講義レポート

新事業は常に社会実験。頭の中だけではなく、実践から学んでいけばいい。

「ファーマーズマーケットをつくろ」講義レポート

%e9%bb%92%e5%b4%8e%e3%81%95%e3%82%93%e5%af%84%e3%82%8a

自由大学は「STUDY EXPERIENCE」をスローガンに、体験からの学びをテーマにした講義をリリースしています。人気講義「ファーマーズマーケットをつくろう」では、構想した事業を初期設定だけで、早い段階から実験的に実践してしまうことで、発見があったり、面白い展開が生まれたりしている事例として、青山ファーマーズマーケットを取り上げています。
講義は青山ファーマーズマーケットの運営チームが企画。1回目は自由大学のファウンダーでもあり、青山ファーマーズマーケットの企画、設立を手掛けてきた黒崎輝男さんをゲストにお話を聞きました。

%e9%bb%92%e5%b4%8e%e3%81%95%e3%82%93%e5%ba%83%e8%a7%92

 

ただモノを売り買いするだけの場ではない

「アメリカのシアトルにThe Fishphilosophyというマーケットがあります。魚の市場ですが、店員が注文の魚を投げてやり取りをしていて、魚が空中を飛びかうパフォーマンスが面白い。ディスプレイも新鮮さがわかるような工夫があり、スタッフも気さくで活気に満ちている。魚を買うだけではなくて、お客さんがマーケットをイベントとして楽しめるように考えられているんですね。「食べ物で遊んではいけない」という既成概念にとらわれず、魚をコンセプトに遊びのある楽しい市場を作ろうとしてやっていったら、名物になった。人気が出て動員数が増えたら、周辺においしい魚料理のレストランができて、魚以外のおいしい食材のお店ができたりして、界隈が相乗効果でどんどん盛り上がり、人が集まる場になっていくという現象が起きています。

人が集まる場ができれば、小さなフードカーでアイスクリームを売るみたいな小さなビジネスが成立する。アメリカなどでは自治体が支援する場合もあって、マーケットが若者とか移民の人やホームレスの人の就業を応援する場にもなって社会的にも意義があるんですね。小商いから始めて、成功して大きなビジネスになっても、マインドを忘れずに商売を始めたマーケットにお店を出し続ける人もいる。ビジネスだけではなく、売る側もお客もお互いに顔がわかる、コミュニケーションがとれることにも大きな価値があるんです。

そんな風にマーケットをただモノを売り買いする場としてだけでなく、いろんなことができるプラットフォームとして考える流れが、世界中で起こっています。

%e9%bb%92%e5%b4%8e%e3%81%95%e3%82%93%e3%80%80%e3%82%88%e3%82%8a%ef%bc%92

まずやってみる、うまくいったらノウハウになる

食材も売っているし、周辺にはレストランがあったり、骨董市があったり、ライブをやっていたり、食やライフスタイルを総合的に楽しめる場というのは実は世界中にある。でも東京にはない、ないならつくろうということで、ポートランドとかニューヨークとかパリとかストックホルムの賑わっているマーケットを参考にやってみたのが青山ファーマーズマーケットです。

最初は出店も30軒しかなくて、資金もなく大変でしたが、現在は80軒にフードカ―を入れて100軒ほどのお店がコンスタントに出ています。「パン祭り」のように1日に1千万売り上げるようなイベントもありますし、人気の店舗では1日10万売り上げるところもあって、平均でも5万くらいの売り上げがある計算ですから、2人で売って1人の取り分が2万円くらいある計算なら、農家の人も継続的な商売になるんじゃないでしょうか。

どうしたらそういう「人が集まるマーケット」ができるのか、知りたいという人が出てきました。人気の秘密を知りたいという自治体や企業の人が視察に来たり、海外からも注目されてきています。ただ産直野菜を並べて売るんではなくて、ディスプレイの統一感とか、全体をイベントとして上手にデザインできていることも大事で、個々の店舗の魅力だけではなくて、人間関係がよくて、参加する人がみんな楽しめるような独特な雰囲気作りというか、ブランド力のある運営でしょうか。そういう意味では人材ありき、ノリのいいスタッフを集めることがコツかもしれない。

もちろん僕らが立ち上げからやってきて、経験から学んだ「こういうふうにやればうまくいく」というノウハウはあります。まず初期設定がちゃんとしていることは大事です。マーケットの基本精神、コンテンツの仕組み、お金のフローなどを設定し、全員で情報共有をしっかりすること。各担当の責任者とお金の流れがちゃんとしていれば、あとは和気あいあいでいい。いい加減が良い加減とでもいうのかな。

ホラクラシーという組織論がありますが、構成員は平等でヒエラルキーがない。組織がポジションではなくて、ロール(役割)で構成されているという新しい価値観です。マネジメントでも命令系統があるわけではなく、流れを見ながら各自が流動的に自分の役割を果たしていきます。ファーマーズマーケットはそういう新しいスタイルで運営してみるというマネジメント実験の場でもあるんです。
僕たちは食とかライフスタイルに興味があって、自発的に面白いと思ってやっているのがプライドだし、そういう誰に言われるわけでもなく嬉々として取り組んでいる様子をSNSとかで拡散している他、特に宣伝もしていない。店を出す人も、運営側もノリよく、みんなが面白がって盛り上がるようにやっていたら、人が集まってきて、ますます盛り上がってきている。ゆるくノウハウはあるけれど、継続的にやっていける一番大きな要素は自分たちが楽しいということです。

%e9%bb%92%e5%b4%8e%e3%81%95%e3%82%93%e3%80%80%e5%ba%83%e8%a7%92%ef%bc%92

みんなでファーマーズマーケットの未来を模索する

食の世界的な潮流もあります。こだわりのある人は、高級食材店よりも生産者の顔が見えるお店で買うことがステイタスで、パリの一流シェフでもビオマーケットなどコストが高くても個人から安全な食材を買う流れになっている。お金持ちや知識人ほど、有機食材を食べて、丁寧に生きることが、リッチな生活ということに変わってきている。大量消費、大量生産のリスクをみんなわかってきていて、世界が生き延びるためには、そういうムーブメントを作っていかなくてはいけない。

ファーマーズマーケットには、コストがかかって価格が高いけれど、いいものをつくっている人がちゃんと稼げる市場を作るという機能もあるということです。例えば、海外戦略ができている日本酒の酒蔵は輸出で伸びているけれど、ドメスティックな酒蔵はつぶれそうなところも多い、でもファーマーズマーケットで日本酒のイベントをやったら、400万円ほどの売り上げがありました。普段お酒を呑まない若者に、おいしい日本酒を味わえる機会を作って、昼間からガンガン日本酒の呑み比べをしてもらい、そこで酒蔵情報を流すことで、広報になる。商品力のあるものなら、食に関心の高い人が集まるこういったマーケットでイベントなどを企画すれば、新しい顧客を作ることもできるんですね。

そういう市場づくりもそうだし、これからフードロス問題とか、世田谷区からの要請で二子玉川に新しく展開するファーマーズマーケットの企画運営など、取り組んでいきたいことはたくさんあります。

この講義では、僕たちの経験だけではなく、いろんな職業の人が受講していると思うので、みんなのノウハウをシェアしながら、これからのファーマーズマーケットについて、いろいろ模索していきたいと思います。」

(テキスト・撮影:ORDINARY



関連する講義


関連するレポート