講義レポート

【公開討論会】Creative City Session from UR 〜開催レポート (後編)

登壇者:山崎満広(オレゴン州ポートランド市開発局 国際事業開発オフィサー)林厚見(SPEAC 共同代表 / 東京R不動産ディレクター) × 黒崎輝男(COMMUNE246プロデューサー・自由大学創立者) 司会:三井禎幸(From UR)

世界中で現在、いかに市民を巻き込み、創造的に都市を組立てて行くのか、という課題が行政や企業にあります。消費社会の次にくる“新しい都市像”をどのように描いて行くのか? クリエイティブクラスをどのように集めて行くのか? それは、ヒューマンで個人が活かされるコミュニティをどのように形成するかに懸かっています。表参道COMMUNE246内にあり、既成概念に囚われない学びの場をつくっている自由大学。2015年10月28-29日にポートランドのまちづくりから学ぶ「Creative City Labー創造的都市をどう作って行くのか」という講義を2日間、全5回で開催しました。今回は
【公開討論会】Creative City Session from UR 〜開催レポート (後編)をお送りします。

ポートランドと、都市の実験場である表参道COMMUNE246
「身内がポートランドに在住している関係で、足掛け40年ほど通っている。」という黒崎氏。PDCと民間ディベロッパーが共同で再開発したパール地区の事例を引き合いに、「古いものをリノベーションしたり、新しいものをつくったり、多様なものをミックスさせるバランスがうまい。」と分析します。

また、市内に全米一番といわれている600台以上あるフードカート・カルチャーや、300種類以上の自家醸造ビールが飲めるブリュワリー、街中で頻繁に行われるイベントやフェスティバル、宿泊者以外がミーティングやチルアウトスペースとして利用するエースホテル1階のラウンジにも触れながら、ポートランド文化の多様性の魅力を伝えました。

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会場となったCOMMUNE246の総合プロデュースを手がける黒崎輝男氏

これらポートランドの良い部分を取り入れながら、独自性を出して作り上げたのが、本討論会の会場となったCOMMUNE246です。URはまちづくり用地の暫定利用のために、この場所の事業者を公募しました。そして黒崎氏のプロデュースの元、コンテンツ企画、ランドスケープ、建築、運営、コミュニティ形成、情報発信など包括的に展開。一つの世界観でハードからソフトまでを一手に行っています。「都市の実験をしよう」というコンセプトを共有する建築家やデザイナー、出店者がアイデアを出し合いながら主体的に関わっています。敷地内にある「自由大学」も、黒崎氏の実験の一つ。ナイキ、アップル、グーグルが本社のことを「キャンパス」と呼ぶことに着眼して、「企業の本質というのは、時代に応じて学び続けるという過程で事業が大きくなっていくのではないか」と説き、学びたいときに学べる場を用意したのだと語ります。

街の未来に貢献する一般市民の存在
東京R不動産の取り組みは、既存の物件の価値に再注目するという点で、古い倉庫街を改装して新たな価値をつくり出たパール地区を想起させます。そんなR不動産の林氏に対して、UR三井氏は「ポートランドではなぜうまくいっているのだろうか?」との質問を投げかけました。

林氏は「もともと自然が素晴らしく、街の中心を川が流れ、海が近いから物流が有利。林業、半導体産業が発展した反面、環境が悪くなった状況を市民の間で自分事として共有できたのが転機となったのではないか。そして、ここから環境都市的なベクトルができて、これが2010年ごろからの時代の課題と、ファッション的な意味も含めた価値観とが合致したことで、これだけ注目されることになったのではないか。」と仮説を立てました。ただ、「ポートランドの事例は、まねできるものではないし、まねするものでもない。まちづくりというのは、そこにある固有のリソースを活かすもの。」と冷静です。

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SPEAC 共同代表 / 東京R不動産ディレクターの林厚見氏(写真中)

山崎氏は林氏の意見に同意しながら「核となるリーダー」「肥大化していくサンフランシスコに対して、街を小さいままにする努力」「ビジネスセンスをもった一般市民」の存在を強調します。例えば、1エーカーの土地ひとつ売る場合でも、売却先がどのくらい街に貢献して社会的な価値を生み出すのか、PDCの審査委員会で議論されます。市長から任命された“一般市民”の役員は、普段はゼネコンや銀行、ディベロッパーのトップなどのビジネスのプロたちで構成されています。

PDCが公園の活用指導をしたのが、街のリビングルーム”と称されるポートランド市中心街にある「パイオニア・コートハウス・スクエア」です。所有権は市にありますが、運営を任された財団が使用権を100%持っています。様々な企業から使用料をとって、年間300以上のイベントを開催し、その利益の一部を市に還元しています。アルコールの販売など、行政が立場上判断の難しい領域をアウトソースする事で街ににぎわいをもたらす企画を実現しやすくし、雇用も創出しています。

前日の強風でテントが破損したハプニングを乗り越えて、秋空を満喫しながらの討論会となりました

前日の強風でテントが破損したハプニングを乗り越えて、秋空を満喫しながらの討論会となりました

「ゆるさ」「いい加減さ」「曖昧さ」がクリエイティビティを促進させる
まちづくりの合意形成において、100%の正解はない。日本にはクリエイティビティがないわけではないが、あまりにもルールやミッションを遵守して、いかにキレイに、合理的に、どうやったらテクニック的に成功できるか、一つの側面からしか物事を捉えていないのが問題ではないか。例えば、最近だとすぐに『コワーキングスペースをつくろう』という話になるが、そもそも『働く』ってどういうことなんだろう?と考えてみる。本質を捉えるために動詞から考察してみる。“何が問題か?”を問うこと。それが自由大学のテーマであり、クリエイティブになるために必要な要素。」と黒崎氏は唱える。

山崎氏とPlaceのアーバンデザイナー達と共に、異なる視点を持った市民同士の対話を促すワークショップも実施

山崎氏とPlaceのアーバンデザイナー達と共に、異なる視点を持った市民同士の対話を促すワークショップも実施

発想の転換については林氏も「新築物件で建具の不具合が少しあるだけで気になるが、中古物件を多く扱うR不動産では経年変化が魅力であって、建具の不具合は物件の“味”と捉えて価値観を共有している。そのため、理不尽な要求をしてくる“モンスター”が現れにくい。」と言います。山崎氏は「組織の属性を示すスーツ、名刺、100%合意形成するための根回しなど形骸化したものにこだわるのではなく、正解、不正解で対立しない本質的なディスカッションを駆り立たせるファシリテーターが必要。対立意見を乗り越えるアイデアを絞り出すのがクリエイティビティなのではないか。」と説きました。この日の午後に行われたワークショップは、山崎氏やPlaceのメンバーがファシリテーターとなり、立場や利害を超えて街の未来を議論し、合意形成をはかるコミュニケーション・デザインを体験するものでした。

公的な主体が街づくりの中でクリエイティビティをあげるために何が出来るか
ポートランドでは、”KEEP PORTLAND WEIRD(風変わりのポートランドで在り続けよう)” という市民が掲げたスローガンがあります。「キレイで合理的に管理・整備されすぎるとヤバい、という価値観が市民の根底にある。」(黒崎氏)しかも「市民が“風変わりである事”を求めているからという理由で、街のトップが受け入れる。」(山崎氏)という非常にシンプルで民主的なロジックが成り立っているのがすごい。ホームレスの人々が快適で人間らしく過ごせるようなサポートを市民が運営しているのも、ポートランドらしさを象徴しています。だから、全米中のホームレスが住みやすいポートランドを目指して集まってくる、なんて冗談も飛び出しました。

スポーツのように「健全に戦う=よい議論」し、人間らしい「いい加減さ」や「曖昧さ」を許容しながら個人の意見や力をうまく引き出す仕組みが、いま求められている。三井氏は、「社会全体をいきなり変えることは無理かもしれないが、ネイバーフッド単位で取り組めば可能性があるのではないか。」と討論を締めくくりました。

【公開討論会】Creative City Session from UR 〜開催レポート (前半)

テキスト:星野陽介 岡島悦代(自由大学)



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