新講義「場の主催学」について、教授の高橋龍征さん(画面中央)とキュレーターの庄司弥寿彦さん(画面左)に自由大学学長深井次郎(画面右)がお話を伺いました。
受講を検討している方の参考に、講座案内に書ききれなかったねらいや想いを深堀りします。
「場づくり」がライフワークになった2人がつくる講義
高橋:「場の主催学」教授の高橋です。conecuriという会社を経営し、企業や大学のセミナー企画やコミュニティ構築の支援をしております。
元はソニーなどの大企業に勤めていましたが、ひょんなキッカケでご近所会を立ち上げ、そこで得たご縁から「場づくり」が自分のライフワークになりました。この講座はそのような、ライフワークを自分で形にする人を増やしたいとの想いでつくりました。
庄司:キュレーターの庄司です。業界横断型の社会課題解決研修を提供する一般社団法人ALIVEの代表をしております。
サントリーで人事の仕事をしていた時に企画した研修を継続するために立ち上げた団体で、最初はボランティアで運営していましたが、会社を辞めて専念することにしました。
場を主催して、ご縁と機会を引き寄せる
深井:まずは、この講義をどんな人のためにつくったかお聞かせ下さい。
高橋:私も庄司さんもひょんなことから「場」を主催し、それがライフワークにつながりました。そんな生き方を実現する後押しをしたいと思い、この講義を企画しました。
深井:10年で今の仕事の半分がなくなると言われる中で人生100年時代を生き抜くには、そのように自分で生業をつくる必要がありますね。
高橋:そうですね。ただ、生業といっても大袈裟なものではありません。自分が思い入れられることを、人が求める場やコンテンツに仕立てて極め、人に喜ばれるように出来れば、やがて対価を得られる「仕事」になるというシンプルな考え方です。
また、場を主催すれば、そうなるための人のご縁と機会を引き寄せられます。私のような「普通の人」でもすぐに始められ、長く信用を蓄積すれば、大きな効果が得られます。
庄司:場を主催することはそもそも難しいことではないですし、オンライン化でますます容易になりました。
主催者は覚えてもらいやすく、人も紹介もされるなど、多くのメリットがあります。この講義で実際にイベントを主催して、それらを体感して頂きたいですね。
内向的な人の方が、主催には向く
深井:主催者というと一般には社交的な人と思われがちですが、むしろ逆とのことですね。
高橋:私が見てきた限り、良い場をつくっている主催者は内向的な人が多いです。
人の集まりに行くことに不安を感じる内向的な主催者なら「この場に来る人は何を心配するだろうか」と考え、想定される問題に予め対処できるため、幅広い人が安心して楽しめる場をつくれる、というのが私の仮説です。人の集まり行くのが楽しい社交的な人には、その不安が想像しにくいでしょう。
庄司:実は、高橋さんはいくつものコミュニティを主催して人のつながりも幅広いので、社交的な人だろうと想像していました。
しかし実際会ってみると、人見知りなくらいの印象でした。そういう人だからこそ伝えられるものがあると思います。
高橋:仰る通り、コミュニティを立ち上げる前は、飲み会の幹事をした記憶がないくらい非社交的な人間でした。今も根本は変わりません。
心血を注げるものを見つけることが起点
庄司:そんな人がなぜコミュニティを主催するようになったのですか。
高橋:私の場合、自分の住む街を愉快にするため、ご近所の人をつなげようという目指すものが先にあり、その手段としてご近所会を主催したまでです。場づくりを目的化しても、気持ちが続きません。
良い場づくりは、社交性や小手先のテクニックでできるものではないと思っています。思い入れられるものを見出せば、誰に言われなくとも、企画を考え抜くでしょう。そこまでして創り上げた場なら、来てくれる人々のことを自然と一生懸命考えます。イベントなどを実施すれば山ほどより良くする点に気づきます。それを続ければ、自ずと良い場ができる。
庄司:最初に過去の棚卸しをするのはそのヒントを得るためですね。
方法を体得し、自走を目指す実践講座
深井:この講座の特徴に、講義期間内にイベントを1つ実施するというのもありますね。
高橋:実行を通じて方法論を体得するためです。
実施までできるよう、第3回と4回の間をゴールデンウィーク含め3週間空けています。締切のある課題で、一緒に頑張る仲間もいるので、これはやるしかないと思えるはずです。
深井:インプットだけだと机上の空論になりがちですし、「実践は修了後に各自で」だと、アクションに結びつかないことも多いですからね。敢えて自分をやらざるを得ない環境に置いて追い込むにはちょうどいいですね。
高橋:また、修了後も自分で続けられるように設計しています。
自分が心からやりたいと思え、人から必要とされるものでなければ、続けられません。よってこの講義では振り返りまで行い、自分が本当にやりたいことか、ニーズに合っているかを自ら検証します。そして、この先自分でどう進めるかを最後のクラスで「決意表明」します。
共に実践する仲間がいる
深井:同じ課題に共に取り組む仲間がいるのも良いですね。心も折れにくいし、壁打ち相手がいれば企画も練れます。
高橋:Facebookグループで受講生コミュニティをつくるので、受講期間はもちろん、修了後も互いの自走を応援し続けることができます。
庄司:集客の点でも心強いですね。この講義の中で実施するのは、トライアルとしてのイベントなので、真剣に参加してフィードバックくれる人が数人いれば十分です。他メンバーに参加してもらえば成立します。少なくとも私は参加します。
高橋:ターゲットとなる客層へのリーチという点でも仲間がいると助かります。例えば、中学生の子供がいる親向けのイベントを企画したとして、自分の回りにそういった層がいなくても、他の受講生やその知り合いまで広げれば、誰かしら見つかる可能性が高まります。
庄司:一緒に運営する幹事団が4~5人でき、それぞれが1、2人連れてくれば10人にはなりますしね。
高橋:仲間集めには「旗を立てる」ことも大事ですね。
自分が何のためにどんなことをしているかを明らかに示して、活動を続けていいれば、やがて運営を手伝いたいという人も出てきます。会う人会う人に自分の思いを言葉にして伝えている内に、刺さる言葉も洗練されていきます。公言すれば思いがけないところから手を挙げる人が出ることもあります。
因みにこの講義でも、敢えてSNSでキュレーターを募集した結果、庄司さんとのご縁ができました。
試行と考えれば、気軽に一歩を踏み出せる
高橋:最初から完璧にしなければならない、大人数を集めなければならないという固定観念に囚われ、一歩踏み出せない人もよく見ます。そういう人のために、一発勝負ではなく、試行を重ねて成功確率を上げる立ち上げ方もお伝えしたいです。
最初は荒削りでもいいし、参加者も数名で十分です。頭数より、本来そのコンテンツを届けるべき層で、真摯にフィードバックをくれる人であるかどうかが大事です。
庄司:今日の対談も、1週間ほど前に突然やろうという話になり、あっという間に企画を立て、事前打ち合わせもなく本番ですしね。やろうと思えば数日でイベントができてしまういい例ですね。
高橋:まだ実績がない新講義なので、受講を検討している人に、案内文だけでは伝わりきらないことを伝えたいと思い企画しました。
深井:素早く試作する方法は、イベントのジャンルに関係なく使えますか。
高橋:はい。ビジネスでも、地方創生でも、飲食でも、分野や種類は問いません。小さく試作して素早く検証し、自分とお客さんとコンテンツとを整合させるという基本は同じです。
庄司:「イベントをやらなければ」と義務的に考えるのではなく、こんなふうに気軽にテストすればいいと思えば、一歩踏み出す勇気も出ますね。
深井:この講義も試作を重ねて作られていると聞きます。
高橋:はじまりは2018年、知り合い2名にセミナー企画術のレクチャーを聞いてもらったことで、内容も荒削りでした。その後、登壇機会を何回も作り、その度に資料を充実させ、頭の中にある知見を出し切りました。
2020年には出し切った要素を文章にして、知見を体系化して、伝わる表現にしました。平均3,000字の記事を3日に1本ペースで121本noteに公開し、『オンライン・セミナーのうまいやりかた』という本も出しました。結果、それも新しい仕事につながっています。
このような、徐々にコンテンツやコミュニティを作り上げる方法は、特別な人でなくても、きちんと継続すれば成果につなげられます。
経験者でも学びになる
高橋:実は今日のイベントにもちょっとしたノウハウが組み込まれています。案内文に内容を箇条書きしているのは、ぶっつけ本番でも進行できるようにするためです。
深井:まさに今それを見て進行しています。実は今日は直前に機材トラブルが発生して、全く事前打ち合わせができませんでした。
高橋:そのようなリスクに備えているのです。そもそも年間200講座もあると、正直1つ1つは覚えてはいられません。登壇者も忙しいから大抵忘れていますし、議事録を探すのも面倒でしょう。なので、検索すれば出てくる案内文に細かく記しておくのです。
庄司:こういう進め方は、経験者である私にとっても学びになりました。他の人が主催する場の運営に参画すると、自分と違うやり方が学べます。
深井:映画監督が、役者として他の監督の映画に参加するようなものですね。自由大学は1つ1つの講義をじっくりつくるスタイルですが、高橋さんはサッと試作してすぐテストをするので、そのスピード感が参考になりました。
庄司:経験者でもこうして学べるということですね。
1年以上かけて練った講義
深井:実はこの講座つくるのに1年以上かけています。深く考えては揉み直し、企画を立てては、ゼロから作り直すことを、何回もされていました。
高橋:想いが強すぎて袋小路に陥る典型ですね。他人の講座はすぐ作れるのですが。今回、庄司さんというキュレーターを得てやっとまとめ切ることができました。同じ想いと知見を持つ人が、冷静な目線でアドバイスしてくれたからです。
庄司:そこがチームでつくるメリットですよね。
深井:自由大学で40期も講義を続けている教授でも未だに毎回「やっぱりこうすればよかった」と常に改善を続けています。イベントやセミナーは「より良くしたい」と思い続けることが大事で、終わりはないですよね。
高橋:私もご近所会の紹介文は毎回書き直しましたし、実施後はいくつもの改善点を見つけては、即座に反映していました。
深井さんの講義「自分の本をつくる」も相当な回数ですね。
深井:2009年の自由大学開校から毎年4-5回ペースで開講し、今57期です。それでも毎回講義後は「ああすればよかった、こうすればよかった」と帰り道で一人反省会をしています。側から見たら落ち込んでトボトボ歩いてる人にしか見えないでしょう。
庄司:そこまでしてより良いものにし続けてきたからこそ、長く続くわけですね。
深井:この講義もそれだけの想いで練りに練っているので、ぜひご期待ください。
対面とオンライン、両方体感するハイブリッド講義
深井:1回目と5回目は対面で、2~4回目をオンラインにするねらいは何でしょう。
高橋:1回目はチームビルディングのため、5回目は修了後も仲間と助け合いながら自分で歩き続ける「決起集会」として、対面にしました。関係構築の点ではオンラインより顔を突き合わせた方が効果的だからです。
深井:最初と最後だけなので、遠方の方も参加しようと思えば参加することもできますし、オンラインのみでも受講可能ですね。
高橋:完全に同じとはいきませんが、同じ学びを得られる工夫はします。
深井:もしオンライン未経験の方でも、参加して体験できることも価値ですね。自由大学の講義をオンライン対応させる時、自分でも色々なオンラインイベントに参加しました。そうすると、どんな場合にどんな感情になるかを実感し、具体的な改善点に気づけます。それを自分の講義に反映し、他の講義の教授やキュレーターにも共有しました。
庄司:私が主催するALIVEのプログラムは、複数の企業からの60人の参加者がチームに分かれ、3ヶ月かけて社会課題解決の提案をつくるプログラムで、オンラインではできないと思っていました。しかし、コロナにより仕方なく全編オンラインに移行しましたが、やってみるとできるものです。
学びそのものは、むしろオンラインの方が効果的です。逆に、関係構築などは対面の方が短期的には効率が良く、飲み会もオンラインよりリアルの方が盛り上がります。対面とオンラインの両方やるこの講座はベストミックスとも言えますね。
主催者=責任者となる第一歩
深井:この講座に込める想いをお聞かせください。
高橋:各人が「オーナーシップ」を持てるものを見出してほしいです。自分が意思決定する責任者として、白地から全体を描き、細部に神を宿させ、使命感とも言える情熱を持って携われるものです。
私が最初にコミュニティを立ち上げた時も、当事者意識を持って仕事に取り組んではいましたが、意識することと、責任者に「なる」ことは違います。結果、本業にもいい刺激になりました。
自分がつくった場やコンテンツを喜んでもらえる経験は心の支えになりますし、そこから得た機会の連鎖から、自然と自分の天職に行き着きました。
ほんの小さな場であってもそれくらいのインパクトがあります。
この講義をキッカケに、そういったものをつくる一歩を踏み出してもらいたいと考えています。
庄司:私もゆるやかなつながりから思いがけない方向転換して今ここにいる身です。会社の外に出ると、幅広い人と会い、新しいアイデアを得ることができます。場を主催するとそういった新しい変化を呼び込めます。
この講義を受講者の皆さんにとっての変化の起点に出来ればと思っております。
深井:この講座は、将来の複業や独立への第一歩になり得ますね。
目先の利益ではなく、Giveを積み重ね、価値を共創する
高橋:誤解して頂きたくないのは、この講義でお伝えするのは、手軽に実利を得るテクニックではありません。すぐ独立し、売り上げに繋げたいなら、それに合うやり方があるでしょうが、この講義はそういうものではありません。
基本は、人へのGiveを積み重ね共に創った価値のお裾分けであり、信用の蓄積が大前提です。まずは人から感謝され、自身の心の支えになるものをつくることから始めるので、目先のお金になる訳ではありません。
しかし、良質な関係は時間と共に大きな力を持ちます。いつ始めても遅すぎることはありません。
庄司:「この人間は自分の役に立つかどうか」で人を値踏みしても、相手には伝わりますよね。良い場をつくること自体が人にGiveすることであり、そうして喜んでもらえるから、自分に何かが返ってくるものです。
深井:最初から「刈り取ろう」とするのではなく、種を蒔いて水をやり土壌を豊かにする、ということですね。
共に講義をつくる人に参加して頂きたい
深井:最後に、受講を検討している人へのメッセージを。
庄司:「学び合う」人に来てほしいと思います。キュレーターとして、お互いから学ぶ姿勢が波及するような場づくりをしていきたいと考えていますし、私自身も受講生の皆さんから学びたいと思っています。
深井:皆で作る精神は大事ですね。自由大学も「お客さんはいない」と考えています。受講料を払っているからといって、何かを与えてもらおうという受身の姿勢では良い学びにはできないからです。
高橋:私達も考え抜いて準備はしますが、第1期はどうしても荒削りな部分は残るでしょう。一緒に新しいコンテンツとコミュニティをつくろうと思う人にはむしろ楽しめると思います。
大学院などいくつかの新設プログラムを見てきましたが、第1期生は、実績もない場に時間をお金を投じて参加するので、キャラの立った人が集まります。そういったことも立ち上げ期の醍醐味でしょう。