こんにちは、「フリースタイル家具学」のキュレーターの深井次郎です。
今回、新講義を企画した背景を、少しお話ししました。ぼく自身は、DIY初心者なのですが、「初心者の方も楽しめるし、世界が広がるよ」と伝えたい!
(水曜メルマガに掲載されたコラムになります)
この板を買うところから始まりました。
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合わない先に自由があった
この半年で、本棚とドア、そして余った木材で小さなテーブルを自作しました。スキマ時間を見つけては、スケッチして、木を切って、組み立てて、塗る。まだ端材と塗料が残っているので、次は何をつくろうかと考えているところです。
「DIYを趣味にするぞ」と意気込んだわけではありません。何千冊と増え続ける本の重みに耐えられず、本棚が崩壊したのがきっかけでした。どうにかせねばと、ディーター・ラムスの頑丈な棚を買おうとVitsoeに問い合わせたら、設置予定のコンクリート壁に凸凹があって無理だったのです。
ドアも同様で、気に入った既製品はサイズが合わず。じゃあオーダー家具か…と職人さんに聞いたら、やっぱり高額。それだけコストをかけるなら「いっそ自分で遊んだほうが楽しいのでは」とひらめいたわけです。
まずノートにラフスケッチを描き、どう実現するかを考えて、必要な工具を調べました。YouTubeには初心者向けの解説動画がたくさんあります。電動工具はホームセンターでレンタルできるし、買ってもメルカリでほぼ値崩れなく売れるので、実質レンタルのようなもの。心配なくそろえることができました。
とはいえ、木工は木くずと音が激しいです。自室では厳しいけれど、最近のホームセンターには無料で使える工作室があるんですね。ぼくはジムに通うような感覚で、そこに通いました。
DIYに優しい時代が、静かに始まっていたのです。初心者の思いつきでも、すぐ実行できる環境が整っていました。
と同時に、YouTubeでの独学には限界も感じました。基礎は網羅されていても、応用編になるとわからないことが次々に出てくる。ホームセンターのスタッフも、こちらが少し学んだだけで知識を追い越してしまいました。
そんなとき、「パーソナルな家具コーチがいたらいいのに」と思ったのです。新講義「フリースタイル家具学」を企画した背景には、そんな体験がありました。
これまでのDIYには、どこか「妥協」の印象がありませんでしたか。予算があればプロに頼むけれど、それが叶わないから自分で、という。でも実際にやってみると、それは過去の話でした。テクノロジーの発達で、今では大人が本気で学べば、既製品以上に仕上げることも可能なんです。
しかも、既製品ではできないことができる。形も自由、サイズも色も思いのまま。ぼくは曲線が好きなのですが、工数が複雑になるので曲線の家具は少ない。でも、手間と時間をかければ、好みの形にして塗装や仕上げも段違いによくなる。ビジネスとしては原価が合わない“手間”こそが、趣味としてのDIYerの強みでしょう。
「DIYは既製品の劣化版」ではなく、「DIYのほうがクオリティが高いこともある」。これは発見でした。
綺麗な色とフォルムじゃない?
もちろん、思い通りにいかなかったところも多々あります。でも、次はもっと上手くやれるはず。これはどこにも売っていない、ぼくの作品。軽い気持ちで試作したけれど、いま可能な範囲で面白いものができた、と自己満足しています。
ひとつ小さな山に登ると、次の山が見えてくるものです。次は3Dプリンターに挑戦したい。金属加工や溶接もしてみたい。照明を設置するために、電気工事士の資格もとろう。つくった作品を展示したり、売ってみるのも面白そうです。リペア技術も磨きたい。
そうやって小さなアクションが、人生の思わぬ扉を開けていきます。もちろん、途中で満足して他のことに夢中になるかもしれません。それでも、一度深く学べば、その経験は確実に自分を変えるものになると思います。
これまで「木材」はすべて同じ木に見えていたのが、オークやビーチなどの違いがわかるようになりました。センスのいいお店の什器を見ても、素材や塗料から材料費が推測できるし、なぜその選択をしたのかを考えるようになった。世界を観察する解像度が上がったのです。
それにしても、暇なわけでもないのに、なぜこんなに没頭したのでしょう。ひとつには、身体的な手応えがあったからです。想像したものが目の前に現れる。その喜びは、何にも代えがたいものでした。
ぼくも多くの人と同じく、デスクワークや打ち合わせばかりの日々を過ごしてきました。何度も打ち合わせ、資料をつくり、やっと進むかと思ったら、お偉いさんの一言で白紙。依頼主が忙しくなって中止。他者の気持ちは、ままならないものです。そんな不毛な時間も仕事のうち、と言い聞かせてきましたが、そろそろ自分の時間を大切にしたい。没頭だけで日々を満たしたいのです。
木工は、やった分だけ確実に前進します。無駄な一日がないんですね。作業して、振り返って、「少し上達したかもな」とニヤニヤできる。
しかも家具には、思い出が刻まれます。削った跡、塗り重ねた色、ちょっと失敗したネジ穴までが、語れる記憶になる。「ストーリーのある暮らし」とは、きっとこういうことなんでしょう。
さて、次は何をつくろうかな。
ちょっと作った写真お見せします↓
ドアの枠。これ、もともとはザラザラのベニヤ板でした。なかなか美しいフォルムじゃないですか?
取手も埋め込みました。
余った端材でキャスター付き楕円テーブルを作って練習
完成ですー!キャスター付きだから移動が楽。天板にはリノリウムを貼りました。耐久性があり天然素材だから癒されます。端材で思わぬものができた。
「フリースタイル家具学」
アイデアを自らの手で形にする、自由を手に入れよう
教授:三輪ノブヨシさん(家具アーティスト)
ゲスト:青木亮作さん(プロダクトデザイナー/TENT共同代表)
4月23日(水)19:00スタート 〆切迫る!
詳細、お申込はこちら
https://freedom-univ.com/lecture/freestyle_furniture.html/