講義レポート

アートと社会と都市

クリエイティブ都市学−北欧学 第4回 ゲスト:ERIC SEVERINさん、EMILIE MOTTETさん 講義レポート

広告関連企業勤務を経て独立し、フリーランスで活動するアーティストEricさんとEmilieさん。
イラストレーター、グラフィックデザイナー、フィルムメーカー、そしてなんとVJやDJとしても活躍するお2人に、彼らのアート活動、スウェーデンとアート、そしてストックホルムという都市についてお話いただきました。


Norm Creativity

2人が手掛ける作品は、使う道具も、表すモチーフも、公になる場もさまざまです。
指人形、キッチン用品、電飾、絵の具、アニメーション…
救急車、注射器、筋肉、顔、子供服…
IKEAや広告関連企業のCM、壁画、料理本…
1つ1つ作品が紹介されるたびにみんなが目を見張り、教室全体が作品に引き込まれます。

どこからそんな発想が得られるのだろうと感心してしまう彼らの作品のインスピレーションには、意外にも、日本文化が一役買っているのだとか。

一見すると、多種多様で通底するテーマはないようにも思える彼らの作品ですが、創作にあたり、既存のステレオタイプや常識を壊すことを意識していると言います。

そんな自らの思想を表す言葉が”Norm Creativity”です。

例えば、女性。

『細身でボンキュッボンが理想的な女性』と一般的には思いがちですが、Emilieさんのとある作品にはボディビルダーのような筋肉隆々の女性が描かれています。

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ステレオタイプとして持っている女性像とは違うけれど、まぎれもなく女性。
日常生活の中でなんとなくステレオタイプを抱いていることを自覚すると同時に、ステレオタイプを壊すことで生まれる魅力があるのだということに気付かされました。


フリーランスというArt

スウェーデンにおけるアートを取り巻く環境は、決して手厚い保護があるとは言えないけれども、悪くはないと言います。
スウェーデンという国は、政治的にも経済的にも他のヨーロッパ諸国と比べると比較的安定しているし、税率が高い代わりに社会保障も日本と比べてしっかりしています。

政府によるアーティスト支援の一環で、公的機関が資産として芸術作品を購入したり、基金を設立したり、芸術活動を行うスペースを提供したりといったこともあるそうです。

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そんな国を中心としながら活動する2人はフリーランスのアーティスト。
周りのアーティストを見渡しても本当に自分の好きな活動だけをして食べていけるのはごくごく僅かで、多くのアーティストは2人のようにいろいろな企業や団体から受注を受けてプロジェクトを運営しながら、生計と自身のアーティスト活動を支えているのだそうです。

私自身もフリーランスとして生きているため、アーティストでありながら収益バランスを気にする経営者的感覚を持って話す彼らに同感し、終始うなずいてしまいました。
と同時に、そんな彼らが話している様子を客観的に見ながら、自分の生活をも一種のアートとして創りあげているアーティストだなぁと感じました。


Innovationの都市Stockholm

東京とストックホルムを比較してどう思うかという質問に対して返ってきた言葉は、機知に富んでいて面白いものでした。

「東京と比べると、人も、建物も、ビルの階数も、店の数も、買い物できる時間も、何もかもストックホルムの方が少ない。でも、自然に敬意を表すところ、小国ならではの上昇志向、食事をしていると最後の一切れを譲り合う優しさ等、メンタリティはとても似ている。

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エリクソン、H&Mと言った日本にも知られる大企業を生んだストックホルム。
その源泉は、PRの上手さと自分の好きなことに集中できる環境にあるのではないかと2人は分析していました。

第一次世界大戦・第二次世界大戦ともに不参加だったスウェーデンでは、世界大戦で打撃を受けた国々が復興に時間とお金を費やしている間、教育などの社会保障をはじめとする復興以外の部分に力を注ぐことができ、それが結果として教育の無償化や奨学金の充実のような好きなことに集中できる環境の整備につながったのかもしれないと言います。

好きなことに集中できる環境は、一見とても楽な気もしますが、実はその好きなことで生きていく術を考える責任が生まれることでもあるのだと思います。
『好きなことで生きていく』という思いが、ストックホルムやスウェーデンの企業やアーティストのイノベーションの原動力になっているのかもしれないと感じました。

いつか、そんなストックホルムの空気を肌で感じたい!…そう思ってしまう講義でした。

(text : 第1期 高藤さおり)



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