講義レポート

「しかくのせかい」

DIYミュージック 教授コラム

目を閉じて、周囲の音にそっと耳を澄ます時間が好きです。

音と一緒に、空気や匂いや肌の感覚が、瞼を閉じた瞬間、ぐっと濃密に流れ込んでくる。急に感覚が研ぎ澄まされて、世界の奥行きが違って感じるようになる。

木々に覆い隠された見えないものの気配に集中しながら、夕闇の森の中を歩く時も、瞳は開いていますが、同じような鋭さで世界を感じ取っているような体感があります。

人が五感で認識している周囲からの情報のうち、視覚が占める割合は80%以上という説があります。町行く人々の服装や髪型、建物や乗り物や道路のデザイン、様々な物体の色や形、商品パッケージ、広告ポスターや看板、スマホやパソコンの文字情報、などなど。暮らしの中で目に飛び込んできている視覚情報を一つ一つ数え上げたら、あっという間に大量のデータになってしまうでしょう。

少し前に、視覚障がい者を中心に制作・プレイされているという映像が全くない音だけのゲーム「オーディオゲーム」を体験しました。体験したのは、ヘッドホンから聞こえる足音に耳を澄ませてコントローラーで敵を倒すアクションゲーム。普段、音の仕事をしているので、音だけの世界には慣れっこになっていると思っていたけど、実際やってみると、いろんな気づきがありました。

スタッフの方が話していた「初めは点数が低くても、何回もやっているとある時点でグッと一気に点数が上がるんですよ」「人によって、敵は忍者だとかゾンビだとか、武器を持ってるとか素手で戦ってるとか、音から想像していることが違うんですよね」と言う言葉が印象的で、耳の能力を開発したら、今の人間とはまったく違う世界や身体やプロダクトを作れるんじゃないかなと空想してみたり。

目を閉じて、耳を澄ます。感覚を研ぎ澄ましてみる。視覚情報に頼っている日々に慣れていると、初めは怖いかもしれません。ゆっくり深呼吸して、感覚がキャッチした小さな手がかりを、丁寧に辿っていく。感覚を少しづつ開いていく。伸ばしていく。そうして、新しい世界が広がっていく。
しかくの世界から、境界のない世界へ。



関連する講義


関連するレポート