講義レポート

専門性を応用し、中間支援の仕事をする

「地域とつながる仕事」2期5回目レポート


講義もいよいよ最終回。毎回、地域で活躍するゲストの方々からたくさんのインスピレーションがあります。活動内容や日々の葛藤などのお話を伺い、受講生は感じたことを言語化することで意識も変化していきました。今回のテーマは「地域の人や資源を活かして仕事をつくる人と、それを支える仕事」と題して、遠方からはるばる3名のゲストをお招きいたしました。

 
「合同会社シーベジタブル」の蜂谷潤さん(高知県室戸市)
蜂谷さんの人生を決定づけたのは、自分の息子のようにかわいがってくれる室戸に住む地元のお母さんたちでした。岡山県出身で、高知大学農学部に進学。栽培漁業学科で海藻類の養殖技術の研究をしていた時、ひょんなことから学生向けのビジネスコンテストに応募。優勝したら100万円もらえる!とテンションが上がり、年間を通じて海水の温度が安定していて清浄性も高い海洋深層水を使った陸上養殖事業のプランでエントリーしました。その後、地域予選を勝ち抜いてみごと全国大会で優勝。結局優勝者が2名いて賞金は50万しかもらえなかったそうですが、優勝したことで地元のメディアに取り上げられ、地域の人達の期待に応えて、プランをなんとか事業化してかたちにしよう、と覚悟を決めたそうです。現在は地下海水という、海沿いで井戸を掘って出て来る海水をつかって海藻を養殖していて、これを地元の高齢者や障害者の仕事として各地に展開しようとされているとのこと。そうやって技術を使って、人の仕事をつくる中間支援の役割が自分には合っているのだと語ってくれました。

 
「NPO法人おっちラボ」の小俣健三郎さん(島根県雲南市)
表参道に住んでいたこともあるという、バリバリの弁護士だった小俣さん。それがなぜ人口4万人の雲南市に移住し、地域の未来を担う人材を育成する立場になったのか?それは、地域を健康にするコミュニティーナースの取り組みをしている矢田明子さんに衝撃を受けたからだと語ります。矢田さんは、看護学生時代に2011年雲南市が主催する次世代育成事業「幸雲南塾」の1期生として参加し、現在はその塾の運営母体である「おっちラボ」の代表を務めています。「幸雲南塾」をきっかけに、地域のいろいろな才能が輝きだし、点と点が繋がるような事が起きているのを感じました。小俣さんの「おっちラボ」での業務は、地域でチャレンジをしようとする人たちの伴走者として人材育成に取り組んだり、みんなが共に学び合う場をつくったりという中間支援が主な仕事ですが、とにかく人に会って話しを聞きまくっているそうです。時には地域のニーズを掘り出したり、メンターになったり、交渉役になったり一つの肩書きでは言い表せない仕事内容です。アイドルががんばっているのを応援するように、地域でも未来に輝く才能の応援をしていると話してくれたのが印象的でした。

 
ベトナムでビジネス日本語学校を起業した川村泰裕さん(ベトナム ホーチミン市)
川村さんは、春節で日本に帰国しているタイミングでゲストにお越し頂きました。前のお二人は海藻の養殖研究者や弁護士という専門がありましたが、川村さんの専門領域は“日本人”であること。現在は、ホーチミンで日系企業で働くベトナム人向けにビジネス日本語を教える学校を、ベトナム人の奥さまと経営しています。川村さんがベトナムに行くきっかけになったのは、2008年に起こったリーマンショック。その翌年に従業員の8割がリストラに合い、新卒で入社した川村さんも例外ではありませんでした。しかし、こんな時こそ外に開かねばと思った川村さんは、自分を励ましてもらおうと、「リストラワークショップ」と題してみんなを集めました。そこでアジアに行ったほうがよいというアドバイスを受けこともあり、片道切符で単身ベトナムのフエへ。現地では、行政関係以外の日本人の若者が川村さんだけしかおらず、「日本語を教えてほしい」というリクエストに応えていたら、それが自然と仕事になったのでした。そして初めてのお給料が100円ほどだったのですが、はじめて自分の名前で仕事をして得た収入だったので、新卒の初任給をもらった時よりも感動したそうです。何かをはじめるとき、現時点の経験でやれることを考えてしまいがちですが、まずは行動することで道が開けるということを川村さんに気づかせてもらいました。

どのゲストの方も、人の成長と共に地域に新しい価値を根付かせ、育っていくイメージを持っているように感じました。人にはそれぞれの時間があり、成長や変化は決して効率化はできません。そのことが事業の前提としてあるのとないとでは、アウトプットするものが変わってくるように思います。

「地域とつながる仕事」の受講生たちは、ほとんどの方が会社勤めでした。会社では分業化して効率よく生産性を上げることが求められます。生き方の選択肢として、自分の能力の還元先を会社ではなく地域に変えることによって、社会をより実感して生きることができる。それが他の人の夢に相乗りするかたちでも、まず1歩踏み出して経験を重ねていくことがこの先の可能性を広げてくれるのでしょう。何も行動しないのは、可能性がゼロのままなのですから。



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