キューバに赴任して2ヶ月経った頃、緊張していた仕事にも少しずつ慣れて、街歩きを楽しむ余裕が出てきた。
5月のキューバはすでに猛暑。普段は調整できない冷房でキンキンに冷えた事務所にこもり、寒さに震えながら働いている。冷えと運動不足で鈍った体が、突然の暑さに対応できるはずはなく、歩き始め5分で体力が消耗し始めた。肌を焼く感触が全身にジュワジュワ伝うような日差しの中、慣れない硬水をあっという間に飲み干し、日陰を探す。
曲がり角、民家の壁際に生える大木の陰を見つける。てっぺんが見えないほど高くそびえ、広く密に茂った厚い葉が、深く濃い影を凸凹道に落としている。
緯度が石垣島とほぼ同位、亜熱帯に属するハバナだが、貿易風が吹いているので、日陰ならば東京の真夏より凌ぎやすい。幹を背にして根元に腰を下ろしほっと一息つく。ふと見上げると、視界いっぱいに広がる濃緑の葉陰の中に、何百という美しい果実が実っていた。たわわ、という言葉を浮かべながら、黄色からうっすらと赤みを帯びて熟し始めたマンゴーの愛おしい丸みに喉を鳴らす。
ハバナでは大通りから軒先まで街中至る所にマンゴーの木があり、旬になれば無造作に鈴なりの豊作を迎える。マンゴーは一つ一つ丁寧に育てる高級品だと思っていたので、採りきれない実が道にぼとぼと落ちている姿に驚いた。大きな木になると4階建の屋根より背が高く、千を超える赤い実を付けた姿は壮観だ。
果物が豊富なキューバでも、肉厚でたっぷり甘いマンゴーは人気者、かつ、とても身近な存在だ。この親しみ湧く果物、日本でいうところの何かな、などと暑さに火照りつつ考える。そうだ、柿だ。庭先に植わるほど身近で、実ると季節を感じる嬉しい果物。それぞれの国で食べ継がれた柿とマンゴー。
果物としては全然違うけど、存在感が妙に似ている二つの存在が、私たちの文化の近いところと遠いところを甘く伝えるアイコンに思えた。