講義レポート

 

僕の叔父はカナダ人として30年前にアメリカに移住をし、アメリカンドリームを体現したように振る舞う。50代前半でリタイアをして、それまでに投資をして得た不動産資産が今では年金の数十倍以上の所得を手にする資産となった。まさに不労所得で悠々自適な生活をしている。大好きなゴルフに、身に余るほどの豪華な自宅に、メルセデスSクラスを二台所有して、週に一度か二度はオーセンティックなJapanese restaurantで寿司を食するのが日課となる。「幸せか?」と聞くと、不動産投資とゴルフは一生現役という夢を持っているというから、答えはNoだ。まだまだ天井知らずのスコアを追いかけているのだろう。

高校の時、正真正銘、僕はアメリカン・ドリームを追いかける一人の日本人として暇さえあればアメリカを訪れていた。もちろん、叔父を拠り所に、短期留学なる口実に本当に暇さえあればアメリカを訪問していた。そこで叔父からは見よう見まねで不動産投資の基礎を叩き込まれていく。週末になれば、とにかく地域から地域へと売りに出されている家を見て回る。ダウンタウンに新たに出店されたレストランを物色したり、スーパーの労働者がどんな人種か。特段、大好物な寿司をただただ物色しているようにしか見えなかったが、叔父は必ず店長よりに台所にいる職人が日本人か否か?またキャリアについては厳しく聞いていた。自分が嗜む寿司以上に、凝視する格好で片言の英語であれどお構いなく舐め回すように質問を浴びせた。叔父に言わせれば、寿司のうまさ、学校教育のレベル、生活者の色(人種)がその地域(町)の不動産的価値に直に響くことになるという。まちづくりや地域づくりに広範囲で関わるようになってからか、叔父の地域を見る定規(メジャーメント)は意外と適応できることに今更ながら驚く部分もある。実際はそれ以外にも詳細を見極めながら不動産資産を手にしていく姿を横で見させてもらったのは事実で、ガラクタのような物件でも地域の選び方や建物の選定や維持コスト計算をしっかりやれば儲けられるのである。数千万円で購入した土地と立てた家が数年後に数億円の価値をつけるような物件も売却する時はさすがに有頂天になっていたが、だからと言って、その状態が幸福かどうかは経験をしなければわからない。そこには様々なリスクもあるわけだから、実際に経験をして見ないとやはりわからない。

不動産投資について叔父をかつては尊敬し、投資や事業家を目指したが、時を経るに従って叔父が見ようとしてる現実と、僕が追い求めているリアルな未来には、ただただ乖離した価値観の違いだけが色濃く残るようになり、20代中盤で2回目の起業をした際には彼がみようとしている未来の景色を追いかけることは、もう既にしていなかった。大人として幸せに暮らしている叔父は立派だが、やはり、その生活が楽しいとは思えなかったのだろう。ただ、叔父を批判しているわけでもなく、価値観があって初めて個性というのが生まれるわけで、自分も色々な経験をし、様々な地域で仕事をする中で叔父以上に多くの価値観をみてきたと自負はある。だからこそ、乖離がものすごく広がっていったのだろう。

そんな叔父も、その友人も多くの物件をポートランドに所有していた。しかし、現在は保有していない。近年高騰した土地の価格にあわせて売却している。ポートランドは日本ではここ数年の間にめざましくその認知度を高めている地域である。ポートランド現象と呼ばれるほどにポートランドを模した建物やインテリアや空間が東京には特に山積しているように見えるほどに。それが悪いわけでもないが、同質化は個人的にその地域にいる理由を妨げるため、できる限り個性のある地域に身を置いていたい。しかし、叔父に言わせれば不動産には旬があるわけで、本当の価値を見極めている前提で、その土地の値段が安値で売られている時に少ない利率でお金を調達し、できる限り短い期間で価値を上げ、数年以内に売却をできることに越したことはない。個性や文化などと、何をそんなに悠長なことをいっているんだ。不動産投資は喰うか喰われるか?なんだ、という狂犬に噛まれるかのごとく凄まじい勢いで捲し立てられる始末だ。

今、ポートランドや世界のイケていると言われる町や地域はこの個性や文化と経済価値の間のバランスに悩みあぐねているのだと思う。人類のユートピアとして市民によって生活のしやすさやその当時の幸福に身を任せながら手作りのうちに作られてきたポートランドには現在は大量のネオホームレスたちが地域にこもるようになってきている。世界一住みやすい町もその人気に乗じて投機を目的としたお金が世界から寄せられるようになり、現在進行形である種の地域の開発は進んでいく。

叔父はその状態にワクワクをして、次のポートランドを西海岸(米国)に探し求めるが、僕としてはいつポートランドが経済成長にその身を委ね、ユートピアを語れる町からの陥落がおこるか、そわそわしながら眺めている。この二人の関係は叔父と甥という関係以上に、もう少しズームアウトして考えてみると文化と経済の融合とその拠り所が果たしてあるのか否か?すら実証するような論争にも発展しそうだ。

定点観測しているポートランドに1年ぶりにのめり込もうと思う。いささか噂にしている叔父との論争も白熱しそうだ。もちろん、僕のテーマはポートランドは生涯ユートピアを語り得る町であるか?となる。

ポートランドはユートピアとなりうるのだろうか。

(担当講義:CREATIVE CAMP in ポートランド

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