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対談:カオティックな東京から新しい文化が生まれるプロセスを楽しむ

「自由になる旅学」教授・SUGEE×自由大学学長・岡島悦代

「自由になる旅学」の教授・SUGEEさんと学長の岡島悦代さんが「旅」にまつわる対談をしました。都市の旅には、多様な民族のルーツが混在する魅力があるというSUGEEさんが、2016年の東京に感じる文化の前夜性とは?(ライター:新井優佑)

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ここのカオスは自然の構造体より美しい

岡島悦代(以下、岡島): SUGEEさんの旅は、特定の場所にしぼって現地の人と深く交流するようなスタイルですが、どのように旅先をチョイスしていますか?

SUGEE:大まかにいうと、好きなキーワードが4つあります。一つ目は「聖地」、二つ目は、伝統的な文化が色濃く残っている「コミュニティ」、三つ目は「音楽」が面白いところ、四つ目は「植物」が面白いところです。ある程度、情報を下調べしてから、そこに目掛けて旅に出ることが多いですね。観光するわけではなく、その場所の大切な何かと心が響き合うようなことを体験したいので、必然的に現地の人と深く関わることになります。

岡島:今は情報化社会と言われていて、その場所固有の文化を自然に得るというよりも、世の中に流通している情報を取りに行くような時代になっていますよね。だから、文化が平均化してきていて、意識しないと土地に受け継がれている価値観に触れる機会を失いがちな気がしています。だから、なぜここに人が住んでいるのか、どんな暮らしをしているのかという視点が大切ですね。今、SUGEEさんが惹かれる固有の価値観が残っている場所というのは、具体的にどこなのでしょうか?

SUGEE:例えば、キリストは2015年前にエルサレムという場所の近辺で生まれたと言われていますが、そのエルサレムという場所は、キリスト教の聖地というだけでなく、ユダヤ教の聖地でもあり、イスラム教の聖地でもあります。そういう場所に触れると、キリスト教にせよイスラム教にせよ、もともとはルーツを一つとする文化だったことを感じられます。

また、西アフリカのヨルバ族という民族がいて、その民族の音楽にはラテン音楽やブルースの原型になった音楽が残っています。そういう場所もすごく面白いですし、メキシコのシャーマン・コミュニティや沖縄の久高島も面白いです。久高島は、琉球文化のルーツだと言われていて、島の女性がお祭りを司る資格を持っていたりします。

こんな風に都市の文化はルーツにつながっていますから、ぼくは都市って伝統文化の融合する場所だと思っているんです。

岡島:ポジティブな解釈ですね。

SUGEE:そうですね。東京にしろ、パリにしろ、ニューヨークにしろ、ロンドンにしろ、いろんなところのルーツを持った人が集まって、文化が融合し、開いていく。サンフランシスコにしろ、ポートランドにしろ、同じですよね。いろんなルーツがミックスしたカオティックな状態から、一つの価値として文化が帯びてくる、そのプロセスがぼくは好きなんです。

岡島:わたしも好きです。あるカオスな状態に秩序が見出されたとき、文化が生まれますよね。

SUGEE:東京も90年代はカオティックな状況がありました。最近はなくなってしまったように感じていましたが、COMMUNE 246のような新しい感じが出てきて素晴らしい。みどり荘のレセプションボーイ飯田くんが「ここのカオスは自然の構造体より美しい」という投稿をfacebookにあげていて「格好良いことを言いやがるな」と嫉妬したんですけど、本当にその通りですね。

岡島:異なる背景を持った人たちが、場所の魅力に惹かれて集まり、良い感じの距離感を保ちながらCOMMUNEの世界観を形成している。有機的な繫がりがあるということですよね。

SUGEE:自然もそうです。法則的に導かれているのかもしれません。

岡島:法則はあとから見つけるもので、その前はどっちの方向に行くかわからない混沌とした状態。そこにエネルギーがあるんですよね。

SUGEE:そんな前夜のような、新しい文化の息吹みたいなものを今、感じています。そんな流れと『自由になる旅学』がリンクしていったら面白いですよね。

「自由になる旅学」の講義風景

「自由になる旅学」の講義風景

岡島:わたしやSUGEEさんの世代は90年代に多感な時期を生きてきたから、00年代前半まで表参道界隈が盛り上がっていたことを知っているじゃないですか。最近は、その頃のカルチャーがリバイバルされた「90年代ブーム」の中で、もう1回、当時のノリが戻ってきている感じがしませんか?

SUGEE:しますね。カルチャーっていうのは、だいたい20、30年周期ですよね。ぼくらが大学生くらいの時は、70年代カルチャーのリバイバルでした。20、30年ぐらい前のことをリミックスして流行る傾向がありますよね。特に今の若い子は、リミックスや編集がうまい。

岡島:ジャンルがボーダレスになってきていますよね。90年代はまだ、音楽のジャンルでもジャズはジャズ、ハウスはハウス、テクノはテクノみたいに分かれていました。COMMUNE 246には毎晩のようにいろんなDJがきていますが、彼らは本当にいろんな曲をかけますからね。

SUGEE:そうなんですよ。もちろん機材が発達してきた影響もあるんでしょうけど、1曲ごとに世界観をぶちこんで、場面を変えるのがすごくうまい。

それをお客さんもわかっていて、曲ごとにその人の世界観やバイブレーションやぬくもりを感じたがっている。そんな風にクラブミュージックも変わってきている感じがします。今は無機質にミックスして徐々に場をつくっていくのではなく、一曲ごとに場を作って聴いている人もそれを楽しめていますよね。

 

洗練されて細分化された文化がまたカオスに戻る時代

岡島:2015年末、SUGEEさんが三味線アーティストとコラボレーションしているライブに伺いました。共演してみて、気づくことはありましたか?

SUGEE:津軽三味線のアーティストと共演して思ったことは、彼らは日本の伝統楽器を、ギターのようなポップミュージックの楽器と何も変わらない感覚で扱っているということです。それって、すごく良いことですよね。

岡島:わたしも、それを感じました。弾く曲も「三味線の曲しか弾かない」という感じではなく「弾けちゃうなら、なんでも弾いちゃう」。リズムの取り方には、その土地に根ざしたルーツがあって、これまではジャズやソウルというくくりで音楽を捉えていたけれど、今はいろいろなものが融合してジャンルがあってないようなものになってますものね。

SUGEE:形にこだわらなくても良いタイミングなんでしょうね。こだわって形を作っちゃうと、それがもはや明日には面白くなくなっちゃっうというか。形にこだわらないで、日々変化しているものを見せていく時代ですね。

それと同時に、リスナーも結論みたいなものをあまり求めていない感じがします。正直に、プロセスを述べていくほうが共感が生まれやすい。ぼく自身も、結論的なものをあんまり求めていませんね。

COMMUE246でSUGEEさんがオーガナイズしているパーティー「SUNSET246」

COMMUE246でSUGEEさんがオーガナイズしているパーティー「SUNSET246」

岡島:最近よく思うのですが、昔は血や出身地といった、自分の価値観とは違う縛りで、ある社会が形成されていましたけど、今はそうじゃなくて、共感する価値観で人がつながってきていますよね。

SUGEE:確かにそうですね。ぼくは90年代半ばから00年代前半にかけて、ルーツやカルチャーに深く傾倒した旅行をしてきましたが、各地のルーツやカルチャーに触れるたび「原風景的な伝統文化という意味でのルーツカルチャーは、もはやこの地球上から一個もなくなっていくんじゃないか」と予感してきました。

でも当然なんですよ。これだけ交通も情報網も整って、混血が進んでいっている。だからもう、ルーツやカルチャーは神話のように、うっすらと記憶の彼方に残るようなものになっているんですよね。アフリカの電気のない村にいても、スマートフォンでfacebookを使っているくらいですから。

岡島:そんな僻地でも、スマートフォンを使っているんですか? どうやって充電するんでしょう。

SUGEE:村はずれに太陽光パネルを持つ充電屋があるんです。お金を支払えば、充電できます。名前を忘れてしまいましたが、エチオピアの僻地にいる髪の赤い民族でさえ、携帯でfacebookをやったり、もしかしたらamazonで買い物したりしています。世界中、どこにいても都市のコミュニティに参画できちゃう時代なんです。

おそらく、世界中の人が原風景や故郷を喪失していっています。だから、血やルーツなんてどこでもいい。むしろ、SNSで繋がっている人を含めて「隣にいる人」とのつながりのほうが大事。人とのつながりの中で、また新しい何かが生まれていく過程にあると思います。

ぼくたちは、ルーツがなくなるからといって悲しみにひたるんじゃなくて、最後の目撃者だというくらいの気持ちで、それを前提にして「心のつながりがあればルーツなんてどこでもいいんだよ」ということをどう後世に伝えていくのか考えたほうがいいですね。

岡島:血族とは異なる、共感する価値観によるつながりの時代ですね。

SUGEE:だから、COMMUNE 246に自由大学があるというのも、本当に面白いと思います。

岡島:そうですね。COMMUNE 246は空間のつくりかたが自由で、何かを仕掛けていい隙間のようなものがあります。前もRAINBOW COMMUNEというレズビアンの方がオーガナイズしたパーティーが開催されましたけど、最後に男の子たちが上半身裸でステージにあがっちゃって、よくわからない雰囲気になっていました。

ドラッグクイーンの友達が言っていたことなんですが、90年代は1個の箱にドラッグクイーンもテクノ好きもハウス好きもいて、クラブっていうだけでいろんなものが混ざっていたカオスが生まれていたそうです。それが文化が洗練されていくに従ってジャンルが細分化され、あるパーティーにはゲイしか集まらない感じになってしまった。それがすごくつまらなくなってしまったと言っていたけれど、今またここで融合されつつあるのが面白いですよね。

SUGEE:良いですよね。ぼくは、セクシャリティってすごく大事だと思うんです。音楽のジャンルなんかと同じくらい大事なことで、いろんなセクシャリティの人がいるんだから、それもひとつのカルチャー。もう公にできる人は公にして、どんどん好きなことをしゃべって自分を解放したらいいのにって、心からそう思います。セクシャリティを語り合って、誇りあうっていうかリスペクトし合うっていうか、それが当たり前のようになっていく時代ですよね。

岡島:そうですね。性別が個性に近い感覚に変わっていくんだと思います。男性の中にも、女性性ってありますし。男性性、女性性っていうのは性別じゃなくて、人間の中に本来備わっているものだから。

SUGEE:そうそうそう。これからは時代も厳しくなっていって、いろんなことが起こっていくにつれて、自分の中の女性性や男性性が、場面に応じてどちらかが強く出ていったりするんだと思います。

2015/12/29 自由大学にて

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1月31日(日)にSUGEEさんがオーガナイズするパーティー「SUNSET246」を開催します。COMMUNE 246に集う、さまざまなルーツを持つ人たちとのカオティックな状況で音楽を楽しむ。こんなに面白い状況をつくっているパーティーにクラウドファンディングで応援できます!(1月25日23:59まで)

今年の自由大学のテーマは「Good Vibesで行こう」です。講義だけでは体験できないGood Vibesを感じるチャンス。せひSUNSET246に遊びに来て下さいね。



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