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「旅」を通じて、自分にエッジを立てる

「新旅学のすすめ」「Culture Entrepreneur」キュレーター/本村拓人さん、岩井謙介さん

世界110カ国以上を旅して、世界の経済的底辺層の助けとなるサービスなど、数々のビジネスを生み出してきた本村拓人さん。本村さんは、自分の個性から、自分の文脈をつくり、文化を生み出す「カルチャープレナー」という生き方を提唱しています。カルチャープレナーへの道程として、新講義「新旅学のすすめ」や「Culture Entrepreneur」をつくり、キュレーターを務めています。この2つの講義のもう一人のキュレーターであり、同じく旅によりビジネスを生み出す岩井謙介さんと「新しい時代の豊かさを求めるビジネスマンやクリエイターになぜ旅が必要なのか」 などについて語り合いました。


偶発性をつくりだすために、旅には余白が必要。

岩井 最近はどちらに行かれましたか。

本村 ドイツへ行ってきました。10年に1度の「Münster 彫刻プロジェクト」と5年に1度のアートフェスティバル「Documenta14」中央ヨーロッパ最大級のスタートアップの祭典「Tech Open Air」をメインの目的にしました。

岩井 旅のプランニングにおけるポイントは?

本村 具体的な行程の半分くらいは余白(無計画)にしておきますね。旅先で心を惹かれる場所があったらフラリと立ち寄ってコミュニケーションをする。そこから新しい活動やビジネスに結びつくことも多いので、偶発性をつくり出すため、あえて余白をつくるようにしていますね。

岩井 余白を利用して、パズルのように行く先々で予定を組み替えると。余白を埋めるものは、やはり「感性」でしょうか。自分の好きな物に引き寄せられると、もっとそこをのぞきみたいという欲求にかられますよね。

本村 そうですね。プラハやウィーンへアール・ヌーヴォー建築を学びにいったときは、特に用事もなかったのだけれどスロバキアのブラチスラバまで足を延ばしました。都市名の響きが良かったもので(笑)

岩井 僕も同じチェコのチェスケー・ブジェヨヴィツェに、その音と「バドワイザーの発祥」というワードにだけ惹かれて行ったことがあります(笑)。僕もアポイントなしで訪問するケースが多いですが、良好な関係性を築くコツなどはありますか。

本村 ドアを叩いてから3分ほどのコミュニケーションで突如訪問した先の主人との関係性は決まりますので、そのごく短時間に自分が何者かを凝縮して伝えます。場の雰囲気を判断し、興味を持たれそうなポイントに絞って話しますね。

岩井 たとえば、そのオフィスのデザインが素晴らしければ「デザインと社会はつながっている」というストーリーを語るとか。

本村 そうそう。経済的なインセンティブだけでなく、趣味志向などの文化的思考性で人と信頼関係や繋がりを求める時代なので、最近は「日本を背負う」点も意識していますね。なにせ僕たちのアイデンティティの元素記号のようなものですからね。そして、余白を残して相手に考えを渡すんです。「あなたたちなら、~なところで関わりが持てるのではないでしょうか」と。偶発性をつくり出しそれを楽しむために、旅における余白は非常に大切だと考えています。

 

同質化への危機感。個人も都市も、個性を問われる時代に。

本村 岩井さんは、何日くらい日常に留まると旅をしたくなりますか?

岩井 3週間くらいですね。それ以上居ると日常に飽きてしまう(笑)

本村 いつも同じ人々と顔を合わせていると「説明をしなくてもわかる関係」に入り込んでしまい、そのコミュニティだけの文脈にはまってしまいます。バイアスが自分に積もる。一方で旅をすると、まったく違う概念、哲学、歴史、宗教、文化を背負っている人から、突然「キミのその考え、イケてないよ」とスッパリ切られてしまうことがある。

岩井 同じ文脈を共有していると、それは出にくいですよね。

本村 まさに。旅に出ると「まったく新しい価値」で人を喜ばせているモノに出合うことがあります。その時、自分の無知や世界の狭さに気がつくことができる。組織や集団に属していても、旅をすれば常にいろんなバイアスに触れることができ、自分自身を解き放てます。

岩井 場を移動すると、いろんな自分が見えてきますよね。今置かれている環境で周囲から見られている自分と、違うコミュニティで見られている自分は、同じ自分でありながら、同時に違う自分でもある。……コミュニティといえば、僕は「1つのコミュニティに染まりたくない」という思いがあるんです。

本村 「染まらない」というのが、岩井さんのタグラインやアイデンティティなんですね。

岩井 何モノにも染まりたくない。それで、自分自身で何かをつくろうと北欧を発信するメディア ”a quiet day” をはじめました。

本村 “a quiet day”を通して自分を表現したときに、それを見た他者からの反応がまた、自分自身に跳ね返ってくる。

岩井 そうです。旅をした経験を表現する。その表現したものを見た人からまた新しい視点が戻ってくる。これを繰り返し、自分自身をより深く知ることができます。「新旅学のすすめ」では、旅によって得られる視点にも重きを置きたいですね。

本村 旅は、開放される一方、限られた時間という制約があり「何をやるか」のチョイスが瞬間、瞬間にやってくる。自分の行為にどんな意味があるのかその時はまだはわからないけれど、とりあえずAとBとCをやって点を創る。時間をおいてその点と点が繋がってくる。そうやって自分の本性をcultivate(=耕す)していく。その結果が、岩井さんの場合“a quiet day”になった。

岩井 限られた時間だからこそ、好きなことを優先できます。それは自分を知る一番の手段ですよね。一方で、どこか物理的な距離の離れた場所に行くことだけが旅ではなく、いつもいる集団と違う場に身を置くことも日常における旅ではないかと。だから旅の視点を、日常で持てるようになると、選択肢が広がると思っています。

本村 個性を知る一番の手段は、モノの見方を養うこと。それを一番学べるのが旅です。旅は娯楽でもありますが、旅のプロでもある僕たちの講義は、旅によって自分の個性に磨きをかけ、働き方や生き方につながるものを目指している。

 

岩井 最近になって働き方も第3次産業化したと思います。企業に所属して働いていたとき、時間を区切るチャイムが流れるのですが、それを耳にする度に僕は、チャップリンの『モダン・タイムス』を思い出していました。社会の歯車としてみんなが働くことで繁栄してきた時代は確かにあったけれど、その働き方を続けることに無理が出はじめている。

一方で、世界に目を向けてみると、大都市においても個性を出している小さな店は多くありますよね。それを考えると、大企業にいる人でも個性を出すことができるのでしょうか。

本村 でも小さな店は、少し不便な場所に移すなどしていませんか。僕はすさまじい勢いで、世界が同質化していることを感じています。観光客を呼び込むため人気のスポットをどんどん真似て、似たような街並みが増えている。都市が色を出しやすかった時代も終わっているかもしれない。

岩井 経済的な需要と供給の問題でしょうか。需要と供給については自分のビジネスに対しても思うところがあります。

本村 キャピタリズムで考えれば、起業後は、売却やIPOといった拡散の方向に向っていました。これからはビジネスの小規模化に向かっていく人が増えるでしょう。ごく少人数を対象にした商いによって、文化がつくられていく。さきほどの小さな店はその一例ですよね。金銭的な富ではなく、仲間や家族との関係性など測ることができない「豊かさ」を求めていく時代がもうそこまで来ている。「新旅学」はその準備のための講義だと思います。抽象的ですが、岩井さんのような豊かさをみんなで共有したい。

岩井 と言うと?

本村 岩井さんのもつ豊かさは「素」で生きていることだと思います。何にも染まらない、どこにも染まらない。つまり自分が何者であるかを知って、素で生きる。人は素であることが一番心地良いんです。それに、素=個性ですよね? 個性が出ないと生き残れないから、大規模で同質なものではなく、スケールを小さくしても、いかにエッジを立てるかを意識したい。

視点を変えれば、同質化を続ける街は、その時々の観光客の流行に合わせて都市の性質を変える「カメレオンシティ」になってしまえば、「あの街はなんにでもなれる」という個性に変わって生き残れるようになるでしょう。

 

自分の仕事や生き方を貫くきっかけとしての「新旅学」

岩井 インタンジブルズ(無形資産)な、精神的な価値。最終的にそこに辿り着いて仕事をつくるために、まずは、自分の中にある価値観を見つけたり、つくり出したり。そのきっかけとして「旅の視点」を身につけることを、「新旅学」の講義を通じて伝えていけるといいですね。

最近、“a quiet day”も北欧を紹介するだけでなく、記憶の交差点になればいいなと思っています。自分の遠い昔の記憶と、“a quiet day”を手にした今が交差するような。

本村 モノ軸ではなく、コト軸に活動の次元を超えたんですね。それは文化をつくることにつながっていくんですよ。

自由大学のキュレーターは、常に新しい問いや視点を持つべきだと思っています。自分たち自身が、いつもブラッシュアップしていかなければならない。“a quiet day”で、岩井さんが1つ進化したように、これからも自分たちがアップデートできないと、自由大学で講義をする意味がないと思いませんか。

岩井 自分たちが生み出している講義ではありますが、それにも染まらずに、進化しながら、これからも講義をつくっていきたいですね。

 

担当講義:「新旅学のすすめ」「Culture Entrepreneur希望の未来学 ‐ Culture Entrepreneur編 ‐

文、写真:川口裕子 編集:ORDINARY

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◎Culture Entrepreneur(Chap:耕す)
個の美意識からスタートする文化的な起業学
 
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