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自由を求めて“書”向き合い続けるアーティスト、万美さん。書道界を飛び出し、伝統と創造の中でボーダレスに飛躍し続ける彼女の目には今、なにが映っているのでしょうか。東京の街で活躍の場を広げる先鋭的な書道家にインタビューをした。

 

プロフィール

書道家 万美 / Calligrapher MAMI
HIP HOPカルチャーのひとつ、グラフィティを書道と同じ視覚的言語芸術と捉えた“Calligraf2ity”を見出す。 個展やパフォーマンス、作品展示は日本をはじめ、 アジア・ヨーロッパ・アメリカ・オーストラリア等でも Calligraf2ityを表現している。
official web:www.66mami66.com

Instagram:https://www.instagram.com/66mami66/

【自分の好きな空間で、好きな表現をしたい】

ーー書道 (Calligraphy) とグラフィティ (Graffiti) の“2”つのカルチャーを融合させた新しい分野、“Calligraf2ity”をつくり上げ、日本の伝統とHIP HOP文化の可能性を追求する万美さん。どこで自分のスタイルを確立したのですか?

そもそも初めて習字に出会ったのは、小学校3年生の2学期。お習字の授業で書道用具が配られて、そのときに初めて筆を持ったんです。いまでもその「ワクワク感」が忘れられないくらい、当時は衝撃的でした。書道を始めてからは、「周りの子に負けられない」「みんなに追いつきたい」と思って誰よりも努力しましたね。書道家になると決めたのは高校2年生の時です。

当時から書道に没頭していたのと同じくらい、HIP HOPが好きだったんです。18歳で上京するまで、ネットで好きなラッパーの映像をずっと見てたり、渋谷のクラブのDJを調べたり。上京してから、クラブに通うようになったんだけど、自分の目の前で自己表現をしているラッパーやDJを見て、羨ましいなあって。自分の好きな空間で、好きな表現をやっているから。客としてお金を払って酔っ払って帰って。それが続いて、私も何かしたいと思うようになりました。

当時「ライブペイント」が根付き始めた頃だったから波に乗ったら面白そうだなと思って。クラブイベントでラッパーやDJと書道をコラボし始めました。そこからだんだんオファーがくるようになったんです。

CHROME LIVE@恵比寿Liquid Room 2016

 

ーー書道は日本の伝統文化というイメージが強く、都会のクラブ文化となかなか結びつきにくいですよね。苦労もしましたか?

クラブで仕事を始めた当時は悔しさのほうが勝っていました。書いても書いても、なんかダサい。最初は墨で書いていたんですが、クラブとは合わないなって思って、途中でペンキに変えたら、HIP HOPと少しずつ融合していきました。新しいジャンルを切り開く時にはかならず苦労が付きまといますよね。それも楽しかったり!

 

ーー「伝統を守ること」と「新しい創造をすること」のバランスがとても難しいですよね。

書の命は“字”。だからわたしは、字が変じゃなければいいと思っています。本質の「型」さえ見失わなければ、どんな色でも、どんな場所でもチャレンジしていきたいなって。だって、伝統と言われる書道も、時代の流れで進化してきたんです。「あれは書道じゃない」とか「異端だ」とか言われても、伝統を後世に残したいからこそ、創造し続けないといけないと思っています。自由がなければ、伝統は進化しないから。

CHROME LIVE@恵比寿Liquid Room 2016

【自由ってなに?「自由は、責任だ。」】

ーー自由だからこそ、伝統が残るんですね。でも、書道がないカルチャーの中でやっていくことは、その道にいる以上に責任感が伴うのではないでしょうか?

そうですね。自由って責任だと思うんです。昔、師匠のところに弟子入りしていた時代もあったのですが、その時のミスは、師匠の責任になる。とても堅苦しいけど、ある意味守ってくれていたんです。

でもわたしにはそんな環境が合わずに、書の正統な世界を諦めてしまいました。「まだ半人前なんだから勝手にやるな」って言われて。わたしは、それがよくわからなかったんです。書道は大好きだったけど、身内ノリも嫌だし書道の世界をもっともっと自由な世界にしたかったから。

今は師匠もいない分、直接ぜんぶ自分に返ってくる。書道がないところで生きているから、全部自分の好きなように自由に書けるんだけど、逆に、書の基本である「型」を間違えても「これが書道なんだ」って思われちゃう。だからこそ責任感があると思っています。

ーーアートはひとを解放する力があると思うんです。万美さんは、書を書いているときに「自由だな」って思いますか?

そう思われがちだけど、実際は「うまく書くぞー」って感じで必死(笑)。書き始めたら「うまくいきますように……」って祈りながらやっていますね。普段自由だなって感じるときは、仕事が思うようにできているときかな。自分でやりたい仕事を「選択」したり「決断」したりするとき。わたしは負けん気が強いから、責任は引き受けつつ、自分がやりたいことは最大限やっていきたい!

 

ーー万美さんにとっての今後の目標はなんでしょうか。
昔は「好きなことで生計を立てたい!」というハングリー精神の塊だったけど、ここ3年はおかげさまで書道だけで生活できているんです。本当に奇跡だと思います。最近は、個人という小さなレベルじゃなく、地球という大きな規模で、自分の目標を考えるようになりました。

いきなり大きな話になるけど、わたしの理想は「世界平和」かな。まずは今年の4月に最貧国と言われている国のひとつマラウイに行って支援できることを考えたいと思っています。私の中にハングリー星人が現れたのかな(笑)。みんなの命が続き、やりがいのある仕事に就けるなら地球に住む人々がが少しハッピーになれると思う。

あと、前にメルカリの本社でパフォーマンスをしたときに、大好きなラッパー、ケンドリック・ラマーのDAMNを流して、すごく評判がよかったんです。いつかは本人とコラボしたいな…(笑)。他にも、東京オリンピックでパフォーマンスしてみたいと思ったり、目標は絶えません!

 

大きな理想を掲げ、書道の可能性を広げる万美。そんな彼女から次のゲストへの問いは、「アートは人を自由にするか?」。日々の連続性としての日常からの解放するアート、現実を超える経験へと誘うアートは、どんな可能性を秘めているのでしょうか



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