講義レポート

硯を体験する大人の社会見学旅〜石巻・雄勝硯ツーリズム〜

石巻・雄勝硯ツーリズムレポート

突然ですが、硯をつくっているところ、見たことありますか?書道の時間に墨をするのに使っていたあの硯(すずり)です。宮城県の雄勝(おがつ)は、かつて日本の硯の90%以上を生産していたという硯づくりの名所だったにも関わらず、時代の変遷そして2011年の東日本大震災で大きな被害を受け、衰退の一途を辿っているとのこと。これは大変だ!日本の文化や伝統産業を守るために、小さくとも私たちに何かできることはないか?という思いで企画されたこの「石巻・雄勝硯ツーリズム」。堅いこと言わずまずは見て体験してみようという、大人の社会見学旅企画が11/23-24の土日に開催されました。その様子を和泉里佳がレポートします。

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楽天の日本一記念イベント+パレードがある仙台は朝から何だか盛り上がっていましたが、私たちもそれぞれの思いを持って集合。東北復興学教授の大内征さん、自由大学の硯プログラムキュレーターの小酒ちひろ、現地コーディネーター厨勝義さんとともに、書道を続けている中で硯をもっと深めたいという人や、雄勝石は東京駅の屋根材にも使われていることから興味をもったという建築家、面白そうだったからとにかく来ました!という人など、個性的なメンバーが集まり、まずは石巻へ向かいました。

石巻では、東北復興学の卒業生たちにもお馴染みの「いしのま☆キッチン」でスペシャルランチを用意してもらい、シンポジウム「伝統工芸とデザインがつくるみらい」へ。雄勝硯生産販売協同組合理事長 澤村文雄さんから硯産業や雄勝ブランドについてのお話を聞き、津波に襲われた雄勝中心部の映像に息を飲む場面も。書家の木下真理子さんからは、文字の成り立ちや日本人の美意識に関するお話があり、知的好奇心を刺激しつつもどこかロマンチックな雰囲気に。そしてパネルディスカッションでは、お隣南三陸出身の書家の平野燿華さんと、雄勝硯復興プロジェクト発起人で自由大学ファウンダーの黒崎輝男に、先ほどのお二方が加わって硯や書の未来について前向きな意見交換が行われました。これから新しい硯のプロダクトが生まれたり、文房(=書斎)の空間デザインにまで発展していくかもしれません。

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硯、そして書くことについてのインプットをした初日の夜は、ここまでのアウトプットを。硯で墨をすったり、筆で好きな文字を書いてみると、子どもの頃とはまた違った大人の感覚が開いてきます。墨の香り、硯の上でするスピードや感触、水が墨液になってくる粘度の手応え。それぞれの体験や感想をシェアするディスカッションも止まらない、熱い夜になりました。

2日目はいよいよ雄勝へ。前日見た津波の映像、その場所へ。撮影していたビルも取り壊され、その場所のプレハブで硯がつくられていました。組合内で一人になってしまった職人遠藤さんのお話を伺いながら、硯づくりの工程を見せてもらいます。硯の原材料となっている玄昌石という石は、一定の方向で層になっているのでその方向には割れやすいこと、でもその層に逆らう方向には割れにくく削るのにも非常に強い力が必要だから全身を使って彫ることを教えてもらいながら、一塊の石から硯の形になるまでを実際に掘って見せてくださいました。陸から海へ下りるなだらかな曲線、墨をすったときに水が流れ落ちる道筋、筆で墨をつけるときの微妙な使い勝手など、細やかな心配りで職人技が光ります。

せっかくの機会なので、私たちも雄勝石を使ってものづくり体験をさせてもらうことに。最近では高級和食店などで雄勝石のお皿が人気だそうですが、今回はコースターづくりに挑戦。ある程度形になっている石の素材をサンドペーパーで磨いて仕上げます。角を丸く取る人、くびれをつくる人、コースターのはずなのに硯をつくってしまう人など、短時間でもそれぞれの個性がよく発揮されたものづくり体験になりました。

雄勝名物のホタテを食べて、雄勝学校再生プロジェクトの見学フィールドワークへ。そこでは廃校になった築90年の旧桑浜小学校の建物を再生して、自然を体験できる学校にするという取組みがはじまっていました。クラウドファンでィングで資金調達をしたり、いろいろな形で新しい挑戦をされていました。自然が豊かな雄勝で学べることは本当に多いですね。

大人の社会見学旅として企画した「石巻・雄勝硯ツーリズム」。「学びは体験」ということが、今回改めて強く感じられた旅になりました。実際に足を運び、その場所の空気を感じ、携わっている人から直接話を聞き、交流する。モノに触れたり、つくってみたり、教えてもらったり、意見を交換したり。東京での暮らしの中では見失いがちなことも、旅に出ることで新しい体験としてすっと入ってくるし、ぐっと近づいた仲間もできるのは面白い体験。次回は1/31(金)からの2泊3日で、もっとものづくりにフォーカスした「硯職人弟子入り体験プログラム」をやるので、またみんなで雄勝に行こう。はじめての人もきっと楽しめる。だって今回もみんな初めてなのにこんなに楽しめたんだから。

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