじわじわと自信をつけることは、特別スキルを持ち合わせていなくてもできることだと思う。他からの目が行きづらい「地域」にとっては、違う場所に住んでいる(異なる文脈の場所に住んでいる)ことが価値になる。2つの場所を比較することで、お互いの個性が際立ち、自分の住む場所への理解が深まるだろう。

加えて、大事なのは「積極的に関わる」ことだろう。地方創生ブームに乗ってお役所から大きな予算が積まれ「地方創生コンサル」の仕事が急増しているが、ほとんどのコンサルは「観察と分析、改善提案だけして終わり」なのではないか。大事なのは、そこから先の改善を一緒に伴走してくれる存在だ。

カンボジア王国からオンラインで参加してくれた吉川舞さん

そもそも走らないと体力はつけられないように、何かをやらないと自信もつかないと思う(根っからの自信家は別として)。そういう意味で、サンボープレイクック遺跡群のある村の住民さんたちと同じ目線に立って、村の未来を語りながら、手も足も使って全力で走っている吉川舞さんも同じような役割を担っているのだと感じた。よりディープに、客観的な視点と積極的な姿勢で関わっている。

一緒に走ってお互いに自信をつけることができたら、どんなに気持ちいいだろうかと心が躍った第四回でした。

サポートスタッフ・山口祐加



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