こんにちは、「新盆栽学」1期生の藤代雄一郎さんが講義の様子や感想をレポートしてくださいました。その内容を2回に渡ってお届けします。
「新盆栽学」では、盆栽職人である塩津丈洋さんが講師として、全5回の講義を通して盆栽の考え方や植物との付き合い方を教えてくださいました。毎回一つのテーマに基づき盆栽を制作し、最終回では様々な植物や器を自分で選択し卒業制作を行ないました。
講義で使用される植物は、塩津さんが選ぶ素敵な植物ばかり。そして凄いのは、日本各地の陶芸家がこの新盆栽学のために盆栽の器を制作してくださるのです。
「人が自然について考える上で、植物のことをもっとよく知ることにより、もっと楽しく優しく植物・自然・環境と付き合うことができる」という塩津さんの考えどおり、植物を手で触って植えることで、今まで知らなかった植物の様々な一面を知ることができました。
■盆栽ってなに?
盆栽は、植物が創りだす自然美やその背景にある情緒を鑑賞するものだと教わりました。
小さな盆栽が、無限に広がる宇宙のように深遠広大な世界を創りだす、というのです。
宇宙??深遠広大な世界???
いや、いやいやいや。
美と言うものに対する造詣が深くない僕にとっては謎ばかり。
しかし聞けば、日本独特の面白い背景がそこにはあります。
中国にはもともと「盆景」というものがありました。唐の時代なのでおよそ1300年前のことです。山水を二次元化したものが山水画、三次元が庭園。そしてそれを盆の中で楽しんだものが盆景とされています。盆景の盛んな当時の江南地方の貿易商人たちが、平安時代末期に日本に移住してきたときに持ち込まれて物と言われています。
もともと鉢植えのようなものは日本に存在していましたが、「盆景」が中国から入ってきたことにより、鉢植えに「景色」という観点が生まれ「盆栽」が生まれました。
そして日本人の美的感覚と繊細な加工を得意とする独特な技術により、枝を曲げたり、一部を枯らしたり、どんどん小さくしたりすることで、数々の技と日本独特の盆栽という世界観が作り出されていきます。
僕はその日本人独特の美的感覚に、とても興味を惹かれたのです。その「意味不明」を理解できるかは分からないけど、ちょっと覗いてみたいと思ったわけです。
■盆栽を通して考えた「人」のこと
週に一度、土曜日の午前中に集まり、今まで関わることのなかった方々と一緒に盆栽を作るという経験は、とても楽しかったです。また、この講義の後も「盆栽を育てていく」ということにより、いつもの生活がちょっと違ったもののようにも感じられています。
先に述べた盆栽の「世界観」を100%理解できたかは分かりません。宇宙や広大な世界、というより「かわいい!」「かっこいい!」という率直な感覚の方がまだ強いです。
しかし、盆栽を作り植物を知ることで、とても考えさせられたことがあります。
それは「根」の存在のことです。
後半にも「根ほどき」について書きましたが、植物は根というものを持っています。それはいつも土の中にあるので、ただ植物を見ているだけではどんな姿をしているか見えません。
植物は根で世界を知る、と教わりました。
まず真っすぐ下へ根を下ろし、盆の底などにぶつかった時点で今度は横に根を逸らしていく。器の底が浅ければ、その植物の背丈も大きくならないというのです。
まるで小さい金魚鉢で育てた金魚は小さく育ち、大きな金魚鉢で育てた金魚は大きくなる、という話ととても似ています。僕は盆栽を作ることを経験してから、街で生えている街路樹や住居の庭に植えられた植物を見て、「この下にはどんな根が植わっているのだろう?」と考えるようになりました。
「根」を知ろうとすること。
それは人との付き合いでも、とても大事なことだと思います。土の上に出ている、その人の在る姿を見ているだけでは、その人のすべてを知ることは出来ません。
もちろん、人のすべてを知ることは出来ませんが、その人の「根」を知ろうとすること・想像することは大事なのだと思うのです。
大きく枝を生やして綺麗な花を咲かしている姿の土下では、繊細で細い根が土に広く絡み付き、必死に栄養を得ようとしているかもしれません。また、ひょっこりと小さく芽を出していても、土の中ではまっすぐで力強い根を生やしているかもしれません。
人と触れ合うときに、そんな「根」を想像して見ることで、表面的だけではなくいろいろな背景や思いを感じることができるかもしれない。
僕は盆栽を通して、そんなことを感じました。
とても個人的な感想を書いてしまいましたが、きっと植物と触れ合うことは人間自身を見つめ直すきっかけになります。「新盆栽学」に集まった面々も、それぞれの考えや発見と出会ったと思います。
もともと植物が大好きな方も、植物を買ってみたけど枯らしてしまった経験がある方も、今まで植物には興味がなかった方も、是非一度自分の手で植物を触り、知り、自然や人間のことを考えてみては如何でしょうか?
そんなとても魅力ある「盆栽」の世界を、
僕はみなさんにおススメします。
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・後半レポート:盆栽のつくり方
この内容は藤代さんご自身で企画運営されているインタビューサイト「ボクナリスト」にも掲載されています。