講義レポート

おいしいの正解。

町田めぐみ

呪文のようなスパイスの数々を調合して、複雑な味を鍋ひとつでまとめ上げる。作る前は料理上級者が成し得る料理のイメージがありましたが、一度作ると「こんなにも簡単なのね」と思うほど誰でも作れるスパイスカレー。ただ、習い始めた頃にレシピ通り作って出来たのは「それなりにおいしいカレー」でした。自分で作れるようになった嬉しさと、美味しいよ!と自信を持って言い切れない気持ち。そんなモヤモヤを抱えていたある日、友人にカレーを作ることになりました。

「どんなカレーが食べたい?」と訊くと「おいしいやつ」との答えが。肉、魚、野菜などヒントになりそうなワードもなく「おいしいやつ」がいいのだそう。相手に喜んで欲しいのに正解が見えない。「おいしいやつ」ってどんなカレーなのか。じっくり玉ねぎを炒めたカレー?インド現地の味に近いカレー?レシピはネットにも本屋にもあるけれど、どれを選んだらいいのか。そうです。「おいしいやつ」にはキリがないのです。そんなことを考える中でふと思ったのは、友人とわたしの「おいしい」は、同じ「おいしい」なのか?ということでした。「おいしい」を感じるのは主観です。何を参考にしたところで味を決めるのはわたしで、わたしにはわたしの「おいしいやつ」しか作れないのです。同時に、わたしにはわたしの好きな「おいしいやつ」が作れるんだということもわかって嬉しくなりました。今まで自分でしっくりくるカレーが作れなかったのは、どこかで自分以外の「おいしい」に正解を求めていたところがあったのかもしれない。それと同じで友人の「おいしいやつ」という正解を目指してカレーを作ってみてもきっと完璧には出来ないのでは、と思いました。

ですが、友人の言う「おいしいやつ」の正体とは、これまで食べてきた料理の記憶と未知なるおいしいものを食べたいという願望だということにも気付きました。とすると、わたしの作る「おいしいやつ」は、友人の「おいしいやつ」の正解を増やすことが出来るかもしれない。そう考えられるようになった後、どっと気が楽になり、急にカレーづくりが楽しくなった思い出です。

「インドに学ぶスパイス学(初級)」の講義では、受講生が毎回同じレシピでカレーを作りますが、作る人が毎回変わるので見事に毎回違う味が出来上がります。どれもこれもおいしく、ますますおいしいの正解が増えていきます。

(担当講義:インドに学ぶスパイス学(初級)インドに学ぶスパイス学(中級)



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