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この場所で日本茶と「再会」しよう

FLY_058|小山和裕さん/UNI STAND店長

2016年春、井の頭公園のすぐとなりに日本茶スタンド ”UNI STAND” をオープンした小山和裕さんにお話をうかがいました。小山さんは講義『日本茶、コトはじめ』の一期生。誰もが一度は口にしたことがある「日本茶」。しかし、日本茶というものを意識して味わった経験はそう多くもない気がします。なぜ今、日本茶なのか。あらためて日本茶を知り、考える機会となるお話です。


日本茶メインのドリンクスタンドというのは珍しいですが、オープン前も日本茶に関する仕事をされていたのでしょうか。

飲食業界に入って6年ぐらい経ちますが、日本茶の魅力を知ったのは少しあとになってからで、最初はコーヒーでした。実は自由大学を知ったきっかけも『TOKYOコーヒーライフ』からなんです。ただ、タイミング悪く締め切られたあとだったので、そのとき募集していた『日本茶、コトはじめ』に参加しました。たまたま一期生だったこともあり、自由にやらせてもらったと感じています。受講時は、お茶の知識はほとんどなく、産地がどう、味の違いは、など語れるほど詳しくなかったですね。

同期は8人いましたが、お茶への知識や関係もバラバラで、飲料メーカーの人もいれば、僕のようにカフェを開きたいとか、仕事とは関係なく、趣味でお茶を勉強したいと思って参加したとか。いまや売れっ子和菓子ユニットの『ユイミコ』さんも同期なんです。当時はまだ露出もさほどされてなくて、「和菓子と日本茶を出したい」と話されていたのを覚えています。


茶葉や関連商品の販売や講座を開くなど、日本茶を扱う仕事はいろいろ考えられると思うのですが、どうして日本茶スタンドを選んだんですか?

もともと「場」に興味がありましたが、そのきっかけとなったのが、大学時代にロスに1か月ほど滞在したときの体験でした。スターバックスにいたんですが、グランデサイズのカップを持ったホームレスが入ってきたんです。日本だったらちょっとギョッとしてしまう場面ですよね。でも店員さんはいつものこと、という感じでカップを受け取り、水を入れて笑顔で渡してあげていたんです。他の店員さんも、現地のお客さんもそれを日常のワンシーンとして捉えていて、衝撃を受けました。人が集まるコミュニティの魅力や価値を感じたきっかけです。もともと僕は警察官になりたいと思っていて、大学も法学部に入って勉強していたんですが、ちょうど「コミュニティー(場)の大切さ」を感じていたときだったので、自分のやりたいことに出会ったという気持ちになりました。その後、人で賑わっているカフェとか居酒屋とかをたくさん見ていきましたが、店主や店員さんが魅力的なお店が多いという印象を持ちました。そのうち、自分もカウンターの向こう側に入りたいと興味が高まっていきました。

ただ、この店に至るまでには紆余曲折ありました。新卒で入った会社はミスマッチを感じて半年ほどで退職することになり、その後イタリアンレストランで働き始めました。大学時代は飲食店でのバイトもしたことがなかったので、飲食の現場で働くスタートはここからです。バリスタの業務もあったのですが、キッチンでパスタをひたすら作っていました。最終的にはバリスタ業務もこなせるようになり、ここでコーヒーの技術を身につけることができました。

将来的に自分のお店を開きたいという希望があったので、そこで2年ほど働いている間にカフェめぐりなどをして、店主さんにお話を聞いたりもしていました。最初にお話したとおりに、まず興味を持ったのはコーヒーだったんです。ブラックのコーヒーも飲めなかった自分が、ラテアートなどを出しているお店で「これは飲める」と感じたのがきっかけです。そこからコーヒーだけじゃなくて、コーヒーを出すお店の空間などにも注目するようになりました。


そこから日本茶へ興味を持ち始めるきっかけはなんだったのでしょうか?

コーヒー屋巡りから始まったカフェ巡りでしたが、ある日、雑誌で日本茶特集を目にして表参道にある『茶茶の間』を知りました。お店に行って出された日本茶を飲んで驚いたんです。自分が今まで飲んでいた「お茶」とぜんぜん違うって。ただ、その時は「”日本茶”も面白いな」と思っただけで、すぐに日本茶への道を進んだわけではありませんでした。

その当時、今でいう日本茶カフェはほとんどありませんでした。和風カフェで出される抹茶スイーツなどの付属品のようなお茶しかなかったんです。茶葉で出されてもほとんどがセルフだったため、「これって本当にこのお茶の味なのかな?」と感じることが多かったです。

あるとき、行きつけのカフェで日本茶に興味があることを話したら、煎茶道の先生が開いているカフェを教えてもらいました。そこで日本茶を飲んで改めて「何だこの味は」と思ったんです。美味しいんですが、『茶茶の間』で飲んだ日本茶とは淹れ方は似ているのに、ぜんぜん違ったんです。お話を聞いてみたら、その先生のお店では京都の茶葉を使っていて、『茶茶の間』は静岡の茶葉をメインに使っていたんです。産地でこんなに差があるんだと驚いたのと同時に、こんな情報を知るきっかけもないなと思ったことを覚えています。


確かに日本茶を飲む機会はありますが、「自分は日本茶を飲んでいる」という意識はほとんどないですね。これはどこの茶葉だろうと知りたいと思ったこともなかった気がします。

知識をつけたいと思っても、当時はいわゆる茶道を除くと講座やイベントもほとんどなくて。日本茶の入れ方講座とかワークショップ、お茶会のようなものに参加していました。当時僕は24、5歳だったんですが参加した講座などで常に最年少でしたね。他の参加者は中高年か、若くても30代ぐらい。そのとき、お茶の業界は「これから」なんだと感じました。コーヒーはその頃、すでにある程度成熟しつつあるというか、バリスタ講座に10代の子が参加していたりするんです。『ONIBUS COFFEE』の坂尾篤史さんを始め、海外での経験を生かしてロースターとしてお店を開く方々などが出てきたタイミングだったので、正直ここからコーヒー業界に参入しても厳しいなと感じました。それに対してお茶はほんとうにこれから、というか、始まってもいない。何十年も変わっていない業界で、そこも魅力を感じました。同時にこのままだと衰退していく業界だというのも感じました。

 

衰退していくことを象徴とする体験を、イタリアンレストランの次に働いた、日暮里の谷中銀座にあった日本茶カフェで経験しました。この日本茶カフェは、100年続くお茶屋が直営しているお店だったのですが、谷中銀座にあるお店なので、歩き疲れてふらっと来る観光のお客さんが多かったんですが、メニューを見て「コーヒーないんだ」って言って帰ってしまったんですね。しかもそれが週に1回ぐらいあったんです。「じゃあお茶を飲もうか」ともならないんだと。飲食店で、お店に一度入って帰ることってなかなかないじゃないですか。そこでお客様の日本茶への意識というか、感覚を知りましたね。ひらたく言ってしまうとお金を払う価値を感じない人もいるんだと。ただ、売る側にも「お茶は安いもの」「タダで提供するもの」という意識もあって、喫茶店や居酒屋で、入店してすぐや食事後に出てくるお水のような存在として見られている節もあります。

谷中のお店のあと、ご縁をいただき『茶茶の間』で働かせていただきつつ、自分のオンラインショップを運営し、お茶のイベントなどを企画したりフリーでの活動もしていました。その時知り合った方から、ご紹介いただき、UNI STANDの運営と日本茶のプロデュースをさせていただくこととなりました。

写真のほうじ茶オレをはじめ、すべて単一の茶農家さんから仕入れている、様々なシングルオリジンの茶葉を味わうことができる

 

 

小山さんが今後取り組んでいきたいことを教えてください

日本茶には、コーヒーで言う「バリスタ」という存在がいないなと思っているんです。技術だけでなく、知識やサービス性を持っている人が少ないように感じます。だからバリスタのように、技術と知識とサービスを持ったお茶の「淹れ手」が増えるといいなと思っています。この言葉自体、お茶屋さんとか産地の方とか業界の人も発想がないようでもったいないと感じています。

たとえば、好みはありますが、チョコケーキを頼まれた時「この煎茶と一緒に召し上がると、よりチョコレートの香りを引き立たせ、クリームの油っぽさを洗い流してくれます」と紹介するように、一緒に召し上がるものに合わせて、お茶や淹れ方などを提案できれば、飲む側もお茶に意識が行くと思うんです。その積み重ねでお客様の裾野も広がると思いますし、商売で言えば売上につながるわけじゃないですか。茶業の方はよく、「お茶にお金払ってくれないでしょ」って感覚を持っているんですよね。でも普段ペットボトルのお茶を買うじゃないですか。その延長で、店側がきちんとした価値を一杯に淹れてご提供すれば、「お金を払って美味しいお茶を飲む」という感覚がお客様に生まれると思っています。それには提供側の意識変化も不可欠で、対価に見合う品質や淹れ方、知識も必要になってきます。

 

UNI STANDはオープンから1年半ほど経ちました。最初はコーヒースタンドの印象が強いお店でしたが、最近は日本茶のお店として、雑誌などにも紹介していただくようになり、今では日本茶とコーヒーの割合が8:2ぐらいと、日本茶を頼まれる方がほとんどとなりました。
今は僕が一人でお店を回している状況ですが、徐々に日本茶の「淹れ手」を増やす活動も行なっていきたいと思っています。日本茶を意識して飲んでこなかった人が、日本茶を通じて何かに気づくきっかけになれればと、日々淹れ手としてお店に立ち続けています。

 

最後に、小山さんにとって『自由』とはなんでしょうか

熱量のある自己表現ができることですかね。僕はお茶を淹れていることも、一つの「表現」だと思っています。ただ、飲んだ方がどう感じるのか、どう思ったのかは、その方に委ねるようにしています。淹れたお茶の味や香り、空間や時間から、飲んだ方が何かを感じ、何かに気づいてもらえれば嬉しいですし、それが淹れ手として「自由に表現できること」だと思っています。

そして、それが誰かの「自由」への気づきになればさらに嬉しいですね。

 

・プロフィール
小山和裕(こやまかずひろ)
茶リスタ/フードクリエイターMo:take ドリンクコーディネイター/UNI STAND店主
1987年生まれ。業務用冷蔵庫の営業、イタリアンレストラン勤務、都内の日本茶カフェ勤務を経てフリーに。日本茶イベントの企画・運営・マネジメント等を行う。2016年3月吉祥寺の日本茶とコーヒーのお店「UNI STAND」をオープン。

小山さんが受講した講義:『日本茶、コトはじめ』『TOKYOコーヒーライフ

文・撮影:むらかみみさと(ORDINARY



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