講義レポート

生き方としての起業

キュレーターコラム 岩井謙介

「Culture Entrepreneur」「文化的」「美意識」「興味・関心」などという普段から使い慣れないキーワードや改めて考えたことのない事柄が飛び交うこの講義ですが、もう少し分かりやすい事例を通してイメージしてもらえればと思います。

 

この講義のキュレーターの一人でもある岩井が、年複数回発行しているライフスタイルマガジン「a quiet day」の最新号の特集「Nordic Entrepreneurship」つまり北欧の起業家マインドを様々な人にインタビューし編集してまとめました。

その中からこの講義が目指す「興味・関心」から起業した事例をご紹介します。

 

FUN PROJECT

 

デンマークの首都コペンハーゲンにSweet Sneak Studioというフードを絡めて企業のPRをデザインしているクリエイティブスタジオがあります。

とても元気の良い、彼女たち。実はCopenhagen Business Schoolという大学に通っている時に放課後ケーキを食べにいくチームだったことから全てが始まります。自分たちでもこの大好きなケーキを作り、多くの人にその美味しさを伝えるためにワークショップを開いたり、そのワークショップが話題に上がり有名なコーヒーロースターとコラボレーションしたイベントを企画し、そのイベントオリジナルのレシピを開発したり、ビジュアルにこだわった世界観を演出したりとしている間に、世界的なインテリアブランドのビジュアル制作の仕事を担うようになったそうです。

彼女たちが特別な存在だったということではなく、自分たちの持っている「興味・関心(この場合はフード、特にケーキ)」をしっかりと形にし、コラボレーションする相手と一緒にプレゼンテーションし続けたことで価値を見出してもらったり、共感してくれたりという好循環が生まれてきたそうです。

こういったことを彼女たちは「FUN PROJECT」という言葉で表現しています。自分たちの好きなこと、楽しいこと、という意味での「FUN」でもあり、同時に関わってくれる人たちが彼女たちの楽しい雰囲気に共感し「FUN」になっていくというダブルミーニングでもあるそうです。そして共感してくれた人たちとどういった関係性を築いていけるかということも同時に考えていきます。その考え方は、誰かと一緒に食事をする時の状態と一緒だそうです。それぞれが食べ物を持って来たり、料理を作ったり、お皿を洗ったりというのと同じように、お互いが持ちうるものを出し合って、「いい」ものを創っていくという姿勢を共有することが大事なのです。

 

「自分の時間」と「行為」との関係性

 

一方、もう少し概念的な部分にテーマを置き、プロダクトを作って起業したのがデンマークのデザインノートブランドのNOTEMです。このブランドを立ち上げたSigneはもともと文具メーカーに勤めていました。その時から彼女の情熱は「紙」という素材と、「書き留める」という行為についてでした。

「デジタル化が進む今だからこそ、アナログでヒューマンタッチなコミュニケーションを暮らしの中に取り入れ、自分自身のための時間を確保して欲しい。」というように、彼女は何かを「書き留める」という動作・行為が自分との対話を促す時間、つまり自分のための時間と定義し、それを伝えるための手段として、「紙」好きとしてそのクオリティにこだわったノートで伝えています。

これらの事例として挙げたものは、特別なことではなく、誰でもそれぞれ持つコアヴァリューやスタイル。もっと言ってしまえば「生き方」を考え続けて、問い続けている過程の一つの表現なのです。

この「Culture Entrepreneur」の講義でも、それぞれの持つコアヴァリューを仲間と一緒に考え、問い続けていきます。

(Photo:ライフスタイルマガジンa quiet day Season8より)



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