講義レポート

今宵、月を探して

月を愛でる暮らし キュレーターコラム 川又沙智

以前の職場は坂道の上にあって、夜、帰り道に、ふと空を見上げた時、もったりと重たげな月が街の上空にかかっているのを見かけることが多かった。夕方のまだすこし明るい空を西に見ながら、まるで夜へのスイッチを待つかのように、薄暗い東の空に月が待機している。これから、夜になりますよ、という合図のように。

月の形は、満月、半月、三日月、新月あたりがメジャーだけれど、それ以外にも寝待月、立待月、更待月などの呼び名がある。それは形でいうと半月が、ちょっと膨らんだ感じ、それがもう少し膨らんだ感じ、というように、一晩明けたらわからないような差だ。反面、昔の人は暦を太陰暦でとらえていた。太陰暦は月のサイクルに合わせた暦だから、たとえ月が見えない日でも、今日はどれくらいの大きさの月が昇っているのか、次の満月まで何日か、自然と意識して過ごしていたのだろう。暮らしの中でも、江戸時代の農書には「大根は闇夜に収穫するように。満月だとスが入る」という教えがあったし、木材の切り出しは満月を避ける風潮もあった。言い伝えとは、迷信ではなく、経験という根拠があるからこそ残るものだ。満月に一斉に産卵するサンゴ、新月に一斉にふ化するアイゴ、そして、きっと私たち人間も、月の日々変わるエネルギーを浴びていて、どこかしら影響を受けているに違いない。

思い起こせば、以前の職場から帰るときは、帰り道の視界に入る範囲でしか月を見ていなかった。目線を上げれば自分の頭上やうしろに月があった日もあっただろうし曇っていても月のエネルギーは私たちに降り注いでいたはず。ちなみに、『月と農業―中南米農民の有機農法と暮らしの技術』によると、植物に内包される樹液には新月に流れが下降し、満月に上昇するサイクルがあるそうだ。もし、人間も同じだとしたら?新月の夜には、ゆっくり体をマッサージしてデトックス、満月の日は思いっきり友人と遊ぶ、ちょっとだけ月の形と自分の生活スタイルを合わせてみるだけで、自分の生活を月のエネルギーに後押ししてもらえるかもしれない。

【おすすめの本】

月と太陽、星のリズムで暮らす<薬草魔女のレシピ365日>
瀧口律子
BABジャパン (2017/8/7)

太陽や星の巡り、季節に合わせたハーブやケアの方法を教えてくれる本。季節を細かく分けてそれらの時期の体調を理解し、身体のケアができるようになります。さらに、月の満ちるタイミングに合わせたレシピやハーブティーも紹介されているため、日常に星のサイクルとハーブをうまく取り入れられるようになります。ハーブ初心者の方や、自分の身体と季節のリズムを感じたい人におすすめです。

text : キュレーター  川又沙智

担当講義:  月を愛でる暮らし



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