講義レポート

ハイブリッドなクリエイティビティを生きる

DIYミュージック第15期 講義レポート

DIYミュージック第15期のゲストはAkiko Kiyamaさん。アーティストとしての活動と並行して、カセットテープを中心とした自身のレーベル「Kebko Music」の運営、さらに加えて、フリーランスでバイオテック関連のコンサルティングもされています。現在は東京を活動拠点にされているAkikoさんですが、大学卒業後の数年間は、ベルリンに居を構えて音楽活動をしていらっしゃいました。

クリエイティビティをキープするために自分のスタイルや「好き」そして「遊ぶ」ことを大切にしているAkikoさんの姿勢は、誰が聞いても深く感じ入る部分のあるお話だったのではないかなと思います。

ラジオから聞こえてきたギターのギュギュイーンという音に心惹かれ、そこからクラブミュージックの音色に出会った子ども時代を経て、大学時代にはサークルに入ったことで音楽制作をスタート。クラブにも行くようになり、Portableの来日公演に出演したことがきっかけで、ライブやリリースなどのアーティスト活動がどんどん増えていったそうです。

当時は音楽シーンが大きく変わっていった時期であり、CDなどのリリース形態のあり方も問われ始めた時期。そんな中、音楽活動を続けるため、大学卒業後はベルリンへ。大きなフェスティバルへの出演など活動履歴だけ並べるとセレブのような華やかに見える世界の裏側で、実際は、苦労や苦悩があったそうです。

ドイツという異国の地で、外国人かつフリーランスアーティストとして生活していくことへの葛藤。週末のエネルギー溢れるフェスやクラブの空間と、それ以外の日常の時間のコントラストの強さ。終身雇用制の会社員とは違って、音楽は「がんばったから、うまくいく」「長年続けたらその分だけキャリアやスキルがゲットできる」というわけではない仕事だということ。ベルリンに住み始めるまでは、ヨーロッパの音楽シーンは作品至上主義に見えたけど、行ってみたら、大きなフェスに出るにはそこと繋がりのあるブッキングエージェントに所属していなければいけない、など縦社会的な要素はやはり存在していたということ。

ドイツでは、端からは何もしていないように見えても、誇らしげに「僕はアーティストだから」と言う人に時々出会ったそうです。逆に、「自分は音楽100%で生活していても、いろいろ試行錯誤や悩みがあるから、『自分はアーティスト』と胸をはって言えない」と感じていたAkikoさん。悩んだ末、バイオ関係の大学院に進んだり仕事を始める中で、「自分のジャンルってなんだろう?」と音楽的にも自然な変化が出てきました。

アーティスト活動の中で見えてきた「『やりたい』というパーソナルなクリエイティビティの衝動」と「お金をもらって生計を立てるという行為」のバランスの問題。例えば、インディでも有名アーティストになれば戦略を立てて作品をつくったり、1つの作品にいろんな人が関わってきてその人たちの分まで生計を考える必要が出てきます。Akikoさんは、どちらが良い悪いというわけでなくて、いろんなスタイルがあって良いし、今はその人らしい選択ができる時代だといいます。

「私はその時代を知っているわけではないけど、90年代の日本のテクノシーンはソニーのような大きな会社ともつながりがあって、CDを買う人もまだたくさんいて、『ミュージシャンの王道』というような生き方もできたと思う。でも時代は変わっているかな、という感覚があります。」「今の時代は、なんかやりつつのミュージシャンが不可能じゃなくて、なんかできちゃう。」そんなハイブリッドなワーキングスタイルが選べるようになってきた時代。

「自分は個人的な所からスタートしたし、そっちの方が得意だなあ。」とも話していたAkikoさん。カセットテープレーベル「kebko music」では、「アーティストの『素』の部分、自然発生的で嘘のない音楽、『つくりたい』という気持ち」を大切にしているそうです。Bandcampでの直接のやり取りがメインの流通経路だったり、カセットテープというメディアとこだわりのパッケージの手触りには「人数こそ少なくても、濃い関係性ができるのでは?」という気持ちが込められています。

「私の曲を聴いてほしい」と強く思うタイプではないというAkikoさん。「(手軽に楽曲がリリースできるようになった現在は、全体のリリース数も膨大なので)リリースしたから何かが起こるというわけではないけど」「やっぱりリリースやライブは大切だなあ」と感じると言います。「思わぬ所で喜んでくれる人がいたり、好きなミュージシャンに会えるきっかけになったり。年をとったからかもだけど、そういうことが嬉しいなあと感じます。」とも、お話ししてくれました。

講義後には、受講生が今制作中の楽曲にアドバイスをもらったりするシーンも。楽曲リリースなどの経験がありながら、子どもができたりと生活の変化の中でなかなか音楽制作の時間が取れなくなったという受講生は、制作中の楽曲のAbleton Liveの画面を見てもらいながら、具体的なアドバイスを受けられたようです。一方、ガレージバンドで音楽をつくりはじめたばかりの受講生には「She talks silenceという友達も、ガレージバンドに入っている音源を使って自分のトラックをつくってますよ。彼女は歌とギターで曲をつくるアーティストで、ガレージバンドの音源は著作権フリーなので。」と、なんとも心強いコメントをもらっていました。

「師匠は誰かいますか?」という受講生からの質問にAkikoさんは、「誰かに技術的に何かを教わったということはないけど」と前置きしながら、3人の名前を挙げてくれました。まずは、お世話になった大学時代のサークルの先輩。「君は音楽をやるべきだよ」と、Akikoさんの好きそうな音のことなどを教えてもらったそうです。そして少し考えた後、心の師匠としてあげてくれたのは、SUGIZOと90年代のCold Cut。ちなみに、ビジュアル系が好きだった中高生時代に音的に好きだったのはINORANだったとのこと。

トークの途中では、真ん中にでーんと大きな黒丸があって、そこに「悩」と大きな文字が描かれているスライドも見せてくれたAkikoさん。最近もinstagramで「満足いく曲ができなくなってる!」という悩みをポストしたところ、同業アーティストから「私も!」「俺も!」という共感コメントが殺到したというエピソードも話してくれました。どんなお仕事でもそうですが、いい面もあれば大変な面もある。そんな悩みの部分を、隠さず素直にシェアしてくれたAkikoさんの貴重なお話は、何かをうみだそうとしている人には感ずるものの多い時間だったのではないかと思います。

 

(text by DIYミュージック教授 sawako・キュレーター 鈴木絵美里)



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