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音楽でつたえる、つながる 自分を表現する音色のつくりかた

DIYミュージック キュレーター/鈴木絵美里さん

DIYミュージック』『DIY音楽研究室』のキュレーターをつとめる鈴木絵美里さんにお話を伺いました。『DIYミュージック』は自分なりの音楽を創作する人気講義で、3年足らずの間に100人を超える卒業生が生まれています。楽器を弾いたことがない人でも「音」を介して自分を表現したり、人とコミュニケーションを取ることが可能なのだそうです。


どのようなきっかけで『DIYミュージック』のキュレーターをつとめることになったのでしょうか

教授のsawakoさんがレクチャープランニングコンテストに参加して、2015年に講義化が実現しました。私は今、編集やライターなどの仕事をメインに活動しているのですが、勤めていた出版社を辞めてフリーになった時期だったのもタイミングがよかったです。音楽専門誌を作っているわけではないのですが、仕事上でもなにかと音楽周辺のことを扱うことが多く、そのつながりで紹介いただきました。自由大学との出会いは2011年で、仙台の荒浜で行っていたキャンプ活動を『THE FUTURE TIMES』で取材しました。その翌年に『東北復興学』、『アメーバワークスタイル』のゲスト講師に呼ばれて、生徒としても『ニューメディアラボ』、『DIY実験室』に参加しています。

 

音楽をDIYする、というのはユニークな活動だと思うのですが、講義では具体的にどんなことを学ぶことができるのでしょうか

私自身の気づきでもあるのですが、音を聴く態度が変わると思います。音楽は楽器で譜面を再現したり、譜面に起こしたりできるものというイメージを持っていましたが、世の中にはそれ以外にも「音色」が溢れていることに気づきました。風の音とか、机を叩いて鳴る音とか。声そのものも音色です。そんな風に講義を通して「何が音楽か?」ということから捉え直せると思います。ある場所で録音した音を別のところでかけてみると印象がまったく変わったりするのも面白いですよね。私はそれまで誰かが作った音楽作品を「聴く側」として楽しむことが多かったけれど、人と一緒に音を出してみるというハードルが下がりました。幼少期から高校生までずっとクラシックピアノをやっていましたが、それは譜面をなぞることが主で、もっとシンプルに、「はじめと終わりがあれば音楽」と言えるのではないかと思い始めています。完璧な音楽を発信しなくても、まさに自分なりの「DIY」したミュージックを楽しむといいんだと。学校では、絵や文章は自分なりの創作をアウトプットする授業がありますが、音楽はそれをする機会がほとんどないですよね。それがこの講義では体験できると思います。

 

受講生はどんな方が多いのでしょうか? 楽器が弾けたり、譜面を読めないと参加できないのでは、と二の足を踏んでいる人もいる気がします。

創作意欲旺盛な人は多いです。音楽への造詣はさまざまで、プレイヤーのプロを目指していたものの一度は諦めた、けど自分なりの創作を続けたくてというような人もいれば、楽器は弾けないけど楽しそうだから参加しました、という人もいます。映像の仕事をしていて、自分で音楽も作ってみたいと参加した人も多いです。

今はアプリやDTM(デスク・トップ・ミュージック)などでかんたんに曲が作れるようになっています。たとえば自然音を録音して重ねて音楽を作る方法を取れば楽器を弾けなくても譜面が読めなくても音楽が作れる時代。やってみればそんなに難しくないことがわかります。音楽もツイッターとかブログのように、自己表現のツールとして使うことができるんです。高度に捉え過ぎて、ハードルをあげてしまっている自分のような人もいるのではないかと思いますが、そういう方には是非一度受講してみてほしいなと思います。

 

講義を通して、受講生の変化を感じることはありますか?

それまでトラックを作ったことがなかった人でも、ハマってしまって毎日トラックをつくりはじめたり、iTunesにも曲を掲載するなど活動の内容も幅もどんどん広がっているのを見ました。少額かもしれないけど売上にもなるし、何より「自分の音楽を聴いてくれる人がいる」ことを実感できるのは嬉しいし、創作のモチベーションにもつながります。音楽を作るだけじゃなく、オーガナイズする方向へ進んだ人もいます。転職とか大きな変化でなくても、音楽を作る、発表するハードルが下がったということでよい影響や変化をしているように思います。イラストレーターさんが自作の絵と音楽でアニメーションを作ったということもありました。「音楽」は表現手段のひとつなので、それを身につけることで表現が豊かになり、幅が広がると思います。

普段気持ちや考えを言葉で表現していますが、何も伝える手段は「言葉」だけではないと思うんです。喜び、怒り、悲しみなど言葉にしなくても、音で伝わってくる経験をしたことがあると思います。音楽は言葉、言語よりも曖昧に捉えることができることも魅力ですね。

 

鈴木さんは会社を辞め、フリーランスとして活動されているそうですが、フリーになったきっかけや感じたことなど教えてください

10年ほど広告や出版業界で正社員として働いてきて、フリーになって3年ぐらい経ちました。辞めるときはそれほど「こうなりたい」「これをしたい」という強い思いがあったわけではありませんでした。東日本大震災以降は人の動きも激しくなったこともあり、いつもなんとなく、仕事とか働き方について頭の片隅にある状況でした。ただ私は臆病な方なので3、4年はいろいろ自分なりに、今の状況でできることを少しずつ考え、できることの中でトライしながら過ごしていたように思います。フリーになったのは、そのタイミングが来たというか、プライベートの変化もあり、もっと柔軟な働き方や生き方ができるのではないかと、勢いで決めた部分もあります。まだ迷いながら、実践しながらですが、やるほど問いは深まりますね。もちろん雇われる働き方も、自分のライフスタイルや性格に合っていればいいシステムだと思います。会社員時代も楽しかったですし、同僚も好きだったので、どんな働き方をしたいか、何を軸として選ぶかが重要だと思います。フリーランスになって、健康であることも重要だなと気づきました。組織に属するメリットもあると思います。

私はフリーランスになることで、自分の軸というか、「自分軸で働く」ということがわかってきました。会社員時代は人の評価を通してしか自分の評価が定まらないと感じる部分が多かったんだ、と今になって理解できてきました。フリーランスになると、社長業も営業も雑務も、すべて自分でやらなくてはいけなくなります。その中で自分ができることを棚卸ししました。そうすると、すでにできることや経験を結構持っているなと気づいたんです。だからこれからは自分の要素を増やしていくよりも、他の人と協力し、足し算ではなく掛け算で成果を出していくことが必要だと思っています。

 

これからの鈴木さんの未来図を教えてください

自分自身が「メディア」的な存在になりたいと思っています。人と人、人と情報をつなぐ、つながりが生まれる場所をつくることをやっていきたいですね。具体的には、多くの人に読んでもらえる本に携わる仕事と、自分の考えを溜め込まずにどんどんアウトプットすることを同時にやりたいと思っています。人の集まる場をつくる、たとえばイベントづくりなどもメディアです。Web、本、現場をいいバランスで仕事にしていきたいなと思っています。そのためにも表現することを大ごととして捉えずに、どんどん出していくことを実践していきたいです。それに反応してもらって、フィードバックをもらって改善していくことが、特にフリーランスには必要だと思います。そうすれば「完成品」を作ろうとすることや、人に点数をつけられる世界から脱却して、自分の世界を広げることに活動の重心を置けるのではないかと思っています。

 

最後に、鈴木さんにとって自由とは何かを教えてください

常に自分の中に余白を持っておくことができる状態のこと、でしょうか。

余白がなくなってしまう、持てない状態になってしまうと、新しいことも生み出せない。自分のなかに常にまっさらな作業領域を確保しておくって、大事なんだなと感じる今日この頃です。


プロフィール

鈴木絵美里(すずきえみり)

ディレクター・編集者として広告代理店、出版社にて10年間の勤務の後、独立。現在はWEB、紙、イベントを軸としたコンテンツのディレクションおよび執筆に携わる。音楽、映画などのカルチャー全般や、アウトドア・旅好き。

担当講義:「DIYミュージック」「DIY音楽研究室
※受講生のつくった曲をspotifyで聴くことができます
文・撮影:むらかみみさと(ORDINARY



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