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やっさん、と呼ばれる男|FLY_005

大学教員が「自由大学」で学ぶワケ

やっさん(教育学部准教授)1973年生まれ。自由大学では、「キャンプin仙台」「日本酒+日本ワインスペシャル」「インドに学ぶスパイス学(初級)」「#DIY実験室」「ファンタスティック古事記」「石巻・雄勝硯ツーリズム」「20年履ける靴に育てる」「ワールド宗教学」「苔に学ぶ」「アイデアスケッチ・デイズ」を受講。ドイツ人研究者に師事したドイツでの研究者生活は、およそ9年間に及んだ。次なる職場を欧州で模索していた中、一通のメールに目が留まる。それは母国・日本、震災後の仙台から届いた求職案内だった。将来の勤務地になるかもしれない被災地・仙台を体験するために受講したのが「キャンプin仙台」。以降、自由大学のさまざまな講義を受講しては“新たな学びのカタチ”に繰り返し触れ、そのエッセンスをアカデミックな教育の場に取り入れる“やっさん”に、ここまでのチャレンジについて振り返ってもらった。


 

ドイツから「キャンプin仙台」に参加した経緯って?

ドイツでの暮らしが長くなり、日本のコミュニティとの関係がとても希薄になっていました。だから、長らく離れていた日本の現状にとても興味があったし、2011年の東日本大震災後、東北の様子も知りたかった。

そんな中、2泊3日という短期間で“ボランティアや単なる消費ツアーとは異なる、地域体験的な関わり方”をできる場が仙台の沿岸部(荒浜地区)にあることを知ったんです。日本で仕事復帰する準備として一時帰国していた自分としては、長い時間滞在することはできないし、体力や装備などの準備が難しかったため、最も良い方法で仙台の被災地を体験できました。

ドイツにいた時から「自由大学」を知っていたの?

そう、もともと自由大学というものにとても興味があり、ドイツからたまにホームページを覗いていました。きっかけは知人のFacebookシェア。学問・研究の現場に立つ身としてはとても成立しなさそうなものが「○○学」として講義化されている(笑)これがとても新鮮だったんです。

ぼくが暮らしていたドイツでは、いわゆる市民大学(Volkshochschule)というものが本当に盛んで、そこでは老若男女が集い、隣国の言葉や地元の歴史を学ぶことができ、とても楽しい。きっとそういう「学びの場」に近いんだろうなとは想像していました。堅い言葉で言うと、生涯学習というジャンルになるのかな。

研究職である自分にとって、そしてこれから教育の場に関わる自分にとっても、“新たな学びのカタチ”が重要なテーマになっていたので、これはきっと参考になるだろうと考えたのです。

「キャンプin仙台」に参加してみて、どんなことを感じた?

長らく日本というコミュニティから遠ざかっていた自分が“再び仲間に入れてもらう”ということ、そしてその結果新しい繋がりを得るにはどうすればよいか、ということを考えていました。

初めての仙台、初めての被災地。期待と緊張をもちながら荒浜のキャンプ地に着いた時に出迎えてくれたのが、リーダーの大内征さん。久しぶりに見る“日本にいる日本人”でしたね(笑)

被災地という難しい場で、場づくりや状況設定を行っている姿に、とても好感のもてるリーダーシップを感じたんです。言葉づかい、仕草、レクチャーの始め方・・・以降、何度も会うことになるのですが、その度に“観察”しています(笑)

リーダーシップって、難しいよね

そう、難しい。自分がやがてこの地に来て大学教員になるにあたって、学生たちにリーダーシップについて伝えていくような場がきっとある。自分にとって必要なこと、ひとつのお手本となるところが随所にあって、その意味でも「キャンプin仙台」に参加してよかったと思っています。

ある意味、自分はずーっと“自分の考え方”に捉われていたんですよね。「こうしなければならない」だったり、「こうあるべきだ」というガッチリしたレールのようなものを作って、子どものころから目的地に最短距離で到達するようなことばかりを考えていました。

捉われていた自分から、どう脱したの?

欧州で“自分のレール”が消滅し、縁があって奥州へ来た。仙台の被災地で出会った他のスタッフや参加者の姿からも、いわゆるボランティアではなくても「こういう関わり方でもいいんだ」という気持ちになった。

ドイツで長過ぎる冒険をしたぼくは、これまでの最短距離の人生は諦めざるを得なくなったため、“仕方なく”レールのない新しいチャレンジに向けた準備とささやかな行動に移ったんです。そしたら、仙台の職が決まった。いろんなことが、意外とできた。自分を縛りつけていた道がなくなったけど、振り返ったら、自分で歩いてみた所が道として出来上がっているように思えた。

不思議なことに、“仕方なく”歩いた道で見たことのない自分を発見し、そんな“彼”を案外と面白がっている“自分”がいる。その内に段々と、“自分”が“彼”に近づいていって、引っ張り込まれるようにして世界観が拡がってゆく感覚になりました。

帰国して東京で受講した「ファンタスティック古事記」の小出一冨さんとの出会いは、捉われない生き方をせざるを得なくなった自分を、力強く肯定してくれた気がしています。小出さんにはたくさんの顔があって、ひとつのことに捉われていない生き方をしている。「あ、このやり方でもいいんだ!」と思えたことに、勝手に感謝しています(笑)

【取材後記】ちょっとお堅いイメージのある教育現場で、自由大学で感じ、体験したことを大切にしながら、授業の進め方や学生との付き合いに応用しているというやっさん。折よく学園祭のキャンパスでの取材でしたが、やっさんの研究室には和気あいあいとしながら真剣に研究で居残る学生の姿があり、良い雰囲気を作っているなぁと感じました。大学教員としての実績がない中で、いきなり准教授として迎えられたことは、かなり例外的なことらしいです。捉われない生き方にシフトして得た新天地で、どんな若きリーダーを育てるのか、楽しみです。

(取材・文・写真:フリユニピープル編集部)


 

FLY(フライ)は、自由大学の卒業生が登場するインタビューコーナー。自由大学に通い、新しく見つけた自分の姿。卒業して、踏み出した一歩は小さくても確かな手応えをもって、新しい日常の扉を押し広げます。卒業生&受講生が体験した、自分らしい転換期の話をお届けします。



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