「まちづくり」や「地方創生」などといった言葉が多くありますが、私たちは「ローカル都市経営」と呼んでいます。意味付けをするならば、自分たちが暮らしている地域に根ざすモノやサービスを生み出し、循環していく一連の営み、経済活動と言えるからでしょう。
では、誰が推進するのでしょうか。もちろん、人です。更に言えば、専門家からなる、イノベーションを推進する組織が必要になります。ローカル都市経営を推進する組織にとって必要な要素をキーワードで学びながら、実際どのような想いを持って具体的に社会に対して働きかけていくのかをテーマに講義が行われました。
今回、各地域の開発やプロデュースを多く手がけてきたSPEAC共同代表・東京R不動産ディレクターの林厚見さんをゲストにお招きしてお話を伺いながら、受講生とのディスカッションも活発に行われました。
<ローカル都市経営を担う組織に必要なこと>
山崎教授は、ローカル都市経営に携わる組織にとって必要な要素として、ビジョンから具体的な戦略の実行まで次のように挙げています。
・ローカル都市経営における目的と活動は公共に貢献するというビジョンの共有
・地域の活動範囲と行動指針を明確にする
・ビジョン実現のための活動資金を獲得する
・知識や経験のある民間と地元の有力者による、多様性のある意思決定がされる仕組みづくりの構築
・事業戦略を行政・民間・コミュニティに公に発信し、最新状況を共有する
・多くの関係者の目に留まるようなプロモーションを展開する
・運営するに相応しい組織形態(NPO・合同会社・株式会社等)のメリット・デメリットを考慮する
・組織形態に従った会社の登録手続き(登記・役員の選定など)を円滑に行う
・長期目線で物事を考える
まず、ミッションとして地域・公共の利益となる活動を展開するというのが原点になります。ただ、闇雲では自分たちが目指している結果から離れてしまうため、どこの地域を対象にして、どのような行動指針の基で活動するのかを意識することが大切になってきます。
<山崎教授×林さん 対談>
山崎教授と林さんによる対談という形で、ローカル都市経営を担う組織のあり方について議論しました。
地域の新たな経済生態系を生み出す
林さん:自分自身、数々の地域のまちづくりに関わってきたが、日本ではそもそも
ローカル都市経営についてどうあるべきかというコンセプトが欠けていると感じる。
また、具体的な活動レベルのアイデアはあるが、根本で変化を支え続ける戦略もなく、それぞれとにかく頑張るという印象がある。おそらく、日本の産業構造がハードからソフトへ急激に変化したことも原因だと思うが、表面的なブランディングに囚われて根本の構造転換がなかなかされていないのではないか。
山崎教授:ローカル都市経営とは、新たな経済的なエコシステムを創ることだと思う。都市経済を発展させていくために何が必要なのかをリサーチし、それに基づいて具体的な戦略を練り、関係者に対して提案していくという一連の流れが核になってくる。
林さん:確かに、今まで想定していなかった対象層まで視野を広げ、そこの地域での経済生態系を生み出すことが組織には必要になってくる。「経済生態系の応援屋さん」と言えるかもしれない。つまり、全体的なマーケティングを考えながら、同時にプロダクトの改善をしていくことがローカル都市経営にも重要になってくる。
ローカル都市経営を担う組織をどうデザインするか
林さん:日本語ではデザインという言葉が、何かモノをつくるという意味だけに取られがちだが、私はもっと広い意味で捉えている。組織としての方針や仕組みを一貫させた上で、ゴールを実現するためのメンバーの関わり方を柔軟にする、マクロの仕組み化とミクロな人間の心理を想像するという、対照的な両者を組み合わせる行為だと思う。ビジョンの明確化から計画の実行に至るまでのシナリオメイキング、そしてメンバーの役割を超え、お互いの得意なことで柔軟に組織全体にアウトプットする人材育成など、あらゆるフェーズでデザインが求められる。また、戦略の差別化や取捨選択も含まれる。
山崎教授:「デザイン」という言葉が日本語では服を作るとか、具体的にクリエイトするという狭い意味に捉えられがちだけど、本当はビジョンを定め、それに基づいてどう戦略を実行するかまで考えること。特にアクションの選択と集中、携わる地域のマッチングが重要になってくる。ビジョンがどのステークホルダーにとっても同意できるような内容は漠然としていて、強烈な共感は得られにくい。誰が、何をするのか、そのためにどうメンバーが活躍していくのかを尖らせていく。
受講生:ある地域のプロジェクトを推進するチームの提携側として関わっているが、どのように働きかけていけばいいか迷っている。
林さん:それぞれの役割があると思うが、状況に応じて縦割りを超えて柔軟に提案をしたりできたらいいのではないか。ビジョンを実現するには、自分の役割を出たり入ったりすることで、いろいろな視点から考えられると思う。ローカル都市経営は、推進する主体によってマクロやミクロに偏ってしまう傾向がある。行政やコンサルだとマクロ、一方NPOや非営利法人はとにかくマンパワーで頑張ると、ミクロな打ち手に走りがちだ。だから、マインドセットと成果を確実に出す、ハードとソフトのバランスがローカル都市経営を担う組織のキーになると思う。
TEXT:村田知理(自由大学インターン)