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学びのキュレーション 黒崎輝男✕和泉里佳 part1

黒崎輝男 自由大学ファウンダー / 和泉里佳 自由大学学長

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自由大学では現在、「学びのキュレーション」と題した書籍の制作を進めています。そのベースになる「キュレーション学」は自由大学のなかでも中核を成す講義ですが、ではそもそもキュレーションとはどのようなものなのでしょうか。ここでは、これから書籍になる予定の内容を先行して連載形式でお届けしていきます。

司会・構成:高橋宏文(フリユニラジオ編集長)
写真:水澤充

part1 「司祭」から始まったキュレーター
part2 キュレーションの概念と歴史


「司祭」から始まったキュレーター

和泉 「キュレーション」「キュレーター」という言葉はもともとアートの世界で使われていた印象がありますが、さらにたどるとどこから始まったのでしょうか?

黒崎 キュレーターの語源を調べてみると、まず「司祭」というものがある。キリスト教では、いろんなことを知っている司教というのがいるんだけど、司祭とは少し役割が違う。司祭は「祭りを司る」…ミサを仕切る役割だね。興味のあることをどんどん教えるだけでなく、祭りを仕組んでちゃんと起承転結をつけていく役割。だから僕たちも「何でも興味がある」というのは基本姿勢だけど、どう組み立てどう仕切るかが重要で、そこで本質を突いたカリキュラムをつくっていこうとか、そのなかで小さなグループに分けてみようとか、そこで学ぶ人たち同士のコミュニティをつくっていく…というのが自由大学でやろうとしていることなんですね。

アートのキュレーションで言えば、そのアートの目指す本質は何かというのがいちばん興味があるわけですが、そのアーティストはどんな人でバックグラウンドはどうなのか、ほかにどんなムーブメントがあり、ほかとの接点はどうなのか、社会的にどうなのか、美術の歴史としてどう見えるのか、それを展覧会としてやって、どういう人にどう見せて情報をまわしていくのか、それを図録につくっていくとか、パーティーをどうするか、会場構成をどうするのかとかそういう空間も考えていく。アート全体で、世界の社会をどのように切り取って解釈し、どのように表現していくかという一連の流れを「キュレーション」という言葉で表している。

和泉 その全体を取り仕切っていくし、その行為自体がこの先の世界にどういう影響をおよぼすかということまで考えていく。

黒崎 その考えを示していくことができれば、そんな痛快なことはないんじゃないかと。

和泉 司祭は、お祭り全体を取り仕切って、滞りなくいろんなイベントをやっていきつつ、みんなの様子にあわせてちゃんと導いたりしながら、そのお祭り自体が全体のなかでどういう意味付けにあるのかということまでやっていたんですね。

黒崎 前衛アートでは一時期、とにかくメチャクチャにしちゃって破壊するというのが流行ったことがあるんだけど、でもそれで終わったらどうなんだろう?ということを投げかけた後に何が残るか、をまたちゃんと出していくことがひとつのキュレーションになる。学びの場合も、ワァーッと議論があって右と左が喧嘩みたいになっちゃうだけだと、自由大学は成り立たないと思うんですね。

和泉 それがどういう意味を成してくるかというところの問いかけですね。

黒崎 そこまで考えてちゃんと出していくと、次が出てくると思うんですよね。だから、良い問いかけは次の問いかけを導くということなんじゃないかと思うんです。

和泉 大きく言えば、時代の一面からさらにその流れまでを考えた仕掛けをつくっていくということがあるんですね。

黒崎 それがキューレーターの本来の役割なんじゃないかと。それはプロデューサーでもないし、儀式を司るというところからもっと広まってきていて、ぜんぜん司祭の仕事でもなくなってきている。それがわれわれの目指すキュレーターであると。

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和泉 アートの世界でも、アーティストとキュレーターはどのへんが大きく違うんでしょうか?

黒崎 キュレーターは、全体像を見ながら未来を見据えたところまで問題を深めていく。その過程において、アートのことをじゅうぶんに勉強し探求しないといけないし、アーティストや演じているパフォーマーをじゅうぶんに掘り下げていかなくてはならない。それがまず基本だと思うんですよ。それを社会にどう作用させるかということを自分なりに解釈して、第2、第3の波をつくっていき、全体として広げていく。

和泉 自分の行動だけがそうするんじゃなくて、いろんな人やアーティストの力を借りながら全体で状況をつくっていくところが違うんですね。

黒崎 そのアーティストだけをプロモートするのではなく、ほかのアーティストで似ている人はいないか、今の時代のアート・ムーブメントはどうなっているのか、そこらへんを見極めようと。

和泉 そうすると、どういう特質や性格の持ち主がキュレーターにふさわしいんでしょうか?

黒崎 やっぱり普通の人が見抜けないものを見たりする「目利き」ですよね。それは、ひらめきを大事にするとか、ひとつひとつの兆候をちゃんと流されずにパッと本質を見抜いていくこと。人を見る目があって、インスピレーションもあふれていて、それがクリエイティブである種の才能にもなってくると思うんですね。それは磨けば少しずつ広がると思う。人はものを単一的に見がちなんだけど、それを複合的に見ながら、引いて見て、時間軸で見たりしながら、社会にも目をやりながら、周りを見る。それをわかったうえで、場を仕切るということ。

高橋 作家やアーティストが自分の作品やパフォーマンスに愛情や思い入れがありすぎてほかが見えなくなったりするところを、キュレーターはもう少し全体像を見るということですかね。

黒崎 しかも自分でそれを解釈し表現し未来につなげていく、ということができるのがキュレーターなんですよね。

高橋 まさに司祭なんですね。

黒崎 そう、全体の祭りを俯瞰し、それを集約しながら次につなげていくということなので、時代をつくる人と言えるのかもしれないですね。それを「学び」に応用していこうと。「学び」でそれを見ていくと、普通の人が見捨ててしまうようなどんなにつまらないことでも「学び」として成り立つし、それをどう組み立てていくのかということによって、もっと深めることができる。

高橋 ということは、キュレーターの特質としては、視野の広い人である必要がありますね。視野があまりに狭い人だと厳しそうな…。

黒崎 だから、視野が狭くなっている人たちをうまく育てるというかうまく集めていって、それをさらに大きく見るということだと思う。アーティストを何人も抱えていても、うまく集中しながらまとめていくこと。

和泉 適材適所みたいなところもありますよね。時代に合わせた時間軸での適材適所と、同時期でのいろんな分野に対する適材適所を見抜きながら、それを当て込んでいって何かをつくる。

黒崎 その人のそれぞれの良さをちゃんと見ていくことですね。この人はこれが面白いからこう取り上げようとか、そういうふうにして全体をつくっていく。

和泉 そうすると「見る」ということも、その人の特徴を見て、そこからさらにクリエイティブな思想を持って、こうなるんじゃないか、組み合わせたら何かいいことが起こるんじゃないかと、未来志向でつくるという視点もありますよね。

黒崎 今の学校で教えられているのは、「自分がどうするか」あるいは「どう学ぶか」というふたつだけで、全体像が何もない。だから、そういうふうに注意を向けるだけで、才能はたくさん開花するかもしれないわけですよね。それは自由大学の状況でもあるんだけど、やっぱり新しい状況なのかもしれないですね。インターネットでみんなが状況を知っていて、そういう下地があってこういうリアルな場をつくってあげると盛り上がってくるので、これをどんどん広げていかなくてはいけないんじゃないかと。

和泉 それも時代の流れとして、ネットでの情報入手やコミュニケーションがすごく活発になっているからこそこのリアルな場が重要で、その後の影響まで考えていくことも含まれているかもしれないですね。

黒崎 それがあってこそキュレーターだね。そこがなくてただまとめるだけだとね…。

和泉 ただ順番通りにやるだけだと、仕切っていることにはならないということですね。

黒崎 常にもう一歩先を目指しているような人がキュレーターとして望ましい。それを果たして僕ができるかどうかわからないけど、そういう思考でやりたいと思うし、そういう人を育てたいと思っているわけ。自分以上にそういう人がたくさん出てくれば、それはすごくいいことじゃないかと思うんですね。


黒崎輝男

自由大学ファウンダー。1949年東京生まれ。「IDEE」創業者としてオリジナル家具の企画販売・国内外のデザイナーのプロデュースを中心に、”生活の探求”をテーマに生活文化を広くビジネスとして展開。東京デザイナーズブロック、Rプロジェクト、スクーリング・パッド、青山でのFarmer’s Marketや246Commonなど、東京の今をつくるプロジェクトをいくつも仕掛けている。

和泉里佳

自由大学学長/キュレーター。自由大学の全体構想をまとめる学長。大学在学中はアメリカンフットボール部のチーフマネージャーとして150人を超えるチーム運営を経験。上海での毎日が大冒険的仕事生活を経て、帰国後自由大学の運営に。人生が大きくシフトチェンジするきっかけを刺激的な学びの場で得たことから、そんな感覚や経験を生かして、ワクワクの学びスイッチがONになる状況を創っている。1979年名古屋生まれ。

part2 キュレーションの概念と歴史



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