講義レポート

判断しない。ただ、違いを受けとめる

「僕らのビール学」講義レポート

ビール愛飲歴は比較的長いけど、楽しんで飲むようになったのはここ3、4年じゃないかと思う。
きっかけは、海外で、単身で働いたことだろう。
初めての土地で友達どころか知り合いと呼べる人さえおらず、職場には日本人がひとりもいない。その苦しさときたら想像をはるかに超えた。一人の時間を、ビールを中心に過ごすようになり、よいビアパブがあると聞けば出かけ、スーパーや市場で並んでいるビールを時間をかけて見て、飲んで。
土地柄、女性が一人で食事をしたりお酒を飲むことは一般的ではなかった。明らかにローカルでない人間が、しかも女ひとりで何してんだといぶかしがられることも多かった。芸は身を助くとはよく言ったもので、ビールが好きなのだと一言いえば「おー、そうかそうかそれはいい」と親切にしてもらったものだ。

ビール好きというだけで、国籍も、性別も、年齢も、果ては過ごした時間の長短さえも一瞬にして飛び越えてしまう。この不思議な感覚を忘れられずにビールを飲み続けているような気がする。

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何事も「習うより慣れろ」スタイルなので、ビールを飲んでいる割には味が記憶としてとどまらず、飲んだ量と知識が比例してないような不満足感が常にまとわりついていた。嗜好品だから最終的には好きか好きでないのどちらかなのだけど、せっかくなら自分の好みの理由をきちんと説明できる大人の飲み手になりたくて、以前から気になっていた講義を受講してみようと思った。

国内外ビールの歴史からはじまり基本の醸造法、鑑賞ポイント、最新のビールシーンなどのレクチャーのあと、お待ちかねのテイスティング。各スタイルごとに代表的なビールを準備していただき、自分の中で味の基準を作る。美味しい!だけでなく、各ビールの特徴的な味を、舌に、脳みそに、焼き付けるようにして味わう。
大麦の風味豊かで大地の恵みそのままをいただいているようなもの、眠気が吹っ飛ぶような強烈な苦味・酸味がきいたもの、もはやビールなのかすらわからない初めての味わいのもの。味の洪水に溺れかけるところを、小山田さんの要領を得たガイドで我にかえる。

ふと周りを見渡せば、このビールがいいとか悪いとかジャッジする人はひとりもいない。ビール学という目的のために集まった、受講動機も育った環境もバラバラな12名。それぞれが、とんでもない多様性に圧倒されながらも、受け入れ、理解しようとする姿は気持ちがいい。
そんなのを目の当たりにしたら、日本もまだまだ捨てたもんじゃないぞという気がする。「違ってあたりまえ」がすぐ目の前にある。ビール学を受講したつもりだったのに、新たな気づきの場となった。これこそが大人の学習の醍醐味。素晴らしい時間をありがとうございました。

(text : 第9期 坂本 裕見子)



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