講義レポート

出版の道を歩む仲間が集まった祝祭 ― 開講16周年

自分の本をつくる方法 同窓会2025 レポート


自分の本をつくる方法 同窓会2025 レポート

出版の道を歩む仲間が集まった祝祭 ― 開講16周年

 

① 真夏の祝祭がはじまった

2009年に自由大学とともに始まった講義「自分の本をつくる方法」。
これまでの16年間で第73期を重ね、約700名の卒業メンバーを送り出してきました。

2025年8月2日、その仲間たちが渋谷・MIDORI.soキャンパスに集まり、ひさしぶりとなる同窓会を開催。再会の喜びと語らい、そして笑い声に満ちた時間は、まるで小さな祝祭のようでした。


② 講義の歩みと同窓会の意義
「700人が歩んだ、出版という旅」

「自分の本をつくる方法」は、自身も20代半ばの頃から商業出版して試行錯誤してきたエッセイストの深井次郎が、「出版をもっと探究したい」とはじめた活動です。開講以来、受講生たちはそれぞれの人生を素材に本をつくり、多くが商業出版を実現してきました。40万部を超える大ベストセラーもあれば、これまで売れにくいと言われたジャンルでヒットを飛ばす例もあります。部数だけでなく、冊数も10冊以上を次々と出し続けるメンバーもいます。


この講義の特長は、懐の深さと多様性でしょうか。エッセイや実用書を中心にしていますが、絵本やアートブックまで幅広く、本を通じて表現する人が集まります。基本は商業出版をしながらも、近年は商業出版に限らず、より自由で小回りのきく表現を求めてリトルプレスやZINEなどインディペンデントな自主制作活動をする作家も増えています。規模ややり方は違っても、根っこにあるのは「自分の声を本にする」という共通の思いです。

本づくりは書く時こそ一人で深くに潜りますが、一人きりで完結する活動ではありません。企画を編集者さんやブレーンと打ち合わせたり、原稿を書き上げた先には、推敲やフィードバックを複数の協力者からしてもらう工程もあります。

読者に届けるプロモーションやイベントなど、必ず「他者」との関わりが待っています。だからこそ、同じ挑戦をしている仲間がいたり、ひらいていることが大きな支えとなるのです。

今回の同窓会は、出版というニッチな道を歩むプレイヤー同士が再びつながり、成功も失敗も含めて知見を共有し合うために企画されました。コラボレーションや相互紹介が生まれるだけでなく、「ひとりじゃない」と実感できること自体が大きな力となります。

 

③ 会場の雰囲気
「料理がつなぐ、心の距離」

会場に足を踏み入れると、木の温もりと柔らかな照明に包まれた空間が広がり、壁にはORDINARYのバナー。まるで「本をつくる人の書斎」のような落ち着いた雰囲気が漂っていました。その中央に、大きなテーブルいっぱいに並んだ料理が参加者を迎えます。

料理を担当してくださったのは、フードアーティストの小山嶺子さん。世界的デザイナー桂由美氏のイベントでフードアートを手がけるなど、華やかな実績を持つメンバーです。この日はメキシコ料理をベースに、カラフルな前菜やスパイスの効いたメイン、ベリーソースやモカクリームを使ったデザートまで、色彩と香りにあふれるメニューで場を盛り上げてくれました。


特別な新発売のクラフトビールも並びました。自由大学オリジナルの「Virgin IPA」や、『まるごとマルタのガイドブック』著者の林花代子さんが手がけた「I love MALTA」が初お披露目しました。



準備段階から有志メンバーと一緒に料理を仕込み、全員で作って全員で食べる。そのプロセスが場をほぐし、初対面のメンバー同士もすぐに打ち解けていきます。料理を囲んで始まるスタイルは、安心感と親密さを自然に生み出し、会場全体をやさしく包み込みました。

④ プログラム詳細
「物語は乾杯から始まった」

何はともあれ乾杯だ

料理を囲んでグラスを掲げると、16年分の物語が一気に解き放たれます。「久しぶり!」「新刊、読んだよ」と声が飛び交い、笑顔と握手が次々と交わされました。初めて参加する人も、数分後にはすでに旧友のように打ち解け、会場の空気は祝祭そのものに。

深井次郎レクチャー「本についてわかってきたこと」

続いて、主催の深井次郎から「本づくりの本質」についてミニレクチャー。テーマは「らせん構造」。人生も本も直線的には進まず、ぐるぐると回りながら少しずつ上昇していく。そのプロセスにこそ作家性の正体なのだと。今自分はどこにいて、読者はどの地点にいるのか。それによって届けるべき言葉は180度変わる。そんな洞察に参加したメンバーのみなさんは深くうなずき、真剣にメモを取りながら聞き入っていました。

出版経験者の裏話

次は出版を果たしたメンバーたちの体験談。ベストセラーを出した著者が「思いもよらない面白い展開」が訪れた話。逆に「売れたからこそ直面した批判やプレッシャー」を赤裸々に語り、会場が静まり返る場面も。「思うように売れてない」と笑いを交えて語る人もいて、成功も失敗も含めた出版のリアルが共有されました。誰もがうなずき、時に笑いながら、自分の経験と重ね合わせていました。

みんなの近況トーク

後半はマイクを回し、自身のプロジェクトや近況を共有する時間。1期から73期まで世代を越えて声が集まりました。二冊目の準備に入る人、本だけでない表現手段に広げた人、原稿に苦しむ人、まだ構想を温めている人、持ち込み企画でつまずいている人…。立場は違えど、その言葉は互いを励まし合うものになりました。「出版を楽しむ道」に、終わりはありません。焦らず、アイデアを発酵させていきましょう。

 

懇親タイム

最後は自由な交流へ。料理を片手に、みんな普段の肩書きを超えて語り合います。「今度一緒にやりましょう!」といった新しいコラボの芽も芽吹き、笑い声と真剣な対話があちこちで同時に広がっていきました。

⑤ 参加者の声
「仲間の声が背中を押す」

「次郎せんせいの“らせん”の話、とても興味深かったです。霧が晴れるようにモヤモヤが解けていきました」(豊原さん)

「せっかく講義で学んだのに実践できていなかったこともあるけれど、同窓会で皆さんに会い、とても良い刺激を受けました。次回までに近況をアップデートできるよう頑張ります!」(石井さん)

「幅広いジャンルの方々と交流できて、創作意欲がメラメラ湧きました。螺旋の話もドンピシャで、さっそく社内や知人に『この話、面白いぞ』と伝えています(笑)」(橋本さん)

「自由大学の集まりは、なぜか初対面でも親しみやすく居心地が良いです。学長のお人柄のおかげだと思います。もう次の集まりが楽しみです!」(今井さん)

そのほかにも「自分も新しいこと、登ったことない山に挑戦しようと思った」「まだまだ工夫できることはあると気づいた」などの声が寄せられました。

本づくりは自分と向き合う作業ですが、仲間と分かち合うことで視野が広がり、また挑戦したくなる力が生まれます。

参加メンバーによるレポートもぜひご覧くださいね。

⑥ 主催オーディナリー深井次郎より
「らせんの次のフェーズへ行こう」


集まって毎回感じるのは、「人間は有益な情報だけを求めているのではない」ということ。みんなけっこう強いからひとりでも突破できるんだけど、仲間と分かち合えば喜びは倍に、苦しみは半分になる。よく言われるけど、本当にそうだなぁと思っています。

売れたら終わりではなく、そこからまた課題が次々に出てきます。本づくりは楽しいだけではなく苦しいことも多いけど、自分の成長も達成感も実感できる。それぞれのペースで一生続けられる活動なんだと思います。

葛藤もお祝いも、率直に共有できる。安心感と学び合いの場を、これからも育てていきたいと思います。

また、自身の出版経験を惜しみなくコミュニティに還元してくれるメンバーたちの存在は改めて心強いものでした。贈与の精神に満ちた時間は、この講義の何よりの財産です。

16年でこれだけ役者がそろった今、みんなで「一冊のアンソロジー本」を出版するのもいいですよね。企画を考えましょう。「出版」は自分と読者の人生を充実させる素敵な活動です。

この輪に加わるのは、次はあなたかもしれません。
講義「自分の本をつくる方法」はいつだって、どなたにでも門戸をひらいています。


現場からは以上です!



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