春が来ると思い出します。学生の頃、私は筆箱が好きで、新学年を迎えると新しいものに変える習慣がありました。しっかり一年使い切ったら、古いものを捨てて新しいものを選ぶ。リフレッシュした気持ちになったものでした。大人になると、それが大好きな靴に変わりました。レディースは流行りもありますし、カラフルでとっても可愛い。好きなものは頻繁に履いてしまうので、ヒールの修理などをしながら履いていました。が、それも次第にクタクタになり、新品の頃の鮮やかさが褪せてきたら、さようなら。靴だけでなく、さまざまなモノについても、そんな風につきあっていたように思います。愛情表現は、しっかりたっぷり使い切ること、でした。
しかし、ある靴磨き職人と出会ったことをきっかけに、そんな私の考え方が変わっていくことになるのです。それは、本当に偶然の出会いでした。そこから始まるさまざまな人とのつながりの末に「20年履ける靴に育てる」という講義のキュレーターになりました。実のところ、はじめはそこまで特別な思いがあったわけではありません。靴が好きだし綺麗になったら気持ちがいいなというくらいの、そんなささいな理由で始まったのです。
講義を通して老若男女さまざまな受講生のみなさんと出会い、それぞれに思いの詰まった靴たちと触れ合っていくうち、そして“その子”たちが、彼らの手によって次々に艶々と輝く姿を見せてくれたことで、喜びと幸福感を感じるようになりました。傷があっても色褪せても、ケアすることでいい具合に輝きを取り戻せる、なにより私に馴染んでくれる革が大好きになりました。うちの子が一番可愛い。そんな気分で足元を見てはにやにやしています。
あらためて昔の自分を振り返ると、大好きだと言いながら使い捨て、心から大切にしていなかったなと反省するのです。革の手入れをした夜は、自分の肌も愛しくなります。乾燥しているときにはいつもより多めに化粧水を。足先から顔まで、いつも輝いていたいものです。最近は肌を褒められると、大切にしていますと答えています。ちゃんと手をかけてあげれば輝くことを私は靴磨きから学びました。
好きだから、大切にする。身近にあるものや人ときちんと向き合い、出来るだけシンプルに、丁寧に暮らしていきたいと思っています。本当に不思議ですが、ちゃんと愛せるようになったらしっかり愛されるようになりました。
(担当講義:20年履ける靴に育てる)