ピュアさの保護活動
第三回は、ゲストに高知県室戸市などで海藻の陸上養殖事業を行う合同会社シーベジタブルの蜂谷潤さんと、奈良県・大和高原を中心に自然栽培のお茶を生産・加工販売する健一自然農園の伊川健一さんが登場した。お二人とも、友廣さんが事業を一緒にやっている仲間だ。
蜂谷潤さん(愛称:はっちゃん)は幼い頃から海が好きだったこともあり、高知大学農学部の栽培漁業学科に進み、そのあと室戸市へ引っ越した。住む前は地域の人からお客さん扱いを受けていたはっちゃんだが、実際に住んでみてお酒を飲みながら話をしていると「地域の漁業が衰退していて、仕事がなくて県外に出て行く人もいる」と本音を話してくれるようになった。
そこで地域のために何かできないかと立ち上がり、地元でよく獲れるけど値がつかないような魚を使って地元のお母さんたちと加工品をつくったり、県外・県内から半々ずつお客さんを呼び室戸の食を軸に、人や自然を体験してもらう「むろとまるごとBBQ」を開催したりした。そうこうしているうちに大学で研究を続けてきた技術をつかって海藻の陸上養殖の研究を重ね、その後自分自身が事業者となった。
伊川健一(愛称:けんちゃん)は、15歳の頃から自然環境破壊や社会課題に憤りを感じ、人間社会の中に自然を取り戻そうと農業の道へ。現在は奈良県で東京ドーム2つ半の広さの茶畑を借りて、自然栽培(有機肥料も使用せず自然の力だけで育てる方法)でお茶を栽培している。
そのお茶の製造販売だけに留まらず、自然栽培のお茶づくりの体験学習プログラム(教育)、茶摘みイベント(観光)、障害者の雇用の創出(福祉)、臨床心理士とマインドフルネスのプログラム開発(医療)など事業の幅をのびのびと広げている。
いま奈良県で自然栽培のお茶を作りたいとお役所の人に相談したら、けんちゃんのところに連絡が行くそうだ。さらには岐阜県や島根県でも一緒にお茶の事業をはじめたいという人たちとの歩みがはじまっている。それくらいけんちゃんはたくさんの人から頼られ、奈良県を中心としたお茶の未来を託されている。
私がお二人のお話を聞いて見つけた共通項は、会った瞬間に感じる「ピュアさ」だ。ただひたむきに、なんの迷いもなく自分の事業に没頭している。その姿は、とても楽しそうだ。しかも自分の自己実現のためでなく、喜んでくれる誰かのために邁進していることが話しているこちらにすごく伝わってくる。
この「ピュアさ」を見つけた友廣さんは、お二人の事業にメンバーとして関わっている。友廣さんは自分の役割を「ピュアさの保護活動」と呼んでいる。「一人で「やりたい」と語っているうちはただの“夢”、その人に賛同する人が一人現れると“プロジェクト”になる」とは友廣さんの言葉だが、素敵なアイデアに素直に参加してみるのは気持ちの良い働き方の入り口になりそうだ。
やるか、やらないか
人生は「やるか、やらないか」の2択の積み重ねでできている。洗濯物を回すか・回さないかの日常的な選択から、結婚する・しない、転職する・しないなど人生における大きな選択まで幅広いが、結局のところ「やるか、やらないか」だ。
はっちゃんとけんちゃんは、自分の進むべき方向に沿って「やる」選択をする人だなと感じた。「まずやってみる」とはよく言ったもので、お二人はそのお手本みたいな存在だ。進むべき方向に向かって選択をしているからこそ、自然体のままでピュアさが保たれているのだと思う。
人に言われなくてもやってしまう=自主性が発揮できることを、少しでも多く仕事に取り入れられたら気持ちよく働けそうだ。
自分の中にゲストのお二人のようにわかりやすい課題解決や目的がなくとも、「自分が見つけたピュアさの保護活動(=誰かの素敵なアイデア)を“やってみる”」こともまた、一つの選択肢だと思った第三回でした。
サポートスタッフ・山口祐加