最近、AIや機械学習などの言葉が新聞やTVで取り上げられていますね。業務効率化や新サービス創出では欠かせない技術となっており、IT業界を盛り上げています。
ところで、AIや機械学習は「統計学」を基礎とした技術であることはご存じでしょうか。統計学自体は古くから存在するものですが、ここ最近はビッグデータの広まりにより大規模データを収集しやすくなり、改めてデータ分析が注目されております。
私がデータ分析にはまったきっかけは、大学卒業後に勤めた音楽CDの専門商社でCD売上数の予測をしたことです。と言いますのも当時私はルート営業だったので、担当店舗の店長からCD仕入数の相談を受けることが頻繁にありました。
「次の宇多田ヒカルのアルバムは何万枚売れるんだ?」と。CDの発注は発売日から3か月前にメーカーへ発注を掛けるので、困ったことに業界の習わしとして楽曲を聞く前に販売枚数を予測して発注をしなければならないのです。
そこで私は、対象アーディストの発売月、楽曲数、CM/ドラマのタイアップ数と人気度、前作売上枚数、などをエクセルにまとめて、何となく売上枚数を予測していました。結果は、散々でした。楽曲を聞く前に発注しなければならないので当たり前といえば当たり前なのですが。
その後、ルート営業だけでなくCD店舗の出店支援もするようになると、今度はCD店舗全体の将来の月間/年間売上予測をする必要が出てきました。CD店舗と言っても色々ありまして、ショッピングセンター内のテナントでしたり、大型家電量販店などです。
店舗出店には数千万円の投資が掛かるので、何となくの予測では信用を失ってしまいます。困った私は先輩に相談すると「重回帰分析」を勧められました。ん?聞いたことがあるような無いようなという私の所感はさておき、出店提案資料の作成を先輩にも手伝って頂き、店舗オーナーへのプレゼンまで付き添って頂きました。
提案資料には、何だか難しそうなエクセルの表が記載されておりましたが、そこには「統計的売上予測 ○千万円」と書かれておりました。結局、統計的な根拠に基づいたプレゼンにより店舗オーナーも納得の回答を得ることができました。
さすが先輩と思うとともに、統計的な根拠を話している姿がカッコよかったです。さらに、半年後の店舗売上を見てみると、なんとほぼ予測に等しい金額で、売り上げが推移していました。世の中には、統計という未来を予測できる術があるのだな、と感動したことを覚えています。
さて、データ分析の面白さのひとつに「人々の行動を予測できる」ことがあります。統計学ではこの領域のこと推測統計学というのですが、例えば、あるアイスコーヒー店の店長が直近1週間の売上予測をするときの統計的手法があります。アイスコーヒーの売上は日々の気温や湿度に影響するので、それらの情報に重みを付けてY= b+aXのような方程式を作成し、売上(人々の行動)を予測するという手法です。
この手法を重回帰分析(又は回帰分析)といい、小売店舗の売上予測だけでなく就職内定数獲得予測など未来を予測する際に使われます。
この未来予測分析は様々な場面で利用されているのですが、手法を知っている人は少ないのが残念なところ。知るだけでも他者より一歩前に出ることができるでしょう。
データ整理しデータから読み取れる事柄を正しく分析することは、企業の経営層への提案にも役立ちます。今こそデータ分析者の出番だと思います。
最近海外では専門家育成だけでなく「専門の分析担当でもない営業マンが、ツール(ExcelやR)でデータを分析して仕事に活用する」ことの重要性が注目されています。専門家を目指すことはなくとも、データ分析手法の概要を理解することはとでも重要なのです。
単なる平均や割合といった集計ではなく、統計学をベースとしたデータ分析を理解することで、皆さんが会社で作成する提案資料が変わり、資料の説得度が格段に上がります。
データ分析力を高めることで新しい価値を生み出し、社会に貢献することができるでしょう。
【おすすめの本】
書名:統計学が最強の学問である[実践編]
2014年発行のビジネス大賞を受賞した書籍。シリーズとして数冊あるのですが一番読んだのが[実践編]です。この本は統計手法が出来た背景から手法まで書いてくれております。
また、なるべく難しい統計式は外して説明してくれているので、数学が苦手という方でも読み易いと思います。マンガではなく文書で綴られておりますので統計の初学者にとって若干
難易度は上がりますが、ビジネスで使う統計手法は殆どこの本の中に書かれていると思いま
す。
text:教授 松岡利弥
担当講義: データサイエンスR道場(基礎編)